ENo.2192 ベネット・バルテル

　樹海を越えて

隔壁が破られてから17日目　　　

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　「キューキューキュキュキュキューゥキュー」

　ゴロちゃんといやあ、さっきからひとりで鼻歌を歌っている。
　オレと背中合わせに座り込んで、シーくん――新しいロボ――の端材を繋げたり外したりしながら。
　何だろうなァ……多分、オレの真似っこをしているらしい。

　アンジニティには全く似合わない、無駄に平和で微笑ましい光景。
　堪えきれねえわ、顔まで笑ってしまう。

「楽しいンか？」

　「キュ！」

　背中の方から聞こえてくる、景気の良い返答。

　なァら、いいべさ。
　どうしようもないぶきっちょナリに、楽しめるモンが有るのは良いモンだ。
　……がなぁ、オレの方は、何時までもゴロちゃんに構っていられねえ。

　夜明けは近い。
　朝までに、コイツを完成させねえと、今度こそアイツらに置いて行かれる。

　CC-00こと“シーくん”。
　ずっと昔、シルバリで設計と部品調達までは行っていたが、
　ついに日の目を見ぬ儘に、オレとアンジニティまで堕とされちまった機体だ。

　組み上げなかった理由？
　ンなモン、すげえ簡単だわ――…どう考えたって、対人兵器にしか使えなかったからに決まってンだろ。

　シーくんの機構は実に単純だ。
　翅と背部装甲より電磁波を放出して物体を加熱する、俗に言う“電子レンジ”ちゅうヤツだな。
　電磁放射の射程圏内なら、鎧甲を着ていようが、戦車に入ろうが、なんら問題ない。
　鎧甲や戦車自体を加熱し、そりゃもう悲惨な事にするだけだ。

　威力は十分だがよう。
　まあ、人間の使う兵器じゃねえな。

　しかし、きれい事じゃあ飯はくえねえ。
　激化するばかりの戦闘を切り抜けて、無事に外へとたどり着くにゃあ。
　手立てを選ぶ余力なんざ、何一つ有りはしねえんだ。

　ローラちゃんに借りた魔石もある。
　魔力だとか、あの類の解析は、オレの本業じゃあねえけどよう。
　分割世界クラインティブの“魔力発電所”建築に携わった時、同業者に見せて貰った設計書を思い出して、
　機構を単純化し、手持ちの材料で組み上げられる“蓄電池”を設計した。
　大した魔石じゃあねえが、シーくんを動かすにゃ十分だ。

　材料なら揃っている。
　後は部品の総組み立てだけだが――。

　ID-00は組み上がった部品をにゅっと差し出す。

「おうおう、お前さんはありがとうよ！」

　イーちゃんは元々、（ゴロちゃんとは違って）工兵としても動かせる機体だ。
　作業が細かければ細かいほど、オレよりも精確にこなしてみせる。

　配線だろうが、組み立てだろうが、何だろうが、多少無茶な事を頼んでも何のその。
　頭をコツンと小突いても、何も言わずに次の作業を押し進める。
　本当、ゴロちゃんとは正反対の性格をしていやがる。

「もうちょっと、遊んでも良いのよ？　お前は」

　ID-00「キチキチキチ……」

　“いいや”と言わん風にそっぽを向いて、珍しく電子音を上げる。
　私は、其処に居るヤツ――GR-00――とは違うのだと。

「ま、みんなおふざけじゃあ仕事も進まねえか。何時もありがとうな、イーくんよ」

　照れたように、バツ悪げに。
　ごしょごしょと何かをぼやきながら、再び作業へと戻ってゆく。
　翅部フレームの溶接……外装では、最も大切な作業だ。

　背中合わせに遊んでいるゴロちゃんも、お仕事中のイーちゃんも、本当によう。
　オレにゃあ勿体ないほど、可愛い奴らだわ。