ENo.2831 ひなた　＆　ひかげ

【注】
今回は１２日日記の続きとなります。
時期イベントと過去話を挟んでしまったため随分間が開いてしまいましたね。
では。

あたしとひなたは右手をあげ、交差させた。

　　変身！！
　　
あたしたちの体が光につつまれて。
ひとつになった。

やがて、そのまぶしさもしだいに薄れ。
つぶっていた眼を開けると。

　　ん？

そこにはさっきとなにもかわらない真っ暗やみが。
ああ…そりゃそうか。
自分のこと自分で見えるわけないもんね。
ふむ。
とりあえずその場で軽くジャンプ。
おお、軽い。そして高い。
距離感がいまいちわかんないけど能力値上がってんじゃね？
次は左右にステップ。
ふむ、問題ない。
背中でなんかはためいてる気がするが、まあいい。
斜め４５度腰をやや落としての。
ジャブ、トレート、そして速度を上げてのワンツー。
軽い。早い。
ついでになんか漫画みたいなエフェクト付きかよ。
なかなかいいじゃんこれ。
けど、なぜか感じるわずかな違和感。
視界を横切る変なもの。
突き出される腕が、なんか変。

いったん落ち着いてみようか。
両腕を持ち上げて。
まじまじと見つめてみる。
指のない、たとえるならなべつかみのようなグローブ。
大きく、ぼてっとしてる。
手の甲には…なんだこれ？雷のマークねたぶん。
そこまではまあ、ゆるそう。
だがしかし。
手袋から伸びる、おそらく腕であろうもの。
なんとゆうか、棒？
布ととゆうかフエルトのような材質にしか見えない。
それも…茶色。
なんだこれ？
さらにあたしは予感を確信するために。
おなかのあたりからゆっくり触ってみる。
そして顔。
丸くて、でかくて、上部に二つの突起物。
額にはなんかプレートのような硬いもの。

