ENo.3339 刃皇耶　竜斗

竜斗「さて」

今手に持っているのは“ぶっとびエスタ”。
名前の通り、使用すると一瞬でエスタまでぶっ飛べると言う素敵な代物だ。
が、どうやらぶっ飛び方がスマートではないらしく全身を強打するため
その日はお休みするしかないそうだが。
まぁ、そんな便利（？）アイテムなのだが

竜斗「結局、どう使うの？これ」

ユエルン「私に聞かれても」

一体どう使うのか全く分からない。

アキ「全く、使い方も分からないで買ったの？」

竜斗「うん、まぁ……」

アキ「ったく、つっかえないわー。アンタもコレも」

竜斗「うん、その……すまん」

なんだろう、最近コレ言われるの楽しみになってきたな。

アキ「まー、今私が思いついたからそれを試しましょう」

竜斗「ほう」

ｏＯ（なんだろう、嫌な予感しかしない）

アキ「こういうのは大抵こうして」

と言うとぶっとびエスタを持った手を上に挙げ

アキ「こうするのよ」

ブンッ．．．

パリーーンッ！！

竜斗・ユエルン「割ったー！？」

地面に叩き付けられたぶっとびエスタは綺麗な音を立てて砕け散った。
なんだか凄い小気味良い音したな。
と言うか発想がアグレッシブすぎるだろ、行き成り叩き割るとか。

フォン．．．

すると、叩き付けた付近から光が溢れる。
それは何やら模様を描いて行き

アキ「あ、ほらなんかそれっぽくない？」

シュンッ

勝ち誇ったような笑顔とその一言を残して
アキさは光と共に消えた。

竜斗「転送型魔法陣が入ってるアミュレット、かな？」

ユエルン「まぁ、正しい使い方でよかったと思いますよ」

ええ、まぁ……その通りです。

竜斗「んじゃ、早速やりますかね」

ユエルン「はい」

一緒にぶっとびエスタを叩き割る。
光に周囲が包まれたかと思うと視界が縦に伸びたような感覚。
気付くとかなりの高度にまで来ていた。
その直後

ギュンッ！！

竜斗「ぐえぇ！？」

直角に視界がぶれる。
そして凄い速さで景色が流れていく。
打ち上がってから横に移動する方式のようだ。
にしても

ｏＯ（ま、まともに息が……）

急旋回の急加速で身体がグルングルン揺すぶられる。
こういうのって魔術的な結界ついてるもんじゃないの！？
内臓がよじれるような感覚。
肺が潰され上手く呼吸が出来ない。
頭や腸が前後左右に揺れて激しい嘔吐感。
おい、場合によってはコレ死人が出るんじゃないの。

竜斗「ぐっ……くっ、殺人的な……加速だ……！！」

急旋回時に掛かった力が落ち着いたため、後は加速のＧのみになる。
とはいえ、横移動に入ってからは一直線にエスタに向かうため
左右に移動もなく、慣れて来るとこれはこれで楽しくなってくる。
初めさえ乗り切れば結構いいものだな。
鳥より早く空を飛べるってのは凄い。
飛ぶって言うよりかは撃ちだされたって感じだけど。
現在は森の上、中心部の西側は広大な森林地帯だけどその上を横切ってる感じだ。
中央部の森はうっすらと霧が発生していた。
樹木の生い茂り方が半端ない。
これは結構な秘境になってるな。
と、途中でそれが途切れる。
急に赤茶けた岩肌が姿を覗かせ地面自体が近くなる。
中央部の東半分、山岳地帯に差し掛かったらしい。
ここもかなり高度がある山の集合地帯だ。
オルゼの街に向かうとき、この山を無理矢理越えたが、
森との境界付近はさらに険しいらしい。
複雑に入り組んで移動するだけでも大変そうだ。

