ENo.2827 篠崎蘭

グリマス。面白い生物にあった。
その構造や力もそうだが、彼女の出身もまた奇怪だ。
世界にはやはり、私の知らない物があまりにも多い。

彼女は私の好奇心をかき立てる。また会いたいものだ。

それに、なかなか、可愛らしい性格をしていた。
彼女が彼女なりに、何かしらの答えに至る過程を、観察したいと思う。

それこそ、観測機を忍ばせておけばよかったか。

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（前回の日記から）

篠崎三十四番は、問う。
「彼女の存在意義は、社会性の確立であり、社会貢献を目標にすることでそれを成し遂げています。
そこで疑問に感じました、私の、存在意義は何でしょうか。
また、マスターは自己の存在意義を、何と認めているのでしょうか」

彼女は私に問う。
篠崎四十六番は、三十四番の後に稼働した後継機であり、後継機が成功を収めたことに、嫉妬しているのだろう。可愛いやつだ。
当然、後に作られた物の方が、使われている技術水準も高い。
故に、三十四番では、確かに四十六番の成した成功を、同じようにこなすことは出来ないだろう。それ故の嫉妬だろうか。

「さよ。まずお前は、存在意義という言葉の定義が、曖昧だ。
　まず、それがとても主観的なものであることを、お前は認識しなければいけない。
　私がお前達を作る意図は、それが即ち存在異義ではないし、私が設定した目標も、それは存在意義ではない。
　私は、しろ（四十六番）に、確かに彼女が、自分の存在意義を、社会の貢献であるように設定した。だが、私にとっての彼女の存在意義は、それは、私の技術がどこまで通用するか、のテストでしかない。
　そこに、彼女にとっての存在意義と、私が彼女に求める存在意義が異なることを認識しなさい」

「分かりました。
　では、マスターが私に求める存在意義は何でしょうか」

「それは、複数ある。
　まず、しろについてもそうだが、私は全ての制作物の、活動ログを残している。どういった行動をするか、どういったことを思考するか、どういった変化が起きるかを全て記録している。そのデータを取るために、全ての作品は、存在しているだけで価値がある。
　また、お前は人間の本質的な機能を有し、再起動した初めの作品だ。それは、以前の私の目標であったし、お前の存在が私の技術に貢献していることは改めて言葉にしよう」

「ありがとうございます」

「そして、私が自身に認める存在意義は、無い。存在意義などなくても、私は存在する。存在意義などなくても、存在する目的はある。目的と意義の差異についての解説は必要か？」

「いえ、必要ありません」

「そうか。私の目的は、ただ楽しむことだ。それだけでいい。最大限、楽しむことだけが、私の全てだ」

「そうですか。ありがとうございます。
　それでは、私は私の存在意義を、何と認めればいいでしょう」

さよは、私を真っ直ぐに見つめる。彼女は常に正直だ。

「しろは、特別な目的があって存在意義が設定された。設計段階で、耐久性やメンテナンス性、コストパフォーマンスなどが悪化してでも、人間の肌に近づけた。外見、手触り、臭いなど。それが必要だからだ。
　腕力についても、リミッタが掛かっている。あまりに腕力があるのは社会的に危険であるし、彼女の構造上、それに堪えられる組成をしていない。
　また、彼女は月経機能を持たせた。さよ、お前にも人の子を産める機能は実装してあるが、わざわざそのような機能は搭載していない。だが、彼女にはそれが必要だった。そういった要素が、彼女を人間社会に溶け込ませる迷彩となるからだ。
　それに、恐怖を与えた。人間から必要とされなければ不安になる、自分の在り処が明瞭でなければ怖い、という恐怖を予めインプットした。そうすることで、能動的に社会に溶け込めると判断したからだ。
　それ以外に多くの工夫を凝らしたが、そのようにして、彼女は存在意義を獲得した。正確に言えば、私は直接、存在意義は社会貢献だ、とインプットしたわけではない。私が、そのような存在意義を彼女が見いだせるように、誘導したのだ」

「はい。しろちゃんについての過程は、理解しました」

「それに比べ、さよ、お前の身体は、人間から逸脱している。そては容姿的な面もそうであるし、機能も、人間ではなし得ない腕力や、知覚能力、利便性がある。例えば、人間は首が取れれば死ぬが、お前は死なない。人間は、赤外線や紫外線を認知することも出来ないだろう」

「はい」

「それは、個としては、しろよりもお前の方が高性能である、ということだ。当然、社会生活を営む人間にとって、突出した個は受け入れない。それは、人間にとって化け物だからだ」

「はい」

「今までの話は、しかし忘れてくれても構わない。お前が、後継機のしろが成功を収めたことに嫉妬していると判断したので、ただ私はお前を褒めてやりたくなっただけだ」

「ありがとうございます。が、嫉妬などしていません」

「うん。そして、存在意義だが」

「はい」

「それについては、自分自身で決めなさい」