ENo.3088 十六夜　沙月

叫びながら走ってくる山猫は、とても可愛かった。
なんて思ってしまっていたが、なんか危なっかしいけど動きは速い。
直ぐに頭を戦闘に切り替えるが、どうにも攻撃しにくい、正直可愛い。
すると、

焔「…前に出る。援護宜しく！」

焔は、突っ込んでくる山猫に真正面から向きあうように斧を持って仁王立ちする。
見た目の背丈はそれほど高くないのに、後ろに居る者に安心感を与えるほどの力強さである。
援護するための秘孔を押す、これでもはや堅牢な城のようなものだ。

「に゛ゃあぁぁッ！！」

山猫は走ってきた勢いを乗せて、切りつけてくる。
焔も斧の柄を使い上手く凌いでいたが、あまりに素早い攻撃を捌ききれずに右腕を少し切られた。
血管に当たったのか、派手に血が舞う。
手傷を負わせて興奮したのか、更に攻撃を重ねる山猫を止めるために私は咄嗟に鬼蜘蛛を射つ。
一旦間合いがとれたので、

プラー「光よ、生者に安息をもたらさんことを」

焔「…ツボ押し、っと」

焔は癒えた傷を確認し、距離をとった山猫へとその巨大な斧を振りかぶる。
しかし相手の素早さが桁違いである。
手数がこちらを遥かに凌駕していて、うまく攻め込めない。
殆ど防戦一方になりつつあったが、少しして、猫の動きが少し鈍ってきた。
流石に全力で動き過ぎたのだろう、疲労がみえる。
とはいえそれでも素早い、慎重になりながらも今度はこちらから攻める。
しばらく慎重に攻めたが、やはり敵にはもう手札はない、ここは攻め時だ！
そう考えた私は、

ツキ「これに耐えれるかしら？　秘蜘蛛・重ね三連」

これによって足を凍結されてさらに猫の動きが鈍くなるのを焔は見逃さなかった。

焔「…次、覚悟したほうがいいわよ」

巨大な鉄塊というべき斧が軽快に振り回され、風切り音が唸る。

焔「…叩っ斬る!!!!」

更にあの斧がまるで焔の咆哮を伴って切り返され、

焔「…喰らいなさい!!　鬼業−重−！！」

しかし山猫もその切り返しをギリギリで避けて、さらに焔に相打ち覚悟の打撃をいれていた。
お互いに最期の切り札を出して、お互いに消耗しきっているが、それでも３対１である。
もはや負けはないとばかりに追撃をしようとすると、

「いつか・・・・・・見てろにゃあぁぁッ！！」

山猫はくるりと後ろを向き、凄い勢いで逃げ出した。
戦闘が終わると、皆緊張を解いて体を休める。
そうしていると、空から鳥が今回の報酬を人数分落としてきた。

焔「…報酬が落ちてきた。これで依頼は達成みたいやね」

プラー「あの逃げ足だと狩るのは無理があるなぁ」

ツキ「可愛い姿でしたし殺生せずにすんでよかったです」

プラー「ツキ、あれ可愛かったんだ……」

ツキ「はい。すごく」

なぜか二人に微妙な表情をされた、あれ？可愛くなかったかなあ・・・

プラー「今回の依頼は終わったけど、どうする？　焔は一人でこのまま活動するの？」

焔「…ここに来るまでは他二人と組んでたんだけど。　予定が合わなくて一人でこっちの方に来ることになってね。　隠れる場所の無い野宿とかはどうしようかと思ってたところ」

プラー「三人居るとそん辺は大分融通が利くよ。モンスターの居る場所で野宿しても三日に一度はずっと寝れる」」

焔「…それはええね。さっきの戦いを見た限り、神聖の力も二人がもっとるみたい。悪い話ではないか」

プラー「それに一緒に来てくれるならこっちもかなり助かる。」

　ウチは二人とも一発の攻撃力が無いし、余りタフじゃないからね。ツキはどう思う？」

ツキ「私ですか？　最初は大きい斧持ってたし怖かったんですが、良い人みたいですしいいと思います。　さっきの凄い一撃はびっくりしました」

焔「…初見の人にはこの斧何かしらいわれるんやけど、正直やねぇ」

ツキ「変なことを言いましたか？」

と率直に聞いてみると、焔に苦笑された。

焔「…天然やね。気にしてないよ。それに褒めてくれたしね」

プラー「問題は無さそう。改めて、どうする？」

焔「…先のことはちょっと分からんけど、暫くお邪魔させてもらう」

こうしてパーティーが三人になる。
下手に増やすより、丁度良い人数だろう。
出来れば長く組んでいたいものだ。

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戦闘時間は２０分程度だったが、全力を出し切ったせいかヘトヘトである。
焔やプラーも全力で動き続けた事で体力を消耗している。
プラーは陽のある内に街へ戻るのは無理だと判断し、見つけた洞穴で夜を過ごす事にする。
空はまだ明るいが、暖を取るための枯れ木や寝るときに敷く藁を集めていると、すぐに陽が落ちて夜へと変わっていく。
即席だが、中々豪華な寝床になる。そのままだと藁が突き刺さっていたいが、毛布を掛ければ暖かい。

焔「…結構本格的にやるんやね」

プラー「石の上で寝ると体温もっていかれるし、疲れが取れないからね。」

　植物は幾らでもあるけど、流石に大分時間が掛かったか

見つけた洞穴は浅いものの、入り口が外から見えにくくなっており熱も逃げにくい構造だ。
焚き火をつけてからそれほど時間が経たず、洞穴の中は暖かい気温になる。

それから三人で元の世界のことを話したり、経験した出来事などを語り合う。
どうやらそういうものらしい、大変参考になった。
とはいってもこの陽気の中でいえることは限られてるのだが特になにも言われなかったのは幸いだ。
皆一人でこの世界に来ているようで、なにかしら影がある感じは見えたが二人の語りにはそれを感じない。
何時しか眠気に負け、焚き火が自然と消えた頃には三人共横になって眠っていた。

そして、陽は昇る。
流石に余韻が勿体なっくて朝からここで惰眠を貪っていたのだが、二人が起き出したので起きた。
どうやら空は曇り一つ無い晴天だ。

焔「…よく晴れてる。良い朝やね」

焔の言葉にを聞きつつも、何かこっちに向かっている黒いものに意識を向けていた。
どうやら黒いものは相当な勢いでこっちに向かって土埃を上げて走っている。

プラー「そうだねぇ。……ん？　ねえ何かこっちに向かってきてない？」

ツキ「何かってなんです――象さん？」

とりあえず知識の中にある当てはまりそうな物の名前をあげてみた。

焔「…そんな可愛い大きさじゃないね。マンモスっていうやつやろうか」

マンモスってなんだろう？なんとなくでっかい象ということを察するしかなかった。

プラー「朝食が向こうからやってきた。狩りの時間だ！」

焔「…まじ？」

ツキ「こういう人です」

私は既に慣れていたが、焔さんはどうやらとても嫌そうな顔をしていたのが印象的であった。