ENo.3016 滝宮姉弟

ハネズ「か、完成しましたの？・・・私の下着。」

スオウ「ああ・・・さすがに長時間の作業で肩が痛い。」

ハネズ「お疲れ様ですのよ、大変でしたでしょう。」

スオウ「そうだな、特に難しかったのは腰から太ももにかけての曲線ラインの再現、そして胸部の―――。」

ハネズ「あああああっ！そ、それは説明しなくていいですのっ！」

スオウ「ん、そうか。強いて言えば、あとは色も迷ったね。」

ハネズ「色、ですか・・・スオウ好みの色にしたのです？」

スオウ「ハネズの足回りは黒を基調とする長いブーツとソックスが主体だ、統一感を出すには下着も黒しかないだろう。」

ハネズ「な、なるほど。そうですのね。」

・・・案外、真面目に色彩バランスまで考慮していたのですか。

普通の男の子が好みそうな青とか、なぜか女の子っぽい色と勘違いされて赤とか、少しでもそんなものを予想してしまった私が恥ずかしいです。

元々スオウも黒は好きですけれどね、理由まで考えていてくれたのは素直に嬉しいですのよ。

・・・統一感？誰かに見せる前提？

き、気のせいですのよね。

ハネズ「さて、私も女性陣の皆さんの下着を作り終えたので渡してきますね。」

スオウ「ああ、いってらっしゃい。俺は少しここで休ませて貰おう。」

ハネズ「ごゆっくりですの。いってきますね。」

・・・・・

ふぅ・・・最近、ますます思考回路が不純になってきましたのね。

人形だった頃の私ってどんな思考でしたっけ？

もっとこう、感情に左右されずに冷徹に物事を判断し、常に合理性を重視していた気がするのですけどね。

特に『人間化』が顕著になったのは最近のような気がしますのよ。

人間として11年も生きてきたのに、今になってなぜ？

・・・感情を揺さぶられる機会が―――。

シュッ

ハネズ「ほえ？」

？？「はーいはいはい、動かない動かない♪ 動けばこのナイフが首にサクッといくぜ？」

ハネズ「・・・あらん、迂闊ですね。背後を取られるなんて。」

？？「はっはー、まだその歳で死にたくないっしょ？大人しく金目の物を出しな、可愛い眼鏡のレディちゃん。」

背後から腕を回されてナイフを首に突きつけられてますのね・・・。

さて、どうしましょうか。

ハネズ「ふふ、遠慮なくやって構いませんのよ？それとも、人を刺す勇気はありませんの？」

？？「・・・おお？威勢のいいレディちゃんだな、だがこの世界じゃ早死にしちまうぞ。」

ハネズ「ええ、そうですね。 ―――特にあなたが。」

ぐいっ

？？「あん？その程度の力でオレの腕を掴むとか、レディの力でどうにかできると思っちゃった？」

ハネズ「刺す勇気がないなら・・・『私に』刺してあげますのよっ！」

？？「うお・・・なっ！？なんで自分の腹に刺し―――。」

ザクッ　　　　キンッ

？？「ぐぁッ！？オレの腹が・・・！」

ハネズ「危険地帯を一人で出歩くのなら、反射装備くらいつけるに決まっているでしょう？」

？？「チッ・・・テメェ、戦い慣れしてやがるなッ・・・！」

ハネズ「強盗慣れしているあなたに言われたくはありませんのよ。」

致命傷は避けたのでまだ元気そうですね、それでもそれなりな深手は与えたつもりですが。

にしても、この外見・・・人間ではなさそうですの。

褐色の肌に長い耳、これは間違いなくダークエルフの特徴。

年齢は推定ですが、身長から見て私達よりやや上、そんなところでしょうかね？

ハネズ「さ、どうしますか？尻尾を巻いて逃げます？それとも全力で続けます？」

