ENo.1433 ルイン＝ハーコード

「やはりそうですか…ええ、ありがとうございました。」

通信機を切ると、天井を見上げため息ひとつ。

「困ったものだね…クリエイターの不在のこの時に。」

「しかし、イレギュラーのお世話も管理者たる私の仕事…だね。」

独り言ち、「管理者」は窓より研究室を見下ろした。

その研究室に有るのは、函。

無数の函、その中に有るのは超小規模化された世界

函の一つ一つが様々な実験を行うための、世界という名の箱庭。

…が。

「まさか函から抜けだしてしまうとは…。流石は箱庭最大のイレギュラーかな、ルイン＝ハーコード」

考えられない可能性ではなかった。

元々その血筋はイレギュラーなものであった。

そのためルインの父親にも随分と悩まされたものである。

「エグゼス＝ハーコード。彼はまだ函に収まってくれていただけマシだったがね。」

だがルインは、その父を超えていた。

その異常性を遺憾なく発揮し、本来有るべき函を抜けだしてしまった。

しかもその行き先は。

「他のクリエイターの管理する函…。一体どうやってそんな場所に入り込んだのやら。」

主であるクリエイターの創り上げた函。自分はそのごく一部を管理する身に過ぎない。

他の管理者の函。まして、そもそも違うクリエイターの創り上げた函に介入する権利は持たない。

「直接管理者権限を行使できない以上、説得するしか無いか…。」

データによれば、ルインは相当な跳ねっ返り。

説得したとて、そう簡単に応じてくれるとは思えない。

ましてルインが今居る箱庭は、彼にとって切に望んだものであるのだから。

「それでも、やらねばならないか。私が管理を任された函の住人なのだから。」

ルインもまた函に収まっていなければならない。

それが本来有るべき姿。

「今はまだ無理…だが、いずれは会いに行くよ、ルイン＝ハーコード。私の憎たらしいイレギュラー。」