ENo.1285 オデッド

「やっと見つけた…。あんたがキャロルね。」

オデッドの前にふわりと立つ小柄な少女、年の頃はオデッドと同じくらいだろうか、キャロルと呼ばれた少女はにこやかにうなずいた。

街に戻ってから翌日、オデッドとリベルは二人がかりで聞き込みを行い、程なくして件の少女を見つけることができた。早々に彼女を見つけられたのは、少女が街に戻ってきていたこともあるが、何より依頼人の親父の残したメモの似顔絵が激ウマだったことが大きな勝因だろう。
あの親父一体何者だ…？

オデッドの隣にはリベルが少し疲れた様子で立っている。よく見るとほぼ治りかけているものの体の所々にダメージの後が残っている。隣に立つオデッドもそれは同様であった。

依頼人の親父から報酬を貰った後、街まで同行した二人であったが、依頼達成後の気の緩みもあったのだろうか森からモンスターにつけられていることに気付かず、結果人気のないただっ広い平原でモンスターにボコられることになったのだった。

「（まあ、命（？）はギリギリ助かったけど。あたし一人じゃ危なかったわねー。）

命からがら街に辿り着いたオデッドが最初に考えたのはそんなことであった。
死霊術士兼リビングデッドという特殊な肩書きを持っていても、所詮彼女は年端もいかない少女である。戦闘経験も含めあらゆる経験不足はいなめない。
さきの戦いでも、真っ先にモンスターにブッとばされていた彼女のことだ、リベルがいなければ今頃は墓の下だったろう。

「（話を聞く限りリベルは行く当てもないみたいだし、せっかくならこのまま一緒につれて行っちゃってもいいかもねえ。その方が面白そうだし♪）

もともとオデッドは目的あっての旅路ではない。広い世界でかって気ままに、楽しく生きられればそれで良し、を基本的なスタンスにしている。
そんな彼女は、うまく事を運べばリベルに面倒ごとを押しつけてらくして楽しく旅ができるかもと言う腹づもりの元、どのように彼女に同行を誘いかけようか思案し始めた。

リベルの方に目をやると彼女はなんだか困ったような顔をしてお腹を押さえていた。
先ほどから口数も少なく、多少元気がないようである。

「（どうしたんだろ、お腹が減りすぎて力が出ないのかな。）

そんなことを考えていると、ぐう　と大きな腹の虫が聞こえてきた。オデッドの腹からである。

「（…報酬も手に入ったことだし、めんどくさい事は明日でもいいかな。）

頭の中で、頼まれごとも悪だくみも全ての優先順位を下げた彼女は隣を歩く少女に声をかける。

「ねえリベル。

考え事をしていたのか名前を呼ばれた彼女はハッとなって答えた。

「な、何…？

「今日はもう疲れたし人捜しはまた明日にしない？

「ん、そうだな私も…今日はゆっくり休みたい。じゃあ、今から宿を探すか？

「そうねー。でも、その前に…。

「？

「なにか美味しいもの食べに行きましょうよ♪大丈夫大丈夫、二人あわせてこんだけ報酬もらってるんだしいくら食べても足りなくなるってことはないわよ♪

彼女のゆっくり休みたい、という言葉をまるっきり聞いていなかったのか、そう言うとオデッドはリベルの手を取り賑やかな繁華街に向かってかけだしていった。
少し悪い笑顔を浮かべているのは、隙あらばリベルに奢らせようという算段でも立てているのだろう。

オデッドに手を引かれ最初は少し戸惑った様子のリベルであったが、目の前の自分勝手な少女の後ろ姿を追いかける内にやがて諦めたような表情を浮かべたが、先ほどまでの不安そうな顔がほんのちょっとやわらいだようであった。

「ふーん、仲間とはぐれちゃったわけねー。

依頼人から頼まれていたものを少女に渡し終えたオデッド達はキャロルを連れ立って昼食を取っていた。

聞けばこの少女はとある国でメイドをやっていたらしいが、わけあってその国から逃げてきたという。途中連れだっていた同僚とはぐれてしまい、今はその同僚を捜して旅をしている途中だとか。

「若いのに大変ねー。ん？歳はそんなにかわらないんだっけ？

話を聞く限り、その同僚捜しの旅もはっきりとした確証の元に行っているわけではないらしい。それでもそれ程焦った様子が感じられないのは、彼女の気質のためか、それともそれを表に出さないように振る舞っているのかオデッドにはわからなかった。

「ねえ、どうせだったらさあたし達と一緒に来ない？あたし達二人ともとくに目的があって旅してるわけじゃないし、ついででいいならその同僚捜し手伝ってあげてもいいわよ。

二人と言ったがオデッドはともかくとして、リベルには実は確固たる目的があるかもしれないが、それをこの自分勝手な少女がいちいち気にかけるわけもなく、リベルはリベルで話の流れを気にかけたのか特に訂正は入らなかった。

一方、提案を受けた少女は特に迷うそぶりもなく二つ返事で快諾してしまっていた。

「（ちょっと不用心なやつねー。大丈夫かな…。）

小動物系というか、よく言えば人懐っこいのであろうか。あるいは、仲間とはぐれてからの一人旅が堪えたのであろうか。
パタパタと尻尾でも振り出しそうにこちらへ笑顔を見せる少女を見ながらオデッドはそんなことを思っていた。

成り行きに任せるまま同行することになった３人の少女。

メイド・狩人・アンデッドのデコボコな３人組の話は、ここから始まる。

今回の冒険の記録：３人の冒険が始まった！