ENo.1285 オデッド

「ちょろいちょろい、あたしにかかればざっとこんなもんね♪

襲いかかってきたリンゴ（？）を見事に撃退し、オデッドはご機嫌な様子で勝ち誇っている。

「依頼も達成できたし街に戻って報酬もらわなきゃねー♪

足取りも軽く森の外へと歩みを進めようとするオデッド。

「ご機嫌なところ悪いけれど。

しゃべる髑髏が諫めるように呼び止めた。

「キミは退治した獲物をそのまま放置していく気かい？街に戻っても証拠がなければ報酬なんか貰えないんじゃないかい。

人っ子一人いない森の中である、何かしら証がなければオデッドが依頼の獲物を退治したなんてことは誰にも理解されないであろう。

「……つまりこのきもいリンゴを街までひきずっていけってこと？

「報酬が欲しいならそうするべきだろうね。

先ほどの機嫌も一気に冷めてゲンナリした様子の少女。

しばらく逡巡した後、やがてしぶしぶと動かなくなったリンゴを担ぎだした。

「うう…おもっ！ヤニくさっ！ホントにこんなもの担いで街まで歩かなきゃいけないの…。

ギャーギャーとわめきながらも森の外へと歩みを進めだした。

「（しかし）

歩みを進める少女の傍らで髑髏は思案する。

「（『俺らも所詮はこの程度・・・』か）

先ほどの戦闘の際リンゴの化物がはなった一言が気になっていた。

俺らも、つまりこのリンゴは一体ではなく複数いることを示唆している。

「（それに森に入ったときからときどき感じていた視線。あれも完全になくなっているな。）

「（まあ、辺りに危険な気配はないみたいだし、このままいけば無事に森を抜けられそうかな。）

「ぐうっ…このリンゴいっそゾンビ化させて自分で歩かせてやろうかしら。

気になることと言えばこの少女が途中で獲物を放り出していかないかの方がずっと心配であった。

「もうだめ…ちょっと休憩。

数時間歩いた後、オデッドはやっと森の出口のまで辿り着くことが出来た。

「おお、嬢ちゃん無事だったか」

出口にさしかかると見覚えのある顔が待ち構えていた。

「あれ？露店のおっさんじゃない、なんでこんなところにいるのよ。

待っていたのはオデッドにリンゴ退治を依頼した露店の店主であった。

「なに、ちょっと配達のついでに様子が気になって見にきたんだよ。

そう言って店主は後ろにある荷車を指さす。

「ってあれ？

荷台にはオデッドが担いでいるのと全く同じ顔をしたリンゴが２体積まれていた。

リンゴは縛り上げられていて全く動かなくなっている。

「ああ言い忘れてたんだが、実は逃げだしたリンゴってのは一体だけじゃなかったんだよ。

そう言ってすまなそうにする店主。

「そういうことは最初に言っておきなさいよね…。じゃあ、荷台のリンゴはどうしたのよ？

一体でもそれなりの強さがある化物である。それを２体となると、店主一人で捕まえたとは考えづらかった。

「そこに積んであるのは嬢ちゃんが出てくるちょっと前に、そっちのねえちゃんがつかまえてきてくれたんだよ。

そっちと言われた方を見ると今まで気付かなかったが、木にもたれかかり静かに目を閉じてたたずむ女性がいた。

年の頃は２０歳前後であろうか、耳が通常の人間よりも長く亜人種である様子がうかがえる。

たたずまいは凛としており、若干近寄りがたい雰囲気を醸し出している。

「ふーん。一人で二体も退治するなんて中々やるじゃない。

素直な感想を漏らすオデッド。

「ああ、いや。もう一体はまた別のヤツが退治したもんでな、ちょうど嬢ちゃんが街を出ていったのと入れ違いに運んできてくれたんだよ。

つまりここにある合計３体のリンゴは、それぞれ全く別の者が退治してきたと言うことになる。

「でおっさんはそのまま荷台にこのきもいリンゴを積み込んでここまで来たってこと？さっき配達のついでって言ってたけど、まさか配達物ってこのリンゴじゃないわよね。

「お、察しがいいね。実はこのリンゴを買いたいって言う物好きな客が見つかってな、行く前に嬢ちゃんたちに頼んだ分も回収できたらそのまま客の所に持って行こうかと思ってたんだよ。

「ずいぶんなかわり者がいるもんねえ……。

使用用途が多少気になるオデッドだが、少なくとも食用でないことは確かであろう。

「なんで報酬はこの場で払わせて貰うぜ。

「やったー♪

報酬の入った包みを受け取るとたちまちご機嫌になるオデッド。

「ついでに、これは俺からのサービスだ受け取ってくれ。

そう言ってもう一つ別の大きく膨らんだ袋を店主から受け取った。

「お、なになにずいぶん気前が良いじゃない♪

さらに機嫌を良くしながらオデッドは袋の中身をのぞき込んだ。

袋の中には大量のリンゴが入っていた。

しかも大きさは通常のリンゴであるが、一つ一つに見覚えのあるきもい顔が浮かんでいる。

「……。

「まあ、見た目は悪いが味は絶品だからな遠慮せずに貰ってくれよ。そうだ、嬢ちゃんたちこの後街に向かうんだったら最初に獲物を退治してきてくれたお嬢ちゃんにもこいつを渡してやってくれよ、報酬は渡したんだがすぐにどっかにいっちまったからな。

そういって、もう一つ大きな袋をオデッドに手渡す。

「中にメモを入れておくからそいつを見つけたら渡してやってくれ。見つからなかったら嬢ちゃんたちで分けちまってもいいからな。

「まあ、それくらいいいけど…。

「そうかいじゃあ頼んだぜ、色々すまないな助かったよ。じゃあ達者でな、嬢ちゃんたち。

荷車に３体のリンゴを積み込みオデッド達に礼を言うと、店主はそのまま立ち去ってしまった。

後に残されたのは、オデッドと相変わらず木にもたれてたたずんでいる女性のみとなった。

「あんた、…えっと名前は？

とりあえずオデッドは声をかけてみることにした。

「リバティ＝リールだ。

リバティ＝リールと名乗った女性は目を開け、鋭い目でこちらを見る。

「そ、あたしはオデッド。

「ボクがこの娘の師匠だ。

「せっかくだし一緒に街まで行かない？あんた強いみたいだし、あたし今日はこれ以上戦える気分じゃないのよねえ。ついでにこのでかい包みも持ってくれると嬉しいんだけど。

「ちょっと待て、なんだ今のは！？

驚いた様子で話しをとめる彼女。視線はオデッドの手元の髑髏に注がれている。

「この髑髏口をきくのか……。

普段から当たり前のようにしゃべり出すので感覚が麻痺していたが確かに突然髑髏がしゃべり出したら誰でも驚くであろう。

「森の中で見かけ時も思ったんだが、あんたはなんだか普通じゃない感じだな。においから全く生気を感じない…。一体あんたは何なんだ？

ああ、森の中で感じてた視線はこいつのかとオデッドは合点しながら、多少動揺した様子の彼女の問いに応じる。

「なんなの、といわれてもねえ。まあ、一言で言っちゃうと、

オデッドはにやりと笑って答える。

「死人よ。

「……。

ひかれたのか怪しまれたのか、女性は複雑そうな表情を浮かべている。

「まあ、細かいことは置いといていいじゃない、えっとリバティ。

「…リベルでいい。

「そう、じゃあらためてよろしくねリベル♪」

今回の冒険の記録：リベルと同行することとなった！