ENo.934 アルシア=フィアス

「本国より手紙？」
魅月から差し出されたのは、
一通の封筒。
表面にも裏にも何も書いていない。
直接手渡しするのだから、
普通ではあるのだが――
「ええ。」
「…それにしちゃ、
　印も押されてないし、
　封もされていない。
　仕事がおざなりすぎやしないかねぇ？」
「まあ、プライベートなものだそうだから。
　ここに住所がある訳ではないし、
　検閲もされてないわよ？
　私が直接受け取ってここまでもってきたから。」
「検閲されてなくても魅月はよんだんだろう？
　それだと同じだと思うがねぇ……」
短いとはいえ、
やり取りは存外多い。
それに、魅月は謎めいた部分は多いものの、
思考・行動については独特で、
こいつならこうするだろうというのが想像し易い。
実際にだましあいでもしない限りは……だが。
「違うわよ？
　私のはただの興味本位。
　軍のように検閲して改竄(かいざん)等は全くしない。
　ただ読むだけだもの。」
「――まぁ、読まれて困るようなものはないからいいけど、
　相手は選んだ方がいいよ。
　釈迦に説法のような気もするけどね……」
飄々(ひょうひょう)とした魅月の態度に苦笑を浮かべ、
私は手紙を読んだ。
内容は大したものではない。
元気にしているかとか、
敵の様子のデータや、
送られた素材が役に立っているだの、
新兵器のテストを近いうちにしてもらうかもしれないだの……
取り留めもない話しか書いていない。
署名を見ると、
上官である准尉殿。
――昇進して少尉になったらしい。
順調な事で何よりだと思う。
だが、
読んでみて少し違和感が残った。
「ん――？」
「あら気づいた？」
疑問の声を思わずあげる私に、
楽しそうに笑顔を浮かべる魅月。
何もかも御見通しとでもいってるかのようだが、
実際そういう得体のしれなさがあるので、
不快はないが、
やはり、ちょっとムッとはする。
「怒らないで。
　まぁ、貴女にとっては重要な事だと思うわよ。」
全くとため息を一つついて、
暗号を解読する。
そこには更にため息の出るような事が書かれていた。
まず……
私の帰還について。
一時帰還ですら難航し、
本来の予定通りに帰れるようになるかは不明らしい。
魅月の渡した手紙で帰って来いという前に帰った場合、
私が消される可能性があるらしい。
そして――
「愛銃の手配はまだまだ先、か。
　やれやれ、ここに長居するのはいいけれど、
　本当に早くしないとそろそろ不味いんだが――」
「威力の高い兵装もこの分だとまだ先になりそうだものね。」
「ああ。
　どうにもこうにも――敵が強すぎる。
　技術で補うにも限度があるよ……」
「――」
嘆息する。
そんな様子を見て魅月は踵(きびす)をかえして去っていく。
一人になりたい事を察してくれたのだろう。
ぼんやりと見えない先を見据えながら、
私は予定の時間までテントの天井を見上げ続けた。

