ENo.2192 ベネット・バルテル

　潮風を裂いて

隔壁が破られてから18日目　　　

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

　荒れ野の一本道を、PB-00が這っていきます。

　このPB-00。
　外見通り、移動速度よりも、地形への対応力を重視した機体です。
　よって、ほんにんは凄く急いでも、あんまり速くは進めません。

　PB-00の移動先には、しゃがみ込んだGR-00が、何やら忙しそうに地面をつっついています。
　GR-00はGR-00なりに忙しいので、PB-00には気付きません。

　「ピィ！」

　何時まで経っても埋まらぬ距離に、しびれを切らしたPB-00は、一つ声を掛けてみます。
　GR-00は、ピクリと肩を振るわせて、のそりと後ろを振り向きました。

　「ピー……」

　GR-00は日頃、PB-00を玩具にする、非常におっかないロボットです。
　この間は投げられたし、転がされたりもしました。

　これらの行為は、だいたいGR-00の思い付きで実行されてしまいます。
　ただ、GR-00が思い付くのは、視界の中にPB-00が存在する場合に限られる様です。
　よって、PB-00がGR-00に近付かなければ問題有りません。

　ただ、今回ばかりは、勇気を振り絞って接近せねばなりません。
　GR-00には、二つの掌が付いています。
　己の《やりたいこと》を出来るロボットは、GR-00を於いて、他には誰も居ないのです。

　「ピィ！　ピピピ　ピーピ　ピー」

　「キュー」

　「ピ！」

　「キューウ」

　納得したのか、しないのか。
　聞いてくれたのか、くれないのか。
　ロボットのPB-00から見ても、GR-00はよく判りません。

　判りませんが、GR-00は、PB-00の方へ、のそのそと歩み寄ってきます。
　PB-00の鼻先で立ち止まると、PB-00をそっと持ち上げて、GR-00の頭の上に乗せました。

　「キュ？」

　どうやら、GR-00はPB-00の願いを聞いてくれるようです。
　

　「ピィ……ピッ！」

　GR-00は、PB-00に言われるまま、荒野の先へと歩き始めました。

□ □ □

　慣れた作業ほど油断はするな。

　コイツは技師の常識だ。
　ソイツをやぶっちまったから――…CC-00は、シーくんは、壊れる羽目になっちまったンだ。

　ざっと見た限り、制御部は壊れてねえ。
　こいつだけは救いと言えるだろうよ。
　入れ物さえ直してしまえば、動作させるくれえは何とかなる。

　が、問題も有る。
　肝心要のCC-00がCC-00たる所以。
　電磁波発生装置の方が、完璧にイカレちまった。

　つまり、動くからって動かしたって、全く以て役に立たねえってこった。

　そりゃあ、何でもかんでも、すぐに直せる様な世界なら問題はねえ。
　武器として動かせなくても問題ない、平和な世界なら尚更に。

　だがよう、ココはアンジニティだ。
　材料も、機材も、何もかもが不足した状態で、さっさと先を急がなけりゃあなんねえ世界だ。
　立ち塞がるモン、全部薙ぎ倒して、先に進まなければなんねえ世界だ。

　つまり、シーくんを生かす利は無い。

　無いと判れば、行うべきは唯一つ。
　シーくんより動力源を抜き取り、制御部を外して、解体作業を進めていく。
　使える部品を取っておけば、後で別のモンに流用できるだろう。

　その時、ふっと……。

　「ピィ」

　「キュー」

　背中に響く耳慣れた声。
　振り向くと、ピーちゃんを頭に乗っけたゴロちゃんが、ぬっと掌を突き付ける。
　ゴロちゃんの掌の中には、見慣れた機械片が並んでいた。
　シーくんの、部品だ。

「これ、お前達が拾ったンか……？」

　「キュ！」

　そうか。
　ピーちゃんの視覚センサを以てすれば、金属の発見は容易い。
　探し当てて、一つ一つ拾ってくれたってのか。

　ぶきっちょのゴロちゃんのこった。
　やっぱり、でかい部品しか拾えてねえ。
　感じを見る限り、下手すれば取りこぼしの方が多いだろう。
　だが……。

「ありがとうよ」

　これをくっつけたって、シーくんの武器は直せねえ。
　作るのは難しく、壊すのは易く、直すのは作る以上に難しい。
　それでも。

　お前達の優しさが、オレにとっての救いだ。