ENo.2728 ジョン・ゴンベエ・スミス

散歩に適した街、というのが世にはあると聞く。

偉大な文豪が住んでいたところはそうであることが多いらしい。散歩中には良いアイデアが浮かぶ、という話だ。
ま、貴方が散歩をしようと思ったら、自らの街がそうかどうかを考えるよりまず、外に出て足の向くまま歩いてみるといい。
散歩しがいのある街には条件が色々あるらしいが、まあ、そこまで深く考えて散歩するものでもないだろう。

……おっと、随分、思考が横道にズレていた。

そもそも頭を働かせるために始めた散歩が、いつの間にやらただの物見遊山になってしまっていたようだ。
エスタの街は古風な建物が多く、のんびりした感じで、散歩をするにはとてもいい。
いいはずだが、あまりにのんびりし過ぎて、ボーっととりとめもない考えの方が進んでしまう。

やっぱり、どんな街かよりもどんな奴かの方がアイデアの良し悪しには重要なのだろう……。

……、
…………。
………………。

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宿の一室。

『…………お前、自分が何なのか分かるか？』
『ハムスターよ』

ハムスターと俺がいた。

『……なんで、ここにいるんだ？』
『貴方がここに”置いた”んじゃない、ワタシに聞かないでよ』

このハムスターを俺は知っている。
先日戦い、勝ち、散々もふもふ……もとい、情報収集したハムスターだ。

『だって、おかしいだろ。お前は、お前は』
『ワタシは？』

だから俺は知っている。

『……お前は、生物だろう？』
『そうね。ちょっと大きいかもしれないけど、ハムスターだから』

俺はこいつが生物だと知っている。

『……こんなことは、出来ないはずだ』

俺は、俺の能力が生き物の「中身」を作れないことを知っている。

『そうなの？　ワタシはそんなことは知らなかったわ。アナタ、召喚士じゃないのかしら？』

俺は、今ここにいる「コレ」があの、あの時戦ったハムスターだと、知っている。

『……あれは、機械だ。性能を限りなく近づけた模造品で、生きてはいない』

俺は、自分が何をしてこれを作ったのか、知らない。

『そう。フシギなことが出来るのね』

…………俺は、俺は、

『……俺は、何をしたんだ？』
『知らないわ。……アナタが、それを一番知っているんじゃないの？』

―――――――――――――――――――

……そう言い残して直後、あれは消えた。
何も分からない。頭に何か焦げ付く。知覚の外にある事象に脳が苛立っている。
そのまま動かないでいることが出来ず、俺は気晴らしに散歩でもすることにしたのだった。

「結局、途中から思索を忘れて楽しんでしまったわけだが……」

むなしい独り言。そろそろ日も暮れるらしく、空は紅く、街の影が長くながく伸びている。

……ところで、『散歩には行き先があってはならない』という不文律がある。
当然俺はそれに従って俺は散歩をしたわけだが……

「さて、あと30分で集合場所へ辿り着けるか否か……」

その結果、この通り、道に迷っているのである。
もっと早くに地図を確認すれば問題無かっただろうが、もう遅い。俺の散歩ハートには火がついている。
こうなったら、絶対に地図を見ずに集合場所へと到着して見せる……！！

（※迷ったオーウェン君は2時間後、スタッフが無事送り届けました）

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簡易コンロのメモリを中火にセット、フライパンを火にかける。
フライパンの中には食べやすい大きさにカットしたその辺の野菜。
素材が焦げ付かないよう、たまに（あまり頻繁にやりすぎるのも駄目らしい。面倒なことだ）木べらでかき混ぜる。

「……ふむ、そろそろか？　しかし、狐ってどんくらい茶色かいまいち分かんないよな……」

時刻は真昼の12時。時計の針が3つともに天辺を指す時刻。
俺は昼食の作成がてら、料理の練習に勤しんでいた。
悪戦苦闘しつつも、今のところ目立った失敗はない、はず。

普段、料理をするのはてむてむとエリーゼの担当だ。
何故俺が二人の代わりにやっているか、といえば、必要に応じて、としか答えようが無い。
どんな必要が出たのか。それはまあ、はい、回想シーンスタートってことで。

