ENo.1152 フードの…

「…My mother has killed me，My father is eating me…」
「なにその物騒な歌」
「ん？…ああ…」

　My mother has killed me，
　My father is eating me，

─────お母さんがわたしを殺して
　　　　　　　お父さんがわたしを食べたの─────

欠けた月が真上にくる刻

兄弟達は塒（ねぐら）と決めた場所に落ち着き互いの労をねぎらうかの様に杯を酌み交わしていた。

まだまだ風は冷たく身を切り、空気は淀み汚れ鬱々としているが
変わらず月だけは美しくそして優しく地を照らしていた。

「でっかい月。月があんなに綺麗だと、自分達が汚いのがよくわかる」
「だいじょーぶだよ、お前は昔も今も綺麗なまんまだ」

至極真面目な顔で言ったアオにアカは破顔する。

「なんだよ、それ。口説いてんの？」
「そーかもな。…ちゅーしてやろうか？」
「ちょ、ちょっと…！」

のっしりと覆いかぶさってきたアオに慌てて抵抗するが力では敵わず、結局額にキスを受けた。

「おやすみのちゅーだよ、いい子は寝る時間だ」
「あのねえ…こどもじゃないんだからさあ…」
「たりないか？」

フードから覗く意地悪く笑むアオに仕返しをしてやろうと、手を伸ばしてみたものの、仰向けに寝そべった状態ではフードには届かない。
それどころか伸ばした腕をアオに捕まれ、唇を寄せ手首にキスを贈られた。

「…いった！！」

あろうことか、その場所に思い切り歯を立てられた
プツリと皮膚が破れる音とタラリと血液が肌を滑る感触がアカの体を粟立たせた。

「さっきの唄みたいにしてやろうか？」
「殺して食べてくれるの？」

“いいよ　べつに”

声には出さなかったが、アカの唇はそう動いていた

“そのかわり　のこさず　たべてね”
“そしたら　かなしくな…”

言葉を重ねるが、アオの細長い指が
アカの唇に触れる

シィ…と戒めるかのように

「嘘だよ、本気にすんな」
「しってるよ」

クスクスとお互い悪戯っ子の様に笑い合う
これが兄弟の独特なじゃれあいなのだ

「ありゃ、ただの子守唄だよ」
「へえ…あの子にも歌ってあげたの？」
「そう、だな…」

ふうんと、気の無い返事をするが、アカの声は微かに震えていた
振り払うかのように傷の付いた手首をみると、顔を顰め非難する

「ちょっと、にいちゃん噛み過ぎ！これ絶対痕残るよ…！」
「別にいいじゃん、その傷見るたび俺の事、思い出すだろ？」
「思い出すも何も、ずっと一緒なんだから忘れるわけないじゃん…」

そーだな。と、もう一度アカの頬にキスをする。

「さあ、時間だ。言う事きかねぇ奴は、こんな風にして喰っちまうぞ、だから早く寝ろ」
「ん……さっきの歌さ、うたってよ。膝枕しながら」
「しょーがねーなー、やっぱお前甘えただわ」

ぶつぶつ言いながらもアオは、アカが眠りやすいように膝の上に頭を乗せ
とんとん…とあやすように肩を撫でる

　

My mother has killed me，
　My father is eating me，

─────お母さんがわたしを殺して
　　　　　　　お父さんがわたしを食べたの─────

　My brothers and sisters sit under the table，
　Picking up bury them under the cold marble stones.

─────兄弟たちはテーブルの下にいて
　　　　　　　わたしの骨を拾って床下に埋めたの─────

歌い終わる頃には、すうすうと深い寝息が聞こえた

「相変わらず、寝るの早いなあ……手がかからなくていいよ、お前は」

ふわりと頬を撫でると、身を屈めて柔らかなキスを唇に

「……おやすみ…サク」

──────さよなら、だ

声にならない声で呟くと同時に
アオは羽のように散っていった

「………」

そよそよとアカの頬を撫でる風が
涙一粒　さらって　いった─────　