ENo.2966 フィー・メイル

　female（女性）とmail（鎧）という単語を組み合わせただけのごく単純な偽名。しかし、それが偽名だと知るものは少ない。
　竜人を模して作られたという珍しい鎧を着込み、表情はほとんど窺えない。肘から先の腕部、小手に当たる部分が大きく作られており、その先端に付いている鉤爪が特徴的。
　自分の手よりも明らかに長く大きいその小手には、自分の手とほぼ同じ動きをするという特殊な魔法がかけられており、それなりに器用な作業もできる。
　その竜の鉤爪を活かした、「竜人体術」という武術を扱うようだが、「竜人体術」なるものが実在するのかは怪しいものだ。が、実際に彼女はいかにもそれらしい体捌きで戦闘をこなしているのも一つの事実。
　「竜人体術」とは、基本的には極端な前傾姿勢、もしくは地面を這い回りながら戦う非常に珍しい体術である。人間には、自分よりも背丈の低い、体術を扱う獣との戦闘経験を持つものなどいない。そこを上手く突いた、ある意味では理にかなっているとも言える秘技中の秘技である（本人談）。それ故に、背中部分の装甲は厚めに作られている。
　また、彼女は限定的ではあるがちょっとした付加の魔法を操ることもできる。大掛かりな準備と儀式を必要とするが、それを駆使し自動的に術者の意志を反映した行動を取ることが出来る、自らの着ている鎧とそっくりの鎧人形を生み出している。

　そして今――セルフォリーフからの救援依頼を受け世界の壁を越えてセルフォリーフに入ろうと思っていたのだが、一応の安全を図るために分身体である鎧人形を先に送り込み、様子を見た上で合流しようと思っていたのだがどいうわけか迷い込んだのはこんな世界。
「あっれ〜？おっかしいなぁ。これって結構やばくない？」
　送り込んだ鎧人形との魔術的な同期は取れている。今のところ不具合はないようだが。
　どうしてくれようかと途方に暮れていたところに、『世界の隔壁の一部が破壊された。』という情報が飛び込んできた。
「これはもう、行くしかないね」
　ともかく彼女は歩き出した。一筋の光へと向かって。

　ちなみに、彼女は世界で最も存在しないと言われる僕っ娘である。あとついでにドジっ娘でもある。
　ちょっとだけだよ！ちょっとだけ！