そんなもん要らない？　いや、案外かき混ぜるだけなのも暇なもんでな。回想させてくれ。

・・・・・・・・・・

「我々には肉が必要だ、それも早急に」

……確かに。

「最近野菜と果物ばっかだし、そろそろ動物性たんぱく質が取りたいよな」

「……残念だが、君の期待に沿えそうな話ではないぞ？」

「食う以外に肉が必要って、どういうことだよ」

「食用ではなく、材料として必要なのだよ」

材料……ああ、へえ。珈琲豆とかぺんぺん草も武器の材料になるもんな。肉だってなってもおかしくないよな。
だが、残念なことに、この街で肉は売っていない。
最初に訪れたスティルフ、そして次に行くであろうオルゼでは売っているという話だが、歩いて二日ほどかかる距離だ。
『早急に』という条件は満たせそうにない。

「で、どうするんだ？　そう話題に出すくらいだから方法があるんだろ？」

「ああ、そうだ。……ゴンベエ、君に料理を覚えてもらいたい」

……料理？

「いや、別にいいが。料理を覚えると何故に肉に繋がるんだ？」

「Summon Beefだ。タダで材料が手に入るから凄く得なんだぞ」

……あれ、今回、そういう話ありなのか？　技名出していいのか？

「まあ、料理を6上げるだけでいいんだ。そう身構えなくていい。どうせ私が合成を上げるのだし」

おい、エリーゼ、急にメタ発言がなんかしてどうしたんだ。ちょっと休んだ方がいいんじゃないのか。

「リヴに覚えさせるのもいいんだが、技能が装飾だからな。平行してあげるのは厳しい」

私が召喚を上げる手もあるが……と、エリーゼ。
……駄目だ。よく分からないが、これは、不味い。
一刻も早くこのメタメタな会話を打ち切らねば、今までつけようとしていた設定的な整合性が無意味に成りかねない。

おい、誰だ、「今まで全然整合性付いてなかったろ、特に前回の日記」って言った奴は。俺か。俺だな。

「……ああ、分かった。OK、これでこの話題は打ち切りだぜ」

兎にも角にも俺は頷き、料理に励むこととなったのである。

・・・・・・・・・・

……そうこう回想している内に完成。

実食。

…………。

「……まあ、食べられないものではないな。後は練習あるのみだろう」
「右に同じ」

無難なコメントを頂いた。うむ。自分でも分かる、コメントに困る無難なお味。
まあ、訓練すれば上手くなる希望は残っているんだ。特に問題はない。

しかし、あれだな。野菜だけの野菜炒めは、むなしい。

一刻も早く、肉を手に入れるため、料理の練習を優先するとしよう。
暇な時にでも料理係の二人に教わるか、と、そういえば。

「なあ、お前らってどっちが料理してるんだ？」

ふと気になって聞いてみる。
イメージとしては（従者っぽく）てむてむが作っていそうだが、普段のてむてむは小動物。料理をするには些か無理がある。
かといってエリーゼが料理をする……これも想像し辛い。奴は自分が必要とすることはこなすが、それ以外の行動をしない。
自分が食う分を作るのは、まあ想像できるが、「ついでだからリヴィエラ達の分も」と多めに作る細やかさとは無縁のはずだ。

「ああ、てむてむに作らせているよ」

面倒だからな、とものぐさ星人が続ける。
となると、料理する時にはわざわざ人間モードになっているのか？　結構な魔力が必要だとか話していた気がするが。

「ふっふっふ、神を舐めるなよ。料理する程度、俺はこのままの姿で軽くこなせるぞ！」
「……へえ。いやまあ、疑うわけでもないが。ちょっと興味あるな、その光景」
「ふふーん！　いいだろう、特別に見せてやる！」

それじゃ、お手並み拝見。

〜〜〜美しい音楽を流してお待ちください〜〜〜

（てむてむ料理中・・・・・・）

〜〜〜「わあ、見てジョージ。綺麗な川！」「ハッハッハ、あれはセーヌ川って言うんだよハニー」〜〜〜

「どうだ！」

……………………。

「……見なきゃよかった」

概要三行。
１．てむてむの口に食材を入れる。
２．3分待つ。
３．口から戻すと出来上がり。

「……俺、料理頑張るよ。頑張って料理する」

……というかエリーゼ、よくこれを知ってて食べてたな！？