ENo.744 クトネ・シリカ・虎杖丸

虎杖丸珍道中

Episode ”Haiyakusanpe”

ブンッ！！

石造りの町並みに、暴風が通ったような音がする。
この街、オルゼでは聞きなれない音。

ブンッ！！

だがそれはただ殴りつける風ではなく、何かを断ち切る流れが存在する旋風であった。

「ふんっ！！ふんっ！！ふんっ！！」

その音の発生源はというと、自分の身の丈より大きい剣を掲げる妖精……即ちクトネであった。

（今は主がいない……だからといって某の未熟さを棚にあげるわけにはいかないのである。しっかりと訓練して腕を磨かねば……！）

普通ならば剣に振り回されるはずの体格差だというのに、クトネはまるで機械のように正確にとめてみせていた。
どんな膂力があるのか想像しがたいものである。

「某はもっと強くなることを……強いられているのである！！！」

そのネタはそろそろ風化しそうである。
だが敵が強くなってきているのは現実であり、クトネが今のままではいけないと思うのは仕方ないところがある。

（だが……素振りで基礎を固めるだけでは修行にはならないのである……何かよい手立てはないであるか……）

素振りを続けながら、クトネは思案した。
街の周辺でモンスター相手……いや、それも悪くは無いがみんなにも危険が及ぶ。
却下である。
ならば討伐依頼にでも向かうか？
しかしもしもそれで規格外の相手が出てきたら―――

「……っ！　いかん、これでは負け犬の考えである。」

クトネは頭を振った。
どんどん悪い方向に考えがシフトしていってしまっている。

「ふぅ……。少し、休憩に街の中にでも行って見るのである……。」

この街は、石造りではあるものの温かみのある造型をしており、そこかしこから美術的センスを感じさせる建物が並んでいた。
クトネは絵でしか見たことがないが、西洋の町並みがこんな感じであったような記憶はある。

「そういえば――あの妖精は封印を解かれて外界のことをあまり知らない某に色々と教えてくれたのである。感謝してもしきれないのである。」

例えば――

『クトネ！　これが最近流行しているものじゃ！』
『おお！！　な、なんだかロボットが小さい窓の中でごちゃごちゃ動いているのである！？』
『スーパーロボッ○大戦じゃ！！』
『なんと……！！　このような兵器が世界各国に……!』
『……………………うむ！！！！』

などというように世間にある脅威を教えてくれたのである。
なんという親切な妖精だ。
まじで。

「マグナ殿もあのようなスーパーロ○ットの一種なのであろうな……一度手合わせをしてみたいのである。どんなすごい技を繰り出してくるであろうか……。」

そんなことを想いに馳せていたところ、閃いた。

「そうか……別に魔物と戦うのではなく、知り合いに頼んで訓練を重ねれば比較的安全に修行ができるのである！！！！」

先ほどまでの苦悩の表情は何処かへ吹っ飛び、晴れ晴れとした笑顔でクトネは飛び上がった。

「そうと決まれば善は急げ、据え膳は廃るのである！！！」

仲間がまつ酒場へと向かった。
何か間違ったことをいいつつ。

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

「みなのもの！！！いい案があるのである！！」

酒場に入ったクトネは大声を張り上げて乗り込んだ。

「…………うるせえ……じゃない。どうしたんですかー☆」

だが酒場にいたのは小霧一人であった。
どうやら他のメンツはまだ街中を散策しているようだ。

「む、小霧殿一人か。まあそれはともかく、良き考えに恵まれたのである。某らの訓練として他の人と戦ってみるのである！！」

クトネはいささか興奮したように語った。

「（げぇなんかめんどくさそう……）へー、でもどうやってお相手を探すのですか？」

「む……それも……そうであるな……。」

ここでクトネも冷静になった。
たしかにこの世界に来ていくつかの出会いはあったし、不思議な通信により相手と連絡を取り合うことはできている。
しかし、だからといって距離が近くなければ組み手の相手になってもらうのは厳しい。

「うぐぐ……どうしたものか……」
「違う方法を模索するのも手ですよー☆」

何故か少し嬉しそうに語る小霧。
そこへ、今まで見守っていた酒場のウェイトレスが話しかけてきた。

「ねえねえ、貴方達冒険者？なんか訓練がどうのこうのーって聞こえたけど。」

「そうである！しかし、相手を探すのが問題であってな……」

ウェイトレスはしょんぼりとしたクトネの肩を指でちょんちょんと叩いた。

「？」

不思議に思ったクトネが顔をあげると、ウェイトレスがなにやら掲示板のほうを指差していた。
あの掲示板には依頼などが常に掲載されているのだが、現在はひときわ目立つ張り紙がしてあった。
『闘技大会開催。腕に覚えのあるものは集え！！』
と。

「闘技……大会であるとな！？」

「うん、一週間にいっぺんぐらいのペースで開いてるの。腕試しならどう？」

とびっきりの営業スマイルでウィンクしつつクトネにブイサインを送るウェイトレス。

「なるほど……これならいけるかもしれないのである！！ありがとうなのである！！」

クトネはウェイトレスの手をとりぶんぶんと振った。
意外な力に驚きつつもウェイトレスも握りかえした……ところで。

「ああああああああああ！？」

ｽﾞｻｱｱｱｱｱｱｱｱｱ

「きゃっ！？」

高速で2人の間に黒い物体が割り込んだ。

「これはボクの獲物だぞ！？」

イロコイが颯爽と外套を翻して現れた。
どうやら帰ってきていたらしい。

「……うふふ、大丈夫。私はお客さんは狙わない主義だから。」

ウェイトレスは威嚇しているイロコイの頭をなでて退散した。

「くくくくクトネ！！何もされなかったか！？」

「……い、いや別に大丈夫であるが……。それより！！イロコイ！！話があるのだ！！闘技大会にでるのである！！」

「ひゅい？」

よくわからない顔をしているイロコイにクトネが張り紙を見せる。

この連鎖で皆は闘技大会への出場を決めたのであった。

（闘技大会……さぞ猛者が集うのであろうな……その中で、某は自分を磨かねばならない……）

クトネの闘いは、始まったばかりであった。

はてさて始まった　闘技大会

迎え撃つのは　歴戦練磨の兵ども

はたし虎杖丸一行は　この闘技大会で何かを見出せるのか

それはまた　今回の結果次第でございます

では次回『虎杖丸珍道中』にて　お会いしましょう

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