ENo.653 リリーエ=E=ティーマ

少しづつ、疲れが溜まってきた・・・
体の奥底に石の様にこびり付いている様な・・・・
そんな不快な感じがする・・・・・

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私達は六人のギャングスター達と相対していた。

ギャングスターA〜F『《[【（「さぁ踊ろうぜヤングッ！」）】]》』

ギャングスター達は腹の底に響く様な音楽を流しながら、それぞれポーズを決めてこちらに向いている。
帽子を目深に被ったり、体を捻って腕を伸ばしたり、手の指を妙な形に折り曲げたり、
低く体を反らしたり、足を交差させてしなを作ったり、帽子を取ってお辞儀するかの様な姿勢をとったり様々だ。

リリーエ『ああ、これはあれだ、気分が高まっている状態を相手にも強要する、
　　　　　まるで酔っ払いが絡んでくる様な、そんな感じ―――』

ギャングスターA『ひゃっほぅぅッ！！』
ギャングスターB《ひゃっほぅぅッ！！》
ギャングスターC[ひゃっほぅぅッ！！]
ギャングスターD【ひゃっほぅぅッ！！】
ギャングスターE（ひゃっほぅぅッ！！）
ギャングスターF「ひゃっほぅぅッ！！」

リリーエ『うん、これは絶対そうだ・・・』

零砂「品のない踊りですね、やめてもらえるとありがたいのですが。」
有澤さんが軽く腕を振って射出式のナイフを取り出す。
腰に下げている薬品は・・・・・殺虫剤？人間相手に！？
やっぱり心の中に何か黒いモノを持っているのでは・・・・・

リリーエ「踊るのは別に嫌いではありませんが、ちょっとこの音楽ではね・・・・・」
私はそう言って携えていた槍を相手に向ける。
低く響いている音楽は太鼓や打楽器とは違う、まるで殴りつける様な独特な音色をしている。
正直これはちょっと嫌な音に感じてしまうかな・・・あまり心が躍ってこない。

リィン「がんばりましょう」
リィン君がすうっと楽器を構える。
彼はこの音楽をどう捉えているんだろう？
いつも弾いている落ち着いた優しい曲から察すると、やっぱり不快に感じているんだろうか・・・

ギャングスター達の姿表情をよく見てみる―――ぱっと見悪人・悪党と言う訳ではなさそうだが、
これはこれで迷惑をかけている人達なのでちゃっちゃと成敗する事にした。
うん、そんな依頼を受けているので仕方ない、しょうがないですよね〜

私はいつもの様に身体強化のスペルを唱え、体を解して戦闘の準備を済ます。

リィン君は反射膜を張る術式を二重起動させ、有澤さんは肉を切り裂く丸い刃を飛ばした。

流れている曲がやや激しい曲調の音楽に変わる。
と同時に、ギャングスター達がステップを刻み、指を鳴らしたり奇声を上げたりしながらこちらに向かって来る。

私達はそれに対する様に構え、攻撃を開始した。

私が呪詛を唱え、有澤さんが刃を飛ばし殺虫剤を振り撒き、リィン君が色々な術式を演奏起動させる。

だが次第に私は攻撃をする手が緩んできてしまうようになった。

ギャングスターF「ノリノリでいこうぜッ！！」

初めの内はまだ良かった、依頼を受けた使命感とか勢いとかで何も考えずに攻撃を行う事が出来たからだ。

ギャングスターB《いい動きじゃねぇか！》

しかし、ギャングスター達はこちらに悪意を向けてくる事が無かった。

ギャングスターC[熱くなろうぜぇッ！！]

槍で突き刺し、術式で吹き飛ばし、刃を飛ばして切り裂いても、そこから憎悪といった感情が溢れてくる事は無く、

ギャングスターA『心地よいリズムが聴こえる・・・ぜ・・・・・・』

迷惑千万ではあるものの、そこに敵意などの負の感情を感じ取る事が出来なかった。

正直言って戦い辛い・・・・・

私は途中から技もスペルも使わずに、ただ穂先で斬りつけたり柄や石突で殴打するだけだった。
これは私だけが感じている意識なのだろうか・・・チラリと有澤さんとリィン君に目をやってみる。

他の二人はというと―――

零砂「もう少し知的になって出直しなさい。」

リィン「えっと...？」

有澤さんはやけに辛辣な言葉を投げかけ、リィン君は困った様な表情を見せている。
うん、いつも通りだ。

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そんなこんなで、ギャングスター達は全員地面に横たわっている。
その表情に苦痛や苦悶といった表情は無く、どこか清清しさを感じる程だった。