？？「ククッ、全力で・・・と言いたいが、眼鏡のレディちゃんは手加減してんだろ？普通は武器くらいはすぐ出すってのによ。」

ハネズ「あらん、バレてましたか。」

？？「色んなヤツを襲ってるとなー、身のこなしと反応でだいたいわかるんだわ。マジで。レディちゃん、襲うまでは隙だらけで油断したけどよ。」

ハネズ「虚を突かれたのは事実ですのよ。もっとも、それだけでは私を倒す事はできません。」

？？「ったく、これだから強かなレディちゃんはやりにくいね。」

ハネズ「あなたも手加減していたのでしょう？金品目的であったにせよ、脅すだけで殺気を殆ど感じませんでしたしね。」

？？「・・・ッ！」

ハネズ「女を手にかけるのは苦手でしょうか？」

？？「へへ、『強かなレディちゃん』は苦手だよ。怯える素直なコは好きだけどな♪」

ハネズ「・・・私はハネズ、呼び方はレディじゃなくハネズで構いませんよ。大体ですが、あなたがどれくらいの実力でどんな人かがわかりましたから。」

？？「わざわざ自己紹介どうも、ハネズちゃん。男としてその余裕さが悔しいね。マジで。」

ハネズ「ふふ、それならば男らしく余裕さを見せ付けて名乗り返したらどうです？」

ラオ「あーあー。そうだな・・・オレは、オレの名前はラオだ。」

ハネズ「ラオ、ですか。」

ラオ「しっかし情けねーな、この怪我じゃ徹底抗戦も全力逃亡もできやしねぇ。まっ、こーなったら煮るなり焼くなり好きにすりゃーいーさ。」

ハネズ「・・・そうですねぇ。では、取引をしませんか？」

ラオ「取引だ？金ならねーぞ、あったら最初から襲わねーしな。」

ハネズ「お金は要りませんよ。そして、その怪我の治療と寝食の場は用意しましょう。その代わり―――。」

・・・・・

スオウ「それでそいつを戦闘員として連れてきた・・・？ハネズは襲われたのだろう、俺は反対だ！」

ハネズ「あらん、不安です？」

スオウ「当然だ。賊紛いな事をやってた男を口約束だけで連れてくるなど・・・。」

ハネズ「スオウは似た境遇の傭兵さんは信用できて、ラオの事は信用できないのですか？」

スオウ「そうは言っていない。だが・・・本当に命を賭ける覚悟があるかどうかを見極めていないのでね。」

ハネズ「もちろん、今日の戦いで実力も覚悟も確認するつもりですのよ。」

スオウ「・・・わかった、一先ず今日は様子を見よう。俺は独自にラオとやらの監視をさせて貰うがな。」

昔から、スオウは認めていない相手には攻撃的で辛辣ですのね。

こんな世界だからこそ特に警戒するのも理解できるのですが、こんな世界だからこそ互助しあって、利用しあって、乗り切りたいのです。

ラオ「おーおー、刺々しいねぇ。あれがハネズちゃんが言ってた弟さんかい？」

ハネズ「ええ、まだラオの信用がありませんからね。」

ラオ「そらしゃーない。いきなり知らん野郎が混ざってきたら怒るだろ。こりゃまだ挨拶もできる空気じゃねーな。」

ハネズ「そんなものですかね？」

ラオ「雄ってのは己のテリトリーに敏感なんだよ。特に同年代にはな。」

ハネズ「雄、ねぇ・・・。」

ラオ「自分が食えそうな雌ばっかのハーレム集団に他の雄がきたら排除するに決まってんだろーが、へへっ。」

ハネズ「す、スオウに限ってそんな動物みたいな言い方っ・・・！」

ラオ「ヒトの形をしてようとも、理性を被った獣みたいなもんだ。ほれ、狩る動物がきたみたいだぜ？手伝ってやるよ♪」

うぅ・・・なんでしょうね、この妙な気持ち。

雄と雌だなんて、スオウはそんな邪な・・・。

・・・。

・・・・・・。

・・・私自身も、最近は思考が邪でした、ね。

ハネズ「・・・スオウも、男ではあるのですよね。」