ENo.3016 滝宮姉弟

ハネズ「フリスト・・・静かな街、ですのね。」

スオウ「街頭も点灯しているのは疎ら、商店も必要最低限は全て閉まっている・・・ゴーストタウンのようだ。」

レディカ「あちこちの建物の窓も割られてますね・・・怖い雰囲気です。」

スオウ「あまり人も出歩いていないのが余計に不気味だな。」

応急手当のポーションも高値ですが購入できました。

治安はよろしくないですが、PSさえあればそれなりの対応はしていただけるものですのね。

いちいち実力未知数のお客を襲っていたら身体が持たないっていうのもあるのでしょうけど。

ハネズ「あらん、あんなところに本屋さんが・・・？」

本棚に並んでいるのは、各種技能の書・・・でしょうか？

この世界にしかない本ですし、興味深い品ではあるのですが・・・高すぎます。

一冊2000PS、私達を逆さに振っても出てこない金額ですね。

ハネズ「・・・あぅぅ、2000PS。」

スオウ「本が欲しいのか？しかし、馬鹿みたいに高いな。」

レディカ「そんなに本って高いものなんですか？」

ハネズ「製本するにはそれなりの技術と物資が必要です。生きるだけで精一杯の世界で、本など嗜好品のようなものですから・・・。」

スオウ「そこらの賊と動物を仕留めるだけじゃ、日々の糧を得るだけで消えてしまうね。もっと収入を得られれば手が届くのだろうけど。」

PSを簡単に得る方法・・・そんなもの、誰もが知っています。

すぐ隣を歩く冒険者を襲えばいい、と。

もっとも、そんな事をして負ければただじゃ済みません。

延々と勝ちを強いられる修羅の道とでもいいましょうか？

ハネズ「仮に今買うだけのPSがあったとしても、今はまだ買う時ではありませんの。」

スオウ「まぁそう言われればそうなのだろうが・・・選択肢がないというものは辛いな。」

ハネズ「・・・ですの。」

する必要がないというのと、する事ができないというのは大きな差ですのよね・・・。

選ぶ余地がない状況から早く脱さなければ・・・いい方法はないものでしょうかね？

スオウ「おや、あそこにいるのは・・・。」

クロネ「ハネズさーん、スオウさーん、レディカさーん！水と食料は確保できましたよー！」

レニー「わたくし達の高度な交渉術（ナチュラルネゴシエイション）があれば、この程度は容易い事ですわ。」

ハネズ「お疲れ様ですのよ、物資の調達は助かります。」

本来は全員でまとまって行動したいところなのですが、お店の位置もわかりませんし開店・閉店時間もまちまちなんですよね。

少しでも時間を逃すと買い物そのものができないので、分担して確実に物資を得る事にしました。

もっとも、この方法も小人数でいるところを襲撃されたりしやすいので安心はできないのですが。

レニー「無事に集合できましたし、拠点（シークレットベース）に戻るとしましょうか。」

ハネズ「そうですね。雨風を防げる廃屋が街の外れにいくつもあるのは助かります。」

どういう理由かは知りませんが、大半の建物に人気がないのです。

この世界の噂を聞きつけ、住民もどこかへ行ってしまったのでしょうか？

それとも、この治安の悪さに巻き込まれて・・・。

おかげで空き家の住人は多数の冒険者が日ごとに入れ替わっているようですね。

スオウ「そうそう、先日のマンモスから全員分の毛皮布団を作っておいた。今までの布一枚よりは暖をとれるはずだ。」

レディカ「全員分も作っちゃうなんてすごいです！」

スオウ「簡易布団なんて、服を作るより単純だからな。」

クロネ「私はマンモスのお肉で下ごしらえをしておきましたよー！あとはこんがり焼くだけですねっ！」

スオウ「・・・焦がさないようにな、楽しみにしている。」

クロネ「し、信用してませんね！？クリスマスの時のように、丸焦げフライドチキンにはしませんからー！」

ハネズ「・・・あの時は食べられるレベルの丸焦げで済んで良かったですけどね。」

レニー「繊細なわたくしには、ちょっとあのような炭化した料理（ブラックフルコース）というものは口に合わなくて・・・。」

クロネ「今回は大丈夫ですってばー！？」

ハネズ「一応、今回のお料理は私も手伝いますね。」

レディカ「あっ、私も手伝いますっ！」

クロネ「あうあう、ご好意は感謝・・・感謝ですけどっ！」

クロネさん、料理の腕は間違いないのですけどねぇ・・・なぜ些細なミスで大惨事になってしまうのでしょう？

私も料理は下手ではありませんが、味に関してはやはりクロネさんには負けますし。

知識でどうすれば美味しくなるかは知っていても、個人の好みにまで合わせるのは至難の業ですからね。

こればかりは経験がものをいいます。

スオウ「尾行者はいない、周囲に怪しげな人影はないか？」

ハネズ「視界内は問題ありませんの。さ、早く拠点へ入りましょうか。」

寝込みを襲撃されても困りますからね。

先週作っておいた簡易錠を扉に施錠して・・・と。

窓も一部を除いて、鉄板を張って簡単に窓を割られないようにしています。

ここまでしなきゃ安眠できないというのもこの世界ならではというところでしょうか？

ここにいるのは年端もいかない少女4人に少年1人、金品目的じゃない襲撃を起こす輩もいますからね・・・世の中には。

ハネズ「さて、今日も一日お疲れ様でした。」

スオウ「アンジニティも来てから10日も経ってしまったな。」

ハネズ「皆さん、足りない生活物資がありましたら遠慮なくお申し付け下さいね。一日あれば私が作れると思いますから。」

レディカ「そういえば、あたしの水なし洗髪剤がなくなりそうです。」

クロネ「思い出しました、いただいた食器洗剤もそろそろなくなりそうですー！」

レニー「わたくしはまだ大丈夫のようです。」

ハネズ「承りましたの。明日にはお届けしますね。」

スオウ「そうだ、ハネズに頼んでおいた爪切りと裁ち鋏はできてるかな？」

ハネズ「作っておきましたの、はい。これとこれですのね。」

スオウ「助かる。全てナイフ一本で済ませていたのでな、作業効率が上がるというものだ。」

レディカ「・・・何でも作れてしまうんですね、ハネズさんって。」

ハネズ「外にガラクタはたくさんありますからね。作ろうと思えば、大抵の物は何とかなりますの。」

せめて、この知識で出来る事くらいはしないと嫉妬するだけの役立たずになってしまいますからね。

私が最も忌むべき役立たずになってしまったら、今以上に自己嫌悪に陥ってしまいそうですから。

心の安定のためにも、今は無心でやれる事をやるだけでしょう。

ハネズ「・・・私にも男が出来たら、また変わるのでしょうかね？」

これ以上、精神的に乱されたくはないのですが・・・ね。

とかく、人間というものは難しい生物です。