ENo.988 刀貸しの高氏

レイブン嬢ははぐれたあっしを捜しに行って
今度は、逆にはぐれてしまいやした
メルカ嬢ちゃんと合流して、向かったと思わしき街に先回りするも
どうやらまだ付いてない様子
仕方ない、とりあえず伝言を残して見晴らしの良い平原で待機と致しやした

「まったくアンタと二人なんて、ほんとーーーにいい迷惑だわ」
・・・はぁ
流石のあっしも、街付いたあたりから
この調子でぶつぶつぶつ言われると、凹んでしまいやす
こう見えても繊細なんでやんすよ？ほんと…

「レイブン嬢、早く合流して下さいやせんかねぇ…」
「ほんとうそうよ！」
はあ、心の声がうっかり漏れてしまいやした

まぁ、そうは言っても仕方なし。
「しかし、メルカ嬢」
「何よ？」
「大分、レイブンの姐さんとはすっかり意気投合しやしたね」
「？何が言いたいの」ちょっと戸惑ったようなメルカ嬢
「いやいや、まぁ最初が最初でしたんでね…」
まだ数日前の事だと言うのに、結構経ったような感じさえする
最初は相当不承不承だったような…
「そりゃ、そうよ。ここ＜アンジニティ＞で自分以外誰を信じられるというの？」
あっしはちょっと肩をすくめる
「そりゃそうでさぁ…一体、信じるって…何なんですかい。
　この世界でそれを信じられる訳がないでやしょう」

…ふと、メルカ嬢の顔から不機嫌さが消え、あっしの顔をじっと見ていやす
あれ、なんかしやしたかね？
「あんたは…そうねぇ、ここの人間ですものね」
「はぁ…あっしは生まれも育ちもこの流刑地、アンジニティでございやすよ？それがどうかしやしたか」
「いやー・・・あーそうか。
　あんた、私と最初に会った時に、レイブンの姐さんが絶対私を連れて行くと行った時に行った事覚えている？」
「・・・いやぁ、ちょっと・・・」
色々ごちゃごちゃ能書きを垂れたような、垂れなかったような…自分の言った事なんて、軽いもんでさ
「ま、そんなもんよね。あんた、姐さんの行動を『善意』って言葉で表したの。
　自分はそんなもの見たことも聞いたこともないけれどってね」
「あー・・・」そんなこといったような、いわないような
「ま、あたしの場合、生れは違うから、まだ、その意味分かるのよ。そして、あんたが見たこともないというのに、きっと善意なんだろって言ったから。多分、姐さんは本当にそういう人なんだろうって。
　悔しいけれど、もしかしたらって思っちゃった。」

それは、きっと嬢の願いなんでやしょう。
生れた所に帰るという

「はぁ、生粋のあっしが言ったからこそ」
「本当の言葉に聞こえたのよねぇ…ま、あんたはともかく姐さんとここを脱出するわよ」
「ﾋﾋﾋ、そいつぁ何よりです。」
御二人が帰りたければ帰りたい程、あっしにとっては都合のよいこってす。人が賑わえばそこで、あっしにもチャンスがありやすからね。

「しかし、姐さんどこまで行ったんですかねぇ？」
「さぁねー、全部あんたが悪いんじゃない」
「とほほーそうなんですけどねぇ…はぁレイブン嬢も甘いでやすねぇ」
いかんいかん、またつい思った事が口を

しばしの沈黙

あっ、またあっしなんかした？
おこられ・・・る？
とか思った矢先、
「あんた、ほんとーーーーーにどうしようもないわねぇ」
普段ならキレているような言葉ですが、どうやら心底呆れられて様子
「え、いや…はぁ？」
「姐さんあんた心配していったのよ。
　どうせあんた無理、無駄、無策とか考えているんでしょうけど」
「ギクゥ！！！！？？？？」
「ほんっと、しょうもない奴」
「いや……自分ではぐれてふらふらしてるような奴は、野たれ死んでも文句言えねぇでやしょ？」
「まぁねー、私もそう思うけれどね」
メルカ嬢はぐるりと平原を見渡し
「でも、あんた言った通り、姐さん、『善意』の人なのよ。
　いくらアンタみたいなやつでも、見放さないのよ。」

何を言っているかぁ、あっしにはあまり良くわからないこって
甘いとどう違うんでやしょう
「？？？あっしには、なんだか理解出来ない話でやんすね…」

うーん、メルカ嬢の言葉の意味がなかなか腑に落ちやせん
利害以外の関係って、あるんでやしょうか…
いや、現実にレイブン嬢という具体的事例がいる分、尚タチが悪い話でやんすが…

メルカ嬢は少しだけあっしのそんな呆けたあっしの顔を見ると
また、平原を見渡しました。
「はいはい、そうでしょうねー。。。ま、仕方ない話よね。
　それでもこの人達ならって、こいつもちょこっと信じてはいるのよねぇ。。。」

「嬢、なにか・・・？」
「なんでもないわよ、この馬鹿！」
ぐえっ、なんか威力が元に戻ってやせんか！？

と、そこに遠方から近づく影が
「あ、ねーさんじゃない！ねーーさーん！？」
メルカ嬢がちっちゃい身体全身でブンブン手を振っていやす
「・・・なんなんでやすかねぇ…」
正直よくわからないんでやんすが…
ま、レイブン嬢が戻ってきて本当に良かった、と今あっしは思っていやす
「あー・・・どんな顔すりゃいいんでやしょ、それよりまず謝らにゃあ、なりやせん…」

　

　