ENo.44 黒鷺天地

＜アナウンス＞

前回の日記に一部誤植が含まれてました。

誤：ブロッサム編・第一章　→　正：ブロッサム編・第二章

ブロッサム編・第一章はあくまで前々回（15回）からとなります。

―――――――――――――――――――――――――――――――――

駅前に現れた、一体の異型の獣。最近見るようになったΕ型で巨大な亀のような姿をしている。
甲羅の強度は高くあらゆる攻撃を無効化し、またその巨体を活かした素早い突進は一度食らえばかなりの致命傷になる。
とはいえΕ型の弱点がない訳ではなく、身体の作りゆえの方向転換のしづらさがある。
相手が遅い方向転換をしている間に露出している足へと攻撃を仕掛けて体力を削っていく方法が通常では有効とされる。

「GURURURURU……」

獣は接近する一人の存在に気づく。振り向く先に、生体兵器の少女はそこにいた。
以前と同じく機械仕掛けの拘束具を身につけた状態で、身体からは紅いオーラを放っていた。
相手の出方を伺わんと、少女は獣へと挑発をかける。その表情からは絶対な自信と余裕が確認できるだろう。

「かかってきなよ…、遊んであげるから…」
「GURURURURURURU……！！」

獣は彼女の挑発に反応を見せたか、怒りの表情を見せて突進の構えに出る。少女は余裕の表情で、相手の突進が来るのを待っていた。
助走をつければ一気にスピードを上げ、少女へと目掛けて走り出す獣。その重たい巨体からは考えられない速さで徐々に距離を近づけるその姿はまるで戦車のようである。
地面に足がめり込んで跡が残るほどの足の重さと力強さで迫る巨体…、少女は迫る巨体へと手を伸ばす。
少女の手が獣に触れれば、少女の身体はどんどん後方へと押されていく。しかし、彼女は安定した姿勢を維持しており、次第に後方へと進む身体はとんどん進む速度を落としていく。片腕一本だけで、少女は巨体の突進を見事に止めたのだ。

「GUAAAAAAAAA!!」
「結構力強いみたいだけど…、結局はそれしか出来ないの？Γ型と違って単純すぎ…」

少女はあいているもう片方の手に、己の魔力を集中させる。紅くぎらぎらと光る魔力の光は次第に大きさを増せば、少女はその手で手刀をつくる。それにあわせ、魔力もまた鋭く剣状となって伸びていく。
少女はその手の光を、目の前に止まる獣へと突き刺す。獣の身体を大きく貫いて串刺しにすれば、少女は魔力をさらに注ぎ、甲羅を除く獣の身体を破裂させた。
周囲に飛び散る獣の血…、異臭を放つ獣の血はあらゆる動物の血と異なりとても黒く粘度のある血をしていた。

―――――――――――――――――――――――――――――――――

〜ブロッサム編・第三章〜

―――――――――――――――――――――――――――――――――

「これは……」

俺が現場にたどり着けば、そこには無惨な姿で転がる異型の獣の死骸。甲羅だけが残り、その中の肉体は完全に焼けたミンチとなって周囲に散らばる。周囲には異型の獣独特の血肉の異臭が漂い、黒い獣の血もあちこちに飛び散っていた。
空になった甲羅の目の前に立つは見覚えのある一人の女性…、博士の資料にあった女性と同じ人物だ。
身体中に獣の返り血を浴び、今もなお身体には紅いオーラが残る。

「あはははは…、前に戦ったおっきな獣さんたちよりも楽だったねぇ…、あれはこれほどおっきくなかったけど…こんなにあっさり死ぬような子じゃあなかったのに…。物足りないなぁ……」

全身の機械仕掛けの拘束具をパージし、装甲に隠れた部分が解放されていく少女。その姿はパージする前とは異なり、肌の露出する部分が多い。バイザーに隠れた目もしっかりと確認できる。
少女は甲羅を前に見下すような表情を浮かべながら、無惨な死を迎えた獣を嘲笑う。それはまるで、悪魔のように…。
そして自分の身体についた獣の血を指に取ると、粘り気のある黒い血をぺろりと舐め取る。
少女はこちらの存在に気がつけば、ゆっくりとこちらへほうへと振り向く。にっこりと笑顔を見せ、ゆっくりと歩いてこちらへと近づいてくる。戦闘が終わったためか、既に彼女からは紅いオーラが消えていた。
桜色の長い髪に桜色の瞳をした少女は距離が縮まればすっとこちらへと手を伸ばす。獣の血に濡れた手はそっと俺の頬に触れた。獣の血の匂いをより間近で感じ、そしてその感触もまた直接感じていた。

「ふふっ……、君がこの街の噂の救世主さん？こうして直接お目にかかるのは初めてだけど、やっぱりこうして見ると随分と可愛げがあるんだねぇ…」
「あいにくこちらは自ら救世主を語った覚えはないねぇ…、俺は大切なものの為に自分に出来ることを全力でしている、ただそれだけなんだ…」
「ふふっ…、そういう正義感の強い子は嫌いじゃないなぁ。私はブロッサム…、見てのとおり見た目だけは普通の女。中身は…、あの獣の残骸を見ればもうわかるよねぇ……」
「随分とド鬼畜なやり方をするもんだね…、君は」
「でも結局貴方だって同じように獣に刃を振るってるんでしょ？それなら…、結局どんな理由でも、どんな形でも倒してる事実は…同じだよっ」

少女は獣の血のついた指をすーっと俺の頬の上で線を引き、俺の口の中へと指を入れる。
その瞬間、口の中で感じる確かな苦味。とても人が口のできるものではない、吐き気がするほどの得体の知れない苦味が身体中に浸透し、一瞬だが頭が痛くなった。
思わず少女の手を払い、ぺっぺと口の中の血を吐き出す。さすがに長い時間これを口の中に入れてたら吐きそうである…、いや、今でも吐きそうになったが。胃の中のものがこみ上げてきた時は、正直危うかった…嘔吐的な意味で。

