ENo.987 Cecgii=Verwandt

あー、しくじったな。

相手が体制を崩した隙をついて、一気に距離を縮める。

振り払った剣の軌道上に
赤い血が、何重もの線となって視界を横切った。

赤い。目に痛いほどに。

生きてるんだから当たり前なんだろうか、とか、

自分の血もこんくらい赤いんだろうかとか、
いっそのこと青とか緑とかだったらよかったのにとか、

そういうどうでもいいことを考えてたのが良くなかったのかもしれない。

ずん、と背に鈍い深い衝撃を感じた。

芝居を一人称で眺めてるかのようにその感触は遠くて、

ああ、いつものことだと。

そしてしくじったと思った。

背から血が吹き出て流れるぼんやりした感覚。

見えないからわからないけど、それなりに深いんだろうな。
ありすは眉を上げてこっちを見てるし、キルトの顔は引きつっているように見えた。

自分より、あいつらの方がよほどこの状況に浸かってることになんだかおかしくなった。

いや、俺だって状況を理解していないわけじゃない。

把握はしている。それが果てしなく遠いだけだ。

全身から力が抜けていく。

死ぬんだな、と、死んだこともないってのに
自然とそう思えた。

少しずつ、削り取るように意識が遠のく。

ひょこりと視界に割り込んだ誰かの顔は、逆光が眩しくてよく見えなかった。

そういやリオゼラが何か言ってたな。

他人の記憶がどうとかこうとか。

夢か。

ああ、なんだか、
まるで今が夢みたいだ。

ぼんやりと考えてる間にも視界は次第に色彩を失ってく。

それでもいいと思う。

満足なんてしてないけど、
たぶんはじめからそんなもの用意されなかったんだと思えば、満ち足りた気になれるような気がする。

けど、

限りなく白に近い世界で、ようやくそいつの顔が見えた。

―ああ。

そんな顔しないでくれ。

もったいない。

伝えようにも声が出ない

俺のせいなのか

なら、

―

？

微かに感じた違和感。

…………俺？

ああそうか……、これは”君”か。

水の流れる音がする。

身体が重い。というより痛い。
また無理をしたんだね。君は。

ぼやけた視界で辺りを見回すと、周囲には枯れた平野が広がっていた。
すぐ近くで煙が上がっているから、人はその辺りにいるのかもしれない。

ぼんやりとした思考を手繰り寄せる。

そうだ、僕は自ら望んでここへ着た。

「アンジニティ。

　世界の掃き溜め。

　様々な世界で否定された”無法者”が集まる世界。」

それは、僕に呼ばれたからで、

帰り方なんてわからないけれど、僕はここでやらなくてはいけないことがある。

僕を探すこと。

僕をここへ呼んだ僕が、僕に伝えたかったことを聴くこと。

目的はただそれだけ。

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今きっと俺はすごく満足げな顔してるんだろう。

あいつらがいたら

怒りそうな気もするし、
泣きながら許してくれそうな気もする。