ENo.2192 ベネット・バルテル

　ドネスク、荒れ果てた表通りにて

隔壁が破られてから14日目　　　

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　酷えモンだ。
　右も左も上も下も、何処を見たって砂しかねえ。

　短い森林地帯を抜けた瞬間。
　オレの視界を塗りつぶしたのは、黄土色の砂、砂、砂。
　ゴーグル無しじゃあ、マトモに前も見えねえほど、酷い砂嵐が吹き荒れている。

　そんな、乾いた砂の吹き荒ぶ中。
　蜃気楼のように、浮かび上がる街がある。

　ドネスク。

　荒れ果てた砂の城。
　こんなトコでも、それなりに人は居て。
　タルタスやフリストでお馴染みの、足の出た野菜だけは事欠かねえのは幸いか。

　唯一、書籍の類だけは見当たらねえけどな。
　この街では紙の一枚すら、保管が効かないのか。
　この街に落とされた人間達は、言葉を失うほどに絶望しているのか。
　……まあ、こんなトコで燻っている連中の事なんざ、知ったこっちゃねえけどよ。

　どちらにしても、だ。
　さっさとおさらばしたい程度には荒れ果てた、どうしようもない街だってのに。
　ローラちゃん、たっての頼みで宿を取るコトになっちまった。

　面倒くさいと思いつつ、契約だから仕方ねえ。
　無言で歩く二人の後を、警戒しつつ歩いていると……。
　

　「ピィ！」

「どうしたよ、ぴーちゃん」

　急に、ピーちゃんが電子音を鳴らしやがった。
　何か大変なコトが起きて、そいつに注意しろって。
　そんな風にも聞こえる。
　ふっと振り向けば、遥か後方の後方に、
　露天の前に立ち止まったまま、じぃっと動かねえゴロちゃんが居た。

　こんなトコでひとりにしたら、バラされてスクラップにされ売られちまう。
　メインストリートを逆走し、ゴロちゃんの元へ。
　安全靴の口より、器用に入りこむ砂へ、舌打ちを零しながら。

「ごーろちゃん、どうしたよ」

　……って声を掛けるも反応はない。
　相も変わらず、じぃっと一点を見つめて動きやしねえ。

　なにがそんなに気になるのか。
　肩越しに覗いてみれば、視線の先には一缶だけ、缶入りのドロップが置かれている。
　おそらくは、外界より廃棄された軍備品だろう。

「なんだ、ソイツが欲しいのか」

こくりと頷く。

「オレにプレゼントってか？　いやあ、ゴロちゃんは技師孝行のロボだわー」

　ゴロちゃんの頭を撫でるも、反応は宜しくない。
　じぃっとこっちを見て、躊躇いもせず。

わずかに、頭部を左右へ振ってみせる。

　……まあ、ンな事だろうとは思っていたが。
　どうにもゴロちゃん、オレに厳しすぎやしねえか？

「なら、スーちゃんにか。それともローラちゃんの方かねえ」

ハンターの名を口にした瞬間、はにかむ子供のように、わずかに頷いた。

　そうか。
　オマエも、気になっていたンか。

　「キュ」

　生身の人間に、自腹を切ってまで物を贈る趣味はねえ。
　だがよ、可愛いロボの頼みとあらば仕方ねえ。

　ペンライトの電池を抜いて露天商へ放る。
　使用済みのモンだろうと、日常品の舶来品となりゃあ、そこそこの値打ちはある。
　おそらく、ドロップ一個ならば、相手にとっちゃ安いモンだろう。

　案の定、ゴロちゃんがドロップを持ち上げても、何も言われない。
　外套の下より、余所者を窺う小心な目線が、さっさと何処かに行けと言っている。

「用事はすんだろう？　さっさと行くぜ、置いて行かれちまう」

　ずっと先に行ったツレを、えっちらおっちら追いかける。
　今度は、オレの背中を追う足音が聞こえる。

　さぁて、あの男。何を聞かせてくれるンだろうねえ。

　-+-+-　物語は一旦、ハンターの日記へ渡る　-+-+-　