ENo.2352 レイジット・リーン

　何故かタルタスの街の近辺まで戻ってきてしまった私はとある少女につきまとわれる事となった。
「わしは華ノ弧という。おぬしに以前、空腹の所を救われた故、その恩返しをさせて貰う」
　そう言って、神楽河岸華ノ弧というその妖弧は私に付いてきた。
　それだけではなく、先日武器と防具を交換した於下仁とも同行する話になっていた。
「……いつの間に、こんな賑やかになったんだか……」
　私は思わず苦笑する。
　少し前まで一人で旅していたのが嘘のようであった。
「……こう言うのも悪くはないのかもしれない……」
　今までとは違う自らの環境に私は少し安堵した事に私は戸惑いを覚えていた。
「……私はこんなにも……」
　そして一人でないことに喜ぶ自分の弱さに私は改めて驚きながら震えていた。
「……強くなりたい……」
　私はその弱さを何故か許せなくて、いつの間にか力を願っていた。。
「……これ……は……な……に……？」
　そう思った瞬間、心の奥で一瞬何かがはじけた様な気がした。
　はじけたそれは私の心の奥でそのまま熱を持ったままくすぶっている様に感じられた。
　違和感と懐かしさの入り交じったそれに私は戸惑うのだった。
「どうしたのじゃ？」
　私の顔を覗き込む華ノ弧の言葉に私は現実に引き戻されたのだった。
「……いや、何でもない……」
　心の中を悟られぬ様、私は努めて平静を装い答えたのだった。

　§§§§§§§§§§§§§§§§

「……ッ！」
　私は唐突に久しぶりに泊まる宿のベッドから飛び起きた。
「……また……」
　最近どんどん眠りが浅くそして眠っている時間が少なくなっているように感じていた。
「……最近あの夢は見なくなった……けど……」
　最近見る事の増えていた悪夢を見る事は減っていたが、代わりに夢という物その物を見る事が減っていた。
　そして、眠るという好意をその身体が受け付けなくなっているようにも感じていた。
「……それでも寝ないわけにはいかないわよね……」
　私は無理にでも眠ろうと瞳を閉じるが一向に眠気はやってこなかった。
「……はぁ……」
　仕方無く私はベッドの脇の小さなテーブルの上でランタンに火をともす。
「……身体は疲れてるはずなのに何で……」
　ゆらゆらと揺れるランタンの炎を見つめながらいつ頃からこうなったのか考えはじめた。
「……そう言えばあの夢を見始めた頃からか……」
　毎夜のように見ていた悪夢、それが始まった頃から眠りが日々浅くなっていった様に感じられた。
「……あの夢と……関係がある……？」
　自分が自分でなくなっていくような夢の内容と、そして自らの身体の異変、その二つが重なり合って行くように感じていた。
　急に寒気がしたように感じた私はぎゅっと自らの身体を抱きしめた。

……
…………
………………
…………
……

　自らの身体を抱きしめた私の手に耳につけたイヤリングが当たった。
　私は何とはなしにそのイヤリングをその手で弄びながら、先日出会いイヤリングを直してくれた女性の事を思い出していた。
　「八代襲、か……」
　どこか自分と似たような雰囲気を持ったその女性の名前を何故か私は呟いていた
　話をした時間はそう長くはなく、それほどお互いの事を知ったわけではなかったがお互いに『自分の事を探している』と言う共通点があり、親近感のような物を覚えていたのだろうと思う。
　そんな中で襲と二人で料理をしあった事が鮮明に思い出されていた。
「また……いつか一緒に……」
　襲とその時にした『またいつか一緒に料理をしよう』という約束が何故かとても大事な事に感じられた。
「……今思うと、とても楽しかったな……」
　自分で発した呟きに、私自身も驚いた。
「……また、か……」
　何故かその言葉が今の私にとってはとても遠い物に感じられた。
　だが思いとは裏腹に生きていく為の行動が酷く辛く感じられた。
　例えば物を食べてもそれによって何かを感じる事が少なくなっている気がした。
「……まさか……ね……」
　そんな風に考えてしまった思いを振り切るようにふと窓を見ると、カーテンの隙間から光が差し込み始めいつの間にか夜が明け朝になろうとしていた。
「……結局……、また眠れなかったな……」
　私はため息と共に小さく呟くと、立ち上がりランタンの火を消したのだった。

−−−
今回の日記には八代襲(167)さんを出させて頂きました、多謝。

日記の前段階として下記の様な話を書きました。
もし良ければこちらもどうぞ。
http://suzuna.cuties.cc/?p=192