ENo.1346 田中　梅

俺様は魔王である。または魔神と呼ばれていた事もある。
正確には『魔王とか魔神と呼ばれていた物』の分身体の1つである。
名前は・・・さっきついた。

『ニャーゼル』

あのアホ女のセンスはどうにかならんのか・・・
かつては7つの世界を滅ぼし
周辺世界の神々が俺（本体）1人を封印する為だけに
協力体制までつくって
ようやく世界の境界の狭間に封印する事が出来た。
そんな偉大な存在の分身に

『ニャｰゼル』だと・・・？！

たしかに
あのアホ女の世界に存在する『猫』という生き物に
この分身は似ているのかもしれんが
７つの世界を滅ぼし、
神々によって封印されているにも関わらず、
こうして分身を異世界に送り出す事が出来る
俺様（本体）に対してまったく興味も恐怖も感じていないのだ。
しかもよりによって語尾に「el」だ！
本来、天に使える者を示す言葉まで付けやがった。

魔王とか魔神とまで呼ばれた事のある
俺様にだ！！

本来ならばすぐさま取り憑いて
心を縛って支配し
俺の自由に動かせる駒にしてしまう所なのだが
どうやら、ここに入る際に
不手際なのか封印のせいなのか
取り憑くどころか
魔力のほとんどが使えない有様だ・・・

まったくもって不本意である。

早々にこの世界へ入り込んだ目的。
『本体の封印の鍵』を探し出して、
この半裸のバカ女とはオサラバしたい所である。

のだが・・・

どうやら、この女がこちらに入る際に紛れ込んだせいで
この体とアホ女が1つの物として存在しているらしい。
あの女が殴られれば俺も痛い。
あの女が腹が空けば、俺も腹が空く。
様々な状態が同調させられているのだ。
魔力で作られた思念の依り代でしかない
分身の1つの俺が腹が減るだと？
不便で不愉快な事、この上も無い！

あー・・・早くこの状態をどうにかしたい。

この世界で『神』と呼ばれているかは知らんが
世界秩序を管理している存在もいるだろう。
連中には俺様が分身として入り込んでる事は気付かれているはずだ。
だが、まだこの女に取りついてる事までは気付かれてはいないだろう。
魔力がほとんどない状態なのが幸いしているのかもしれんが、
神だの管理者だのに目を付けられる前に
どうにかして『鍵』の捜索を終わらせねばならん。
この女が強制的に排除されてしまったら
俺もこの世界からはじき出されてしまい、
そして、二度と入り込む事が出来なくなる。
つまりは、本体の封印の鍵が入手できなくなる訳だ。
それだけは回避しなければならない事態だ。

たまたま帰る手段が判明し
この女が元の世界に帰ってしまうのは
一向に構わん。
むしろ早々にその手段が判明してくれる事の方が、
俺としては望ましいくらいだ。
改めて侵入しなおして、もっとマシな奴に取り憑けば良い。

だから・・・

「えーい！どうして貴様はわざわざそういう不埒な姿勢でポーズを取らねば気が済まんのだ！」

どうにも、あの半裸女は公共の福祉とか貞操観念とか
社会通念とか倫理とか諸処様々な所で
世間一般とは違うようで

「このポーズが私の一番キレイに見えるポーズでしてよ！」

そういう問題では無いのだ。
とにかく、俺が目を光らせて監視して
天であるとか神と呼ばれていたりする
この世界の管理者に目を付けられないようにしなければ・・・

「ニャｰゼル！参りますわよ！」
「おい、梅！いい加減に服を着ろ！」
「あら・・・ちゃんと仕事着をきているわよ？それと、『紫音』って呼べって言ってるでしょ！」
「俺を踏むな！蹴るな！その露出度で何が仕事着だ！それが服に分類される事が驚きだ！」
「あら？こういう衣装が必要なお仕事だってことくらい理解できるんでしょ？魔王様♪」
「とにかく、もう少し社会一般に溶け込め。貴様は目立ち過ぎる」
「だって・・・服を買うお金が無いんですもの」

この女の仕事用なのかもしれんが
こういう瞬間に見せる鮮やかな笑顔は
悪くない。

「さ！それでは新しい衣装を揃える為にも参りますわよ！」
「衣装じゃなくて服を買うんだぞ・・・」

ﾊｧ・・・
誰かどうにかしてくれ。