少々時間は掛かったがこれで依頼は達成だ。

零砂「もう少し真面目に暮らしてはいかがですか？」
有澤さんはナイフをしまうと少し呆れた様に溜息を吐いた。

私は武器を収め、倒れたギャングスター達に祈りを捧げた―――

リリーエ『もう、これ以上他の人に迷惑をかけません様に・・・』

リィン「ホッ...」
リィン君は体から力を抜いて胸を撫で下ろしている。

ゴソゴソと周囲を探索していると、柄付き甚平を着て玩具のような銃を手に持った男が声をかけてきた。

男「ありゃ、もうやられてらぁ・・・」

狂楽「ぃよっ！俺は狂楽ってんだ。これアンタがやったのか？すっげぇじゃん。」

ニヤッと笑い、倒れているギャングスター達を見る。

狂楽「なんだよ・・・・・ギャングっつぅからもっと極悪っぽいのを想像してたんだがなぁ・・・」

狂楽「・・・殺しも何もしてなさそーなツラしてやがる。いい餌になると思ったんだがなぁ、・・・畜生め。」

銃を見て残念そうに呟く。

狂楽「ま、仕方ねぇな！他をあたるとすっかぁ。・・・じゃ、まーたなー！」

そう言って男は去っていった。

リリーエ『狂楽・・・何だか変わった名前だなぁ・・・』

と思ったが、特に気にする事も無く探索を再開した―――

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オルゼの街に戻ってきた、まだ日は出ているけど宿で部屋を取って休憩する。

私はお湯を浴びて旅の汚れを流してから、髪を乾かして上着を脱いでベッドに寝っ転がった。
そのまま街で見つけた呪詛入門の本を読み始めた。

リリーエ『あまりこういったのは好きじゃ無いんだけどなぁ・・・少し怖いし・・・』

そんな事を思いつつも読み進めていく・・・

武器に呪詛を纏わせる方法、相手と自分を同時に刺し貫く呪いの一撃、
命を削る円舞の呪詛、相手に死の予感を感じさせる呪いの言葉、狂乱じみたお茶の作り方・・・・・

・・・・・・・・・・

・・・はっ、と気付くともう日は落ちていた。

どうやら本を読みながら寝てしまっていたみたいだ。
ゆっくりと体を起こす、周りを見渡してみると本はベッドの下に落ちていた。
ベッドの上から手を伸ばして取ろうとする―――・・・わっ！

バタンッ！

バランスを崩して転げ落ちてしまった。

リリーエ『あ痛たたたたっ・・・・・』

リリーエ『う〜っ・・・疲れが残っているのかなぁ・・・・・？』

打った腕をさすりながらそんな事を考える。
少し睡眠をとった事で旅の疲れはほとんど残っていないけど、体の芯の方がぼ〜っとしている気がする。
腕を振ったり体を捻ったりしてみてもやはり少し違和感を感じる。
力を体に伝えようとしてもどこか鈍い反応がする、本を読まずにゆっくりベッドで休めばよかったのかなぁ・・・

今日はこのまま宿に泊まらず、夜通し歩いて山岳地帯を抜ける予定になっている。
街に出て夕餉の香りとざわめきを感じながら旅の支度をした。

その後街の入り口で集合して、リィン君にエンチャントを封じたペンダントを槍に合成してもらった。
これで槍に魔力回復だけではなく、急所への自動追尾を行うエンチャントが施された。

リリーエ『これで少しは装備も整ってきたかな？』

街で見かけるほかの冒険者達も、時々思わず目を向けてしまうようなすごい装備をしている事が多くなってきた。
それに比べたら私の装備は必要最低限といった感じで、まだまだ強い装備を求めていかなければならない。

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大きく欠けた月が昇る夜、私達はオルゼの街を出て山岳地帯の道を歩いていた。

リィン君と有澤さんが会話をしながら前を進み、私はその後ろをついて行く。

リリーエ『そういえば有澤さんとはあまり会話出来ていないかなぁ・・・・・』

思えばエスタの街で『エビフライもどき』を食べさせてしまって絶叫させたり、
バレン・タインデ〜という、異性にチョコレートを贈る日に私がチョコを渡さなかったので、
翌日から何だかいじけた様な目線を送られたり・・・・・

・・・あれ、ひょっとして私避けられてる？

私は草木も生えていない荒れた山道を歩きながらぼ〜っと物思いに耽っていた。

リリーエ『私の、戦闘中の動き方・・・』

私はこれまでの戦闘で色々な方法で戦ってきた。
そのまま攻撃に参加したり、皆の魔力を回復させたり、相手に異常を与える技を使ったり、
あまり上手じゃないけど体力を回復するスペルを唱えたり・・・

言い換えてみれば中途半端なのだ。

特筆するような尖った行動が無く、色々とやってみてもそれはどこか付け焼刃の様な動きで・・・
だから、『これが私の戦闘の型だ』というのを確立させる必要がある。

今一番考えている形が《速さを求め、手数で圧倒する》といった型だ。

私には男の人のような強い力は無い、でも身のこなしや動きの早さでならまだ分があると思う。

このパーティを組む時に求められた前衛役をこなせているのか、その答えが出るのはもう少し先になりそうだ・・・・・

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不意に私の目の端で何かが動いた、耳を澄ませてその方向に集中する。

・・・・・植物が動いている？

よく見てみると少女の形をしているが、頭部に緑色の大きな棘の生えた植物を載せている。
これは木精の一種なのだろうか、紅い瞳を半目にさせてこちらを睨んでくる。

そのままこちらに向かって来る、どうやら戦闘は避けられないみたいだ。