竜斗「って、この山終わったらもうすぐか」

エスタはこの大陸の南東に存在する。
使用した場所が北西部の端だったから
この大陸を斜めに横断するように飛んでいるわけだ。
中央部はさっき言ったとおり森林地帯と山岳地帯が西と東に別れて広がっているが
森林地帯がすぐ終わったのに対して山岳地帯の上を飛んでるのが長いってことは
それだけ山岳地帯の方が広いってことなのかもしれない。
エスタの北西側すぐ傍まで山岳地帯は広がってたはずなので、
コレが終わったらすぐ到着、となる。
のだが

竜斗「……これ、どうやって降りるの？」

いまだ凄いスピードで山岳地帯上空を飛んでる訳ですが。
ん、なに？コレこのままの勢いで街に行くの？
だから全身を撃って移動できないとか言ってるの？
馬鹿じゃないの？
全身強打で撃ち身捻挫打撲とかそんなのふっとばして死にますよこれ。
強打どころじゃなくて追突事故？
ごしゃって感じ、ごしゃって。

竜斗「ちょ、ちょっとこれどーすんの！？」

今更こんな状態で慌てても遅いんだが
何もしないわけにもいかず……
って宙に浮いてて踏ん張れもしないからどうしようもない！？
って、そんなこと言ってるうちに山岳地帯終わったー！？

一瞬だけ麓に砂地が広がった周囲に森が存在し、
その先にまた砂地になる。
左手……現在の向きで言うと東側には平原。
この砂地と平原の切れ目の先にエスタの街が――

竜斗「ってもうすぐそこ！？」

おいい！？もう目の前って言うかなんていうか
超凄いスピードで近づいてきてるんですけどー！？

グォォォォオオォォォッォーーーー！！！

竜斗「ちょっ、まっ！？おまっ」

こ、怖い怖い怖い！？
今まで水平方向にしか移動してなかったのに
今度は斜め下にすごい勢いで落ち始める。
なんていうのこれ死ぬ寸前って言うかなんていうかやばいって絶対！？
急激に迫ってくる地面と風を切る音がもう絶望しか生まない！？

竜斗「あ、ま、ああばばばばばばばば！？」

上がる時はあまり感じないのだけど
落ちるときは身体と別に内臓が上に持ち上げられる。
そのため半端ない浮遊感があるって言うか実際落ちてるんですけどねーこれー！？
街の人の顔とかももう分かるくらいには近くなってきた。
ああ、もうコレはダメだ、総思い掛けたときだった――

ガックゥーンッ！

竜斗「うぉお！？」

凄い勢いで急制動がかけられる。
こんな直前でかけなくてももっと手前からゆっくり降ろしてくれればいいのに！？
っと思いきや――

フッ．．．

竜斗「……へ」

急に身体に掛かっていた力がなくなる。
後ちょっとってところまできてるのに、
こんな中途半端な所で終わりにしなくてもいいんじゃないかな。
そんな思いも虚しく

ヒュー．．．．．．ゴシャッ！

さっきの勢いもちょっと残ってる上でプラスの自由落下。

竜斗「ぐぇ……」

確かにこうなんだ、落ちてもいいくらいのところまでは来てたしスピードも死んでた。
けれども痛いものは痛い。
ああ、なるほど……コレは確かに

ユエルン「あ、竜斗さん……」

アキ「……うー、なにこれー」

二人とも相当なダメージらしい。
いや、そりゃそうだ。

竜斗「二人ともー……どんな感じー？」

ユエルン「……無理です」

アキ「いいから早く起きてきて助けなさいよ」

竜斗「すまん……こっちも無理……」

アキ「もー……」

ユエルン「し、仕方ないですよ」

流石にコレはユンさも弁護してくれるらしい。
苦笑いつきだけどな。
そして、３人とも１時間近くはその状態から起き上がれなかった。

――３時間後、宿内

竜斗「…………」

ユエルン「…………」

アキ「…………」

三人ともぐったりだ。
頼んだ飲み物に手も付けず、テーブルに突っ伏す。

竜斗「アレだな、便利なのは分かった」

ユエルン「そう、ですけど」

アキ「街に来てもコレじゃ楽しくない」

竜斗「……だよねー」

出来るだけ、使わないに越したことはないなぁ……。
そういう結論に至ったのだった。