ENo.1441 マイラ

こことは違う世界。

その世界のある町には、亜人と呼ばれる者ばかりが
暮らしている、貴族の館がある。

その貴族の当主もワーキャット（人間と猫の混血）であり、
ただ一人の例外を除けば、純血の人間はいない。

そんな館で、侍女として働いているうちの一人が、
今回この世界に来訪した彼女、マイラである。

しかし、「彼女」とは言っても、
実際のところ、性別というものはないのかもしれない。
何故なら、キマイラであるからだ。

ある研究者が、行き倒れた人間の少女を素体とし、
数々の獣を合成した結果に誕生した生物。
それが彼女である。

研究者はこの結果に多かれ少なかれ喜んだはずだが、
その先を考えていなかったのが運の尽きだった。

生まれた彼女は、本能のままにその研究者を襲い、『喰った』。
その後、各地を放浪し、また行き倒れた所を現在の主に
助けられ、館で働くようになる。

今回、もう一人の侍女と同じ世界に行くことに
なっていたはずだったのだが、転送事故なのか
それ以外の要因が働いたのか……とにかく、
マイラは他世界との通信が隔絶された、この世界に来てしまった。

でも、彼女は寂しさは少し感じているものの、
あまり動じてはいないようだ。

……いや、動じるだけの頭がないだけかもしれないが。

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見た目はただの人間だが、
羽やら尻尾やら、果てには犬や蛇の頭部のようなものが
身体から生え出すように現れる。
しかも、獣らの頭部は言語を解する。
素体である彼女よりも利口な感じがするのは、
気のせいではなく、実際にそうなのだろう。
彼女自身の知能は、まるで子供である。

もっとも、元からそうであったのか、
キマイラとなった時の弊害なのか。それは分からないが。

なお、マイラというのは本名ではない。
拾われたときに、主の女性につけてもらった名前である。
本人は、名前すら思い出せなかったとのこと。

なので、身元も何もかもが不明である。
「よく雇う気になったよね。まぁ、イメト姉だから仕方ないか」
とは、主の女性の妹の弁。