――なんとか自分の気持ちを整理して仲間と合流する。
「遅いよ。アリア。
　練習試合に付き合ってくれる人達がもう待ってるよ。」
そんな私にリィンがいつも通りに接してくる。
「いや、ごめんごめん。
　少し電報をよんでいてね。」
だから、私も笑っていつものように答え、
「で、相手は……
　こちらの？
　これまた可愛らしい子達だね。
　さて――？」
相手へ向き直り、
相手の獲物と様子を見る。
「精一杯がんばります！」
一人は大きな鎌を持ち、
狼の耳をもった少女――
ユアは可愛らしく、
少しおっとりとした印象を受ける。
何かとても初々しい。
「頑張ろう！」
元気よく気合を気合をいれた少女――
フィアナは、
フリッサと呼ばれる片刃の刃と、
バゼラードと呼ばれる短剣をもっている。
中々の剣の使い手らしい。
そして、最後の一人は――
「練習試合の相手、よろしくお願いするわね。」
――銃をもつ少女、リル。
銃の形状は私のとは違って無骨さは無い。
私の世界であれば、
おもちゃの銃といわれてもしかるべき銃。
だが――
この世界は普通の世界ではない。
「成程。面白そうな相手だね。」
狙いを定め動く。
相手に照準をあわさせないためだ。
しかし――
それに合わせてフィアナとユアの動きが加速する。
「いくよっ！」
「オオカミの血が騒ぐの……
　私をまもって！」
素早い動きだ。
私の動きなどとは比べ物にならない程に。
更に――
「姑息にいかせてもらうわよ。」
リルが煙幕を焚く。
黒いそれは視界を完全にさえぎり、
私の照準を狂わせる。
「――チィッ、
　見事な対応ッ……！」
そして、無論、
エモとリィンの視界も狂わせる。
二人の戦いを気にしてもいいが――
今の私には自分の事で精一杯。
そして、私はとんでもない物を直後に目撃する事になる。
「案外得意なのよ？
　精密狙撃。」
リルの銃より放たれしそれは銃弾などではなかった。
多少の誤差などものともせず、
精密に襲いくるそれは、
魔法の弾丸。
乱れ飛ぶそれは、
エモとリィンを貫いていく。
「――魔法の銃、か――！」
すかさず私も狙い撃つ。
視界にかすかにとらえる狼の耳目がけて。
その攻撃を受け、
リィンの罠にかかりつつも、
狼――ユアは疾走し、
私目がけて襲いくる。
それをいなし、攻撃を叩き込む。
だが――
「嫌がらせ程度にはなるかしら」
次々と放たれる魔法の銃弾は私を刺し貫いていく。
正確に、しっかりと。
恐るべき腕前。
更に、他のメンバーとの連携も見事なもので、
一撃一撃が重く、
三人の中で最も弱い私を集中攻撃してくる。
「チッ！」
素早く動くも、
相手の動きは正確無比。
避けれようもなく、
私の体力を根こそぎ奪っていく。
「せーのっ！」
ユアの弧を描くような一撃が、
「それっ！」
フィアナさんの渾身の斬撃が。
最早、私の戦力は根こそぎ奪ったと判断したのだろう。
「雷を纏った貫通力……とっておきをあげるわ！」
残るリルさんは、
正確に魔弾をリィンさんへと叩きつけた。
強烈無比な一撃に、
さしものリィンさんも後ずさる。
全く――恐ろしい。
その力が、
その才覚が。
届きそうで遠すぎる距離。
必死で銃で応戦する。
だが――気がつけば、
私は地に伏していた。
３対２になってしまっては、
利はこちらになく、
リィンさんも、エモさんも倒れ、
――敗北。

「ふぅ……運が良かった……のかな？」
「やったね！」
勝利を喜ぶ三人に立ちあがって握手を求める。
「いたた、完全にやられたよ。
　ありがとう。
　縁があったらまた戦っておくれ。」
足りないものはまだ見えてこない。
けれど、
得たものは必ずある。
後は私達が生かせるかどうか。
「……次は銃対銃の戦いがしてみたいもんだけれど――」
「まぁ、縁があったら出来るんじゃないかしら？」
「違いない。」
他愛のない話をして三人と別れる。
「……先に行こうか。」
そして、先へと急ぐ。
急いだ先に現れたのは、
マンモスが２体と巨大なクリオネ。
結果だけいうと、
惨敗。
見事なまでの負けだった。
私は、それを噛みしめると、
二人に向かってこういった。
「――少し、別れようか。」
「え？」
「急に一体……？」
私の発言に戸惑う二人。
だが、エモは直に……
「うん、いいよ。」
笑顔で答えた。
だが、リィンだけは難しい顔を崩さなかった。
「――何か不満かい？」
「不満っていうか解せない。」
「まぁ、シンプルな話さ。
　個々の実力を図りたいと思ってね。
　大体自分がどこにいるのか――
　実力がないのならつければ問題は解決する。
　けれど、
　問題は実力がある場合さ。」
「うん？」
「――あったらチームワークが悪いのさ。
　こればっかりはどうしょうもない。
　自覚する事で改善するしかない。
　ま、私もそうだが、
　二人ともチームワークにはあまり向いてないから尚更ね。」
だが、
リィンは、
私の発言を聞くや否や、
納得し、
ばつの悪い表情を浮かべた。
「……なるほど。確かにね。」
「ああ。それじゃ、また後で会おう。」
ひらひらと手を振って私は二人を置いて先にいく。
次会う時にはどうなってるか――
楽しみではある。

「ぁ、貴方は依頼を見て……？」
先へ進むとシスターが一人茂みより現れた。
「私は……
　レムネット、
　といいます。
　えぇと、
　ここが例の洋館で、
　この中にゾンビがたくさん……」
そして、発言を聞いて思い出す。
そういえばそんな依頼があった。
偶然にもそこへと踏み入れてしまったらしい。
さて、どうするかと頭を軽く掻いた所で、
――ガタガタガタッ！！
「……ぇ？」
「いい、天気だ……」
大きな物音と共に、
ゾンビ達が洋館より現れる。
「……最近のゾンビは昼間でもお構いなしか。
　怖いにも程があるね。
　銃も効きづらそうだし……
　ま、いい、かかってきな。」
それと同時に私は確信した。
流石にもう逃げれる状況にない、と。
ならば、やるしかない。
戦いの行方ははたして――