ENo.1346 田中　梅

集会場なのだろうか？
それとも何かの宗教的意味合いのある建造物なのだろうか？
良く見もしないで屋根まで登ってきた。
下の方では大勢の人間が建物に出入りしている。
おそらく、この街で一番高いであろう建造物。
見晴らしが良い分、監視者からも見つけられやすいであろう場所。

ここからなら作業もしやすかろう・・・

眼下に広がる景色を眺めながら、ため息が出る。

この世界に鍵を隠したというのは
癪に障るが正解だな・・・
世界が魔力に満ちているせいで
ある程度以上の魔力を発している物でなければ
感知系の魔法では探しにくい。
かといって形状や名前も分からない物が相手では
探索系の魔法では埒が明かない。
なにより憑依体になってるバカ女が落ち着きがない性分のせいで
動き回りやがる。
ゆっくり魔法で探すのは尚更難しい・・・

さらにいえば魔法で探索しようにも
本体からの魔力の供給が極端に少なくなってきている。
神々の封印が健在だとしても
その外側に作りだされた分身体にまでは効力が及んでいる事も無いだろうし
世界観の結界があるとは言っても
本体と分身の魔法的結合にここまでまで干渉してくるものか？

魔力の供給が少ないせいで
ただでさえ限られる魔法が使いにくくなっている。
これも鍵の捜索を困難にしている要因だ。

意識を指先に集中すると
うっすらと爪に光が宿る。
空中にペンで書くように
爪で魔法語の術式を書きあげて行く。

広域魔力感知術式・・・
精度と範囲ををギリギリまであげて使用。
怪しまれるな。
監視者のやつらに気付かれない程度の魔法の目を展開する。

自然界の魔力とは異質な魔力にのみ集中して感知。
手早く対象を確認。

いくつかの除外項目を組み入れての術式にしておいたはずだが
外界からの持ち込みが多いせいで
上手く絞り込めないな・・・

大きく息を吐きながら
展開させていた術式を解く。

これ以上の使用は監視者に怪しまれるか・・・

魔力の回復も兼ねて休憩を入れる。

情報の共有が可能な分身体の報告では
ここまで魔力の供給が著しく低下したという物は無い。

『俺さま、猫だから日当たりの良い所で日向ぼっこですよ』

とでもいう演技をしてから
屋根の上にゴロリと横になる。

はてさて・・・
魔力供給の減少の原因は何なんのだろうな？
同様な手段で世界に紛れ込んでいる
他の分身体では発生していない不具合。
この世界に鍵があるからなのか？
いや、他の分身体もそれえぞれに封印の鍵のある可能性の高い世界に行っているはずだ。
この世界の鍵がそれほど守りを固める必要がある
封印にたいして重要な意味のある鍵だということか？
それもまた否だ。
それならば、そもそももっと侵入しにくい所に管理するだろう。
監視者のもっとも監視しやすく
近づきにくく盗みにくく守りやすい所。
すなわち、神々の鎮座する場所で管理するだろう。

そして、最後の封印の鍵はそういう場所で管理されていると
本体はすでに知っているのだ。

だからこそ、分身体を飛ばして可能な限りの鍵を手に入れ
封印の効力を弱めようとしている訳だが・・・

このままでは捜索がすすまん。
原因は何なのだろうな・・・

他の分身体と異なる部分。

・・・あの、バカ女か？

確かに他の分身体は、捜索対象となる世界の中の物に憑依している。
召喚されたのか偶然なのか
外の世界から入り込んできた者に憑依する形で
世界に紛れ込んだのは俺だけだ。

考えの方向性が見えてきたな。

あのバカ女の元の世界では魔法が発達していなかったという話だ。
その割には、この魔法ん世界に順応出来ているのは
頭のネジが２、３本緩んでいるからなのか
もとからネジがなかったのか
どちらにしても、あの女の精神が強靭だからだとは思うが

魔法というものにたいしての精神的構築がなされていないせいで
供給されてくる魔力にたいしての抵抗物質として存在しているのだろうか?
十分にあり得る話だ。
もう1つ考えられるのは、
バカ女の方が供給されている魔力を多く吸収しているということか？
十分に可能性があるな。

あの図太い精神なら、５０％どころか
８０％は奪って行っててもおかしくは無い。
しかもそれを無意識化で行っている。

抵抗物としているのか
強引に奪っているのかは分からんが

どちらにしても邪魔なだけの存在なのは確かだな。

とはいえ、今更切り離す事も出来んしな・・・

切り離した所で
オレ様が存在できなくなる可能性の方が圧倒的に高いだろう。

となれば、現状の改善を考えるほかに手は無いか。

どこかから視線を感じる。
物質を伴わない目からの視線。監視者だ。
さっきの感知魔法の出所を調べているんだろう。
ここは気付かない振りをするに限る。

オレ様は駄猫なのでお昼寝してますよ。
皆さんの視線なんか気付いていませんよ。
伸びをしながら大きく欠伸をして見せる。

場所を変えて、術式を組み直すか。
精度と範囲を上げつつ
必要な魔力は抑える。
隠匿性も上げておかないといかんか・・・

やれやれ、面倒な事になったな。
バカ女の一行がしばらくこの街に滞在すると言っていたし
その間にやっておかないといかんわけか。