「ぺっ、ぺっ…うぇぇ……」
「あはははは…、君には獣の血はまだはやかったかなぁ」
「はやかったかなぁじゃない…、なんてものを口に入れるんだよっ」
「うふふ…、やっぱり君にはわからないか…、このどうしようもなくみだらなこの黒い血は」

少女の胸元に付着する獣の血を手に移し、少女は目の前でその血を舐め取る。その舐め取り方は何処か嫌らしく、破廉恥極まりない。まぁ…、これで手にしてるものが別のものだったら明らかにアウトな気もするが、これだけでも十分すぎる。

「この濃ゆい血の味が…、身体中にびりびりって…くるんだよぉ？このはしたない血の香りが…、血の味が…私にはある意味、快感かも……」
「正直、今の君は本当に正気なのか疑いたくなるよ、こっちは」
「でも…、そういう君こそ…何処をびんと目立たせてるのかなぁ？」
「えっ……、はっ！？」

…あかん。いつの間にか見せてはならんものを見せてしまっていた。目の前の女性にこうもアレが反応するところを見せてしまうとは…、何たる不覚か。
というかあの舐め取り方は普通にエロくて反則的なのですが、そこのけしからん娘は！しかしそれを考えると、エグレッタのあの見た目だけで反応しないこちらのアレが冷静なのはまぁ確かなようだ。あれしきのことではたたんよ…、っといかんいかん。
とりあえず俺はあわててさっと隠す。お恥ずかしいことに……。

「うふふ…、そういう正直な子は嫌いじゃないよ？…最も、君も私のことを調べようとしてる側の一人なのはもう承知してるけど」
「……どうやら、そちらさんも既に色々把握してるようだねぇ」
「うふふ…、君が鈍感なだけじゃないかな。例のハンバーガーショップで誰かと話してた間に、私が近くにいたことに気づかなかったでしょ？」
「なっ！？」

なんということだ、あの時この子は俺がエグレッタと話をしている間に上の階にいたというのか！？
…またしても不覚である。いや…、既に不覚というべきなのかこれは？

「それに…、貴方も…ただの人間じゃない。それも…、人の手で作られたものや人との間に生まれたものでもない人間だねぇ…」
「…何故、それを？」
「ごめんねぇ…、私わかるんだよっ。一目みただけで全部…ねっ？君からは常人ほどの魔力量も感じないし、君から感じる気配は人のそれとは違うもの……」

少女はただ軽く見ただけで、俺が普通の人間ではないことに気がついていた。
そう…、俺も通常の人間とは違う。俺は十数年前、この街で力を持った一枚の葉っぱから姿を変えた存在。
そしてその事実を知るのは母さんやナノや商店街の人達…、そしてユフィだ。彼ら以外に、この事実を知る者は誰一人としていないはずである。

「まぁ…似たもの同士、これからも仲良くしようよ。君のことはまだまだ気になるしねぇ…、私と同じでただの人間じゃないもの」

少女は少し後ろに下がると足まわりにわずかな魔力を集中させる。
身体がふわりと大きく浮き上がれば、少女は自らの魔力で徐々に高度を上げた。

「また会いましょう…、黒鷺天地くんっ」
「えっ…、俺まだ名前を――」
「君の名前も一部じゃ知られた名前だよっ。知る人ぞ知る救世主さまだもの。それじゃあ…、またねっ」

最後にこちらへと笑顔と共に軽く手を振り、彼女は自らの魔力で飛び、その場を去っていく。残された拘束具は彼女との距離が離れると自爆を起こし、その残骸は周辺に飛び散る。
そして空には魔力を使って【Good bye，cute boy】というメッセージを残していった。ご丁寧にハートマーク付き。

「ブロッサムかぁ。能力を除けば普通の女性と対して変わらな…、いや、さすがに一部含まないものも混ざってるけど」

―――――――――――――――――――――――――――――――――

「わかっているのかブロッサム！あれほどサンプルを確保できる状態は残しておけと言ったのに何故聞かない」
「あいにく私、加減ってものを知らないの。だったらおじさん達が戦いにいけば？」
「貴様ぁ！」
「まぁいいだろう、そう怒ることではない。君が完成してからだいぶ経つがこうして問題なく今を維持している…、それだけでもいい結果だ」

研究施設に戻ってきたブロッサムはＥ型の獣の倒し方に関して研究員の一人から怒られるも、その代表らしき人物からはほめられている様子。
また彼女の戦闘は既に投資者達のもとにも映像が送られ、確かな評価を確立していた。獣の潜伏する戦場は、まさにブロッサムのPRにはもってこいの場所であり、直接戦闘を行うことで彼女の力強さを投資者達に証明し、生体兵器としての価値を引き立てる。
既にブロッサムの細胞を使って生み出した新たな生体兵器が目を覚まし、現在はトレーニングを受けている。彼女と違い、人間の精気の摂取による強化は行えないものの、めきめきと力を上げていった。
カリキュラムを終えれば、将来的にはブロッサムと同じく広い範囲でPRを行うつもりである。既にブロッサムの細胞から作られた新型細胞によってすぐにでも生体兵器を作り出せる環境が整っている…、はやくて三日で成長させることが出来る上に、最終調整も比較的容易である。

「しかし外部の人間との深い接触は避けるべきだ。彼はあくまであちら側の人間だ…、下手にこちらのことが漏れるのは勘弁願いたい」
「ふふっ…、大丈夫だよ。これでも口はかたいんだよ？もっとも、おじさん達が私を満足させてくれる限りだけどねぇ…」