てゆうかこんなの一つしかないじゃないっ。

　　ひなたっ！！どこにいるのでてらっしゃいっ！

あたしは闇の中で叫んだ。
ひなたの姿はない。

　　なに？ひーちゃん。

　　うひゃっ！？

いきなり背後とゆうか真横とゆうか正面とゆうかどこかとは言えないんだけどあたしのすぐ近くから声がした。

　　なななによひなたあんたどこにいるのよ出てきなさいよかくれてないでっ。

　　えっと…それは無理だねえ。

　　無理ってなによからかうのもいいかげんになさよ怒るわよっ。

　　いやもう怒ってるし。

　　もっと怒るわよ。

　　それはいやだなあ。けど出るのは無理だよ。だって…二人で変身したじゃない。

　　はぁ？意味わかんないわよっ。

　　だからさ、今ひーちゃんと僕、二人合わせて一つの体になってるってこと。だから話は出来てもひーちゃんは僕が見えないし
　　もちろん僕もひーちゃんは見えない。

二人が一つに…。
なななななによそれそんなはなしきいてないわよじょうだんじゃないわよはははずかしいじゃないのどうしてくれるのよよよよっ。

　　…ひーちゃんがなんで恥ずかしがってるかわからないんだけど。

　　ちょっ、あたし何も言ってないわよっ！！！

　　いや、この場所考えてること全部わかっちゃうってさっき言ったよね。それに今はひーちゃんが僕で僕がひーちゃんなんだか
　　らなおさらだよ。

う…。
だめだだめだへいじょうしんへいじょうしん。
すーはーすーはー。
すーはーすーはー。
おし。

　　だいたい分かったわ。それで、これはなんなの説明してちょうだい。

　　これって？

　　だからこれよっ。

と言って目の前に右手を出して広げる。

　　ああ、それね。それはさんだーグローブって言ってね。電撃をまとったパンチを撃てるんだよ。見た目もかっこいいし…
　　あ、それはさっき見たよね。

　　ああ、あれはなかなか…ってその話じゃないっ！！これよこれっ。

といってもう一方の手で問題の場所を指さす。
手袋から伸びる太くて茶色の腕。

　　これ？

　　そうよこれ。

　　腕がどうしたの？

　　どうしたのじゃないでしょっ！！なんであたしらこんなもんに入ってるのよっ！これってアレじゃないのっ！？ねえっ。

　　これだのアレだのひーちゃんも変なこと言うね。サダヲだよ。

　　いやぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっっっっっっ！！！！！

　　ひ、ひーちゃん？

　　いやよいやよいやよじょうだんじゃないわよいによってあたしがなんでこんなもん着なきゃいけないのうそようそよ
　　夢に決まってるわ寝言は寝て言うもんよいやよいやよいやよっ！！！！！！

悪いじょうだんにもほどがある。
よりによってあの女。
大きらいで大きらいで大大大きらいなばばあと同じだなんて。
こんなだっさくてかっこ悪くてみっともなくてねえねえ変身ヒーローっていったらいくらでもましなものあるじゃない？
そりゃひなたのセンスが悪いのは知ってるけどだからってよりによってまんまなものもってくるなんて信じられないわ。

　　いや、そのまんまじゃないから。

　　なにがどう違うって言うのよ言ってみなさいよっ！

　　うん、この子の名前は『超人くまさんだー』。幻の没企画だよ。

　　なお悪いわっ！！！

がしゃーんっ。
どこかでちゃぶだいがひっくり返される音が聞こえたような気がするけどたぶん気のせい。
ぜえはあええはあぜえはあぜえはあ…。

　　　ひなた。

　　　なに？

　　　鏡。

　　　もっって来てないけど、ここはひーちゃんの空間だからひーちゃんが望めば出てくるよ。

　　　ほう。鏡、出てこい。

目の前に鏡が突如現れ。
当たり前のように落ちて。
ぱりーん。

　　　……………。

　　　あはは、割れちゃったねえ。

　　　あははじゃないでしょうあははじゃっ！どうしろって言うのよっ！？

　　　そりゃ魔法じゃあるまいし落ちるよね普通。

　　　笑うなっ！！

めんどくせえ。
あたしは両手を出し、なにかをつかむような形を作り。
念じた。
手の中に鏡が現れた。
ふう…やれやれね。
そして自分自身の姿を確認する。

しまりのない顔。
たるんだ体。
丸太のようにただ伸びただけの手足。
黄色いグローブとブーツ。
腰には安っぽい変身ベルト。
赤いマントに留め金。
おでこには雷の形のプレート。
うわぁぁぁぁ…予想以上にかっこ悪い。
　　　
　　ところで、この留め金のＫ３って…なによ。

　　うん？くま（Ｋ）さんだー（３）だからＫ３。

　　ひっど。

　　どう？かっこいいよねー。

　　悪いわ。思いっきり悪すぎるわっ！！あんたあたしの考えてることわかるんでしょっ？なのにかっこいいよねーっていやみっ？

　　いやあ、これ着て活躍するお母さん見たかったよねー。

　　人の話を聞けっ！！

　　あ、そうそう。変身中はねー、攻撃はひーちゃん、防御は僕、そして台詞…とゆうか主人格はね…

　　せりふ？しゅじんかく？なによそれ。

　　だってこんなかっこいいヒーローが小学生の声で話したら台無しだよね。

　　それ以前にすでにだいなしよっ。で？

　　だからこの方にお願いすることになりましたー。

　　どこのどいつよ？っていてっ！なにすんのよっ！？

いきなり首をあっての方向にねじられた。
どうやらこの体を動かせるのはあたしだけじゃないらしい。
そして視線の先には。
くま。
………いたのかよ。

　　…おいおい、いたのかよはないだろ？ひでえな。

　　ちっ、いなくなってればよかったのに。

　　あはは、仲良くねー。ということで台詞担当のくまさんです。

　　仲良くやろうじゃないか嬢ちゃん。

…うーわー。
あたしは目の前が真っ暗になった気がした。
いや、最初から真っ暗なんだけどねここ。
そういう意味じゃないから。
気持ちの問題よ気持ちの。