ENo.1361 亡国の王族

　森は眠り

　命は眠り

　愛は眠り

　されど全てを眠らせない為に

昔々あるところに、田舎だけれど豊かな国に、幸せなお姫様が暮らしていました。

けれどお姫様には生まれる前に悪い魂、悪の王にとり憑かれてしまっていたのです。
悪の王は波長の合うお姫様の魂に目をつけ、依り代にして力をためようとしていたのでした。

しかしお姫様が十六歳になった日の事です。
良い魔女がお姫様の中に眠る悪の王の存在に気づき、完全に封印してしまおうと魔法をかけました。
魔女の魔法はとても強く、魔女の思惑に反して小さく豊かなその国の全ての魂を封印してしまいました。
しかし魔女は罪もない幸せな人々の魂を救うことより、悪の王を封じ込めることを選びました。
魔女を責める者もいたでしょう。
しかし魔女のくだした判断は仕方ないことかもしれません。
なぜならお姫様の中に眠る悪の王は本当に強大で、いつかもっと多くの人々に多くの嘆きと悲しみを与えるかも知れなかったのです。

こうして悪の王は封印され、600年余りもの年月が流れました。
ただじっと眠るお姫様と悪の王に転機が訪れます。
誰が何をしたのかは分かりませんが、悪の王を封じている錠が、少しだけ綻んだのです。
それでも魔女の魔法はとても強く、封印は完全に解除されることはありません。
悪の王は姫の身体から出ることは叶わず、また姫も悪の王の魂をその身体に内包することを余儀無くされました。

悪の王は、自分が復活する為の手駒として姫の父親を眠りから覚まさせました。
しかし、強い意志を持っていた王は悪の王の思い通りにはなりませんでした。

そこで、悪の王は父親にある話を持ちかけました。
姫の魂と同じ質を持った魂を持ってこれば、そちらに寄生するので姫を解放してやろう・・・と。

父親は、その話を受け、姫と同じ魂を持つ人間を探し・・・見つけ、その魂をペンダントに封じる事には成功しました。
ただ、色々な手違いでそのペンダントが異世界に飛んで行ったり、飛んだ先でようやく見つけたと思ったら大けがを負ったり踏んだり蹴ったりで最近までいじけていました。

怪我も治り、再びそのペンダントの魂の波動を感じとり本格的に動きだしたのでした。

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episode.1

「ふん、ようやくあの女を見つけたと思ったんだがな・・・セルフォリーフから気配がここ4日ほど消えたな。どこかに逃げたか？」

顔まで布で包んだ男が、アンジニティの空を見上げながら忌々しげにつぶやく。

何度か、セルフォリーフに転移しようとしたが、闇に穢れた者では普通の手段ではセルフォリーフに移動できないことがわかり、その下準備をしていたらこのザマである。

「こんなことなら、強行突破をしかけておくべきだったか・・・？」
「父上、何を一人でブツブツ呟いておいでですか。」

布で顔を隠した男に、紫の髪と黒の瞳をした若い男が話しかける。

「ユリシスか。何処に行っていたのだ、俺がセルフォリーフに渡る手段を必死に考えていたというのに。」
「国の方に、迷い込んでいた者が居たので道しるべに少し。」
「ふん、お前の迷いの森にか？ご苦労な事だな。そんなもの、ほっておけばいいものを。まあ、良い。そろそろ、夜も更ける。ちょうど、俺もオリフィアの元に帰ろうと思っていたところだ。」

そう言って、布の男・・・父王はユリシスに背を向け娘であるオリフィアの待つテントへと足を向けた。
ユリシスも黙ってそれに従った。

【　SIDE　ユリシス　】

テントに戻ると、もうマグノリアは寝てしまったらしく、オリフィアだけが待っていてくれた。
父上は大喜びしていたが「お父様うるさいです」の一言でいじけてその辺に座り込んでるのでほっておくことにする。

「お帰りなさいませ、お兄様。」
「ああ、ただいまオリフィア・・・なにごともなかったか？」
「はい、私もマグノリアも大丈夫です。」

にこりと微笑むオリフィアを見て、気がやわらぐ。

「そうか、今日はもう遅い。私達もそろそろ身体を休め・・・」

続けようとすると、オリフィアが少し眉をひそめ私の言葉を遮る。

「お兄様？何か、無茶をして来ませんでしたか？少し、生命力が弱まっているようですが。」

・・・ばれない様にしていたが、ばれてしまった。
無茶をしたつもりはないのだ、な。

「何、たいしたことしていない・・・少し、人助けをしただけだ。」

「彼」が3日間探し続けた枯れない薔薇。
それは、眠りについた我が国の魂を指す。
さすがに、それを渡すわけにはいかないが、その必死さに免じて
私の魂の1部を削り、魔力で加工して薔薇にして渡しただけだ。
何処も無茶はしていない・・・と思う。

「お兄様？お兄様がそういうなら、信じます。けれど、本当に無茶だけはしないでくださいね。お兄様に何かあったら・・・」

オリフィアがそう言いながら、俯く。
少し、罪悪感が芽生える。
そうだ、オリフィアを・・・妹を支えられる人間はそんなに居ないのだ、私がいなくなるわけにはいかない。

「お兄様に何かあったら、あの父上を私一人で相手しなければならないじゃないですか。嫌です。」

・・・少し、複雑な気分になった。