ENo.2831 ひなた　＆　ひかげ

オルゼの街

街は素晴らしい石造りの建物で芸術的な雰囲気を醸しています。

「…古くさっ！！」

「あはは、一刀両断だね。」

というわけで宿屋の一室。
久しぶりのふかふかベッドに飛び込み、ぬくぬく布団のかんしょくを心ゆくまでたんのう。
そして。

「…しかたない。わかったわひなた。」

「え、なにが？」

「なにがじゃないでしょうなにがじゃっ。なにすっとぼけてんのよあんたはっ。昨日の話よ忘れたのもうっ！？」

「昨日の………ああっ。」

ひなたはポンと手を打ち。

「そのあとひーちゃんろくに喋ってくれなかったからてっきりなかったことになってたんだと思ってたよ。」

ぶちん。
なんだとぅっ。

「あたしはあれからずっと悩んでたのよなんでそんなこともわかんないのあんたはっ！！」

「いやだって、不機嫌そうなのはデフォルト設定だし。」

「でふぉるととか設定とか言うなっ、てかそうだとしてもわかりなさいよそれくらいばかひなたっ。」

あたしはひなたのえりくびつかんでぶんぶん振り回した。

「むむむ無茶いわないでよぉおぅあわわわわわわわっわわわかったわかったからうわわわわわわわっ。」

「ふんっ…わかりゃいいのよわかりゃ。」

「とゆうわけで以下回想始まります。」

「だまればかひなた。」
さてここはあたしの夢の中。
だれがなんと言おうと夢の中、そうだそうに決まってるしそうじゃなきゃ困る。
だれがって？
そりゃあ…かんけいかくしょに決まってるでしょうに。
決まってるもんは決まってるのようるさいわね。
え？だれも文句言ってないって。
顔に書いてあるのよばーか。
…ごめん言い過ぎた。
あぁん、帰らないでお願いだから。

おほん。

回想、と言われても、どっから再開したものか。
いや実際はどこでも語られてないのだから再開ではないのよね、うん。
というわけでほんのちょっぴり直前にまき戻し、スイッチおん。

　　ひーちゃん、僕はここにいるよ。

　　ひなた、なのねしょーしんしょーめい本物の。

　　うん、そうだよ。

確かにあたしの直感を裏付けるかのごとくいつも通りの服。
これがあたしの夢の中のひなただったら…もっとこう…。

　　ん？どうしたのひーちゃん。

　　いやいやなんでもない。

　　ならいいんだけど。

おほん。
ひとつ咳払い。

　　で、あんたがひなただってのは認めるとして。あたしの夢の中にまでずかずか乗り込んでくるなんてちょっと
　　ずうずうししぎないかしら？

　　ああ、ごめんごめん。でもそうしないと話しづらいし。

　　あぁん？話なんていつでもどこでもできるでしょうに。

　　いや、ひーちゃんとじゃなくて、ね。

ああ。
理解した。
あいつと話すためってえことなのね。
だったら仕方ないか。

　　おいこら。

あたしは虚空に向かって呼びかけた。
いつもあたしの眠りをじゃまするやつに向かって。
そいつは今もあたしたちのことをどこかから見ているに違いない。
てゆうかついさっきまで話してたんだからいてくれなきゃ困るし。
反応を待つ。
が返す声も、そして気配さえもない。
せめて殺気でも出してくれればまだわかりやすいんだけど。

　　ええいっ、とっとと出てきなさいよっ！！自分の用がある時だけ勝手にしゃべってずるくないっ！？
　　出てこないとひどいわよっ。

　　えー…ひどいのは嫌だなあ。ついでに痛いのも勘弁ー。

む。
いっちょまえに文句は言うのね。
だがしかし声のする場所がわからない。
そーかそーか。
ならば。
　
　　あー、ごめんごめんひどいのもいたいのもなしにしてあげるから出てきてください。

　　本当に？

　　あーほんとほんと神様にも仏様にもちかってあげるわ大サービスよ。

数瞬ののち。
空間がわずかにゆらいだ。
…そこかっ。

　　わかった今…

言い終わる時間も与えず全力の一撃を叩きこむ。

　　うぉりゃぁぁぁぁぁぁぁっ！！！

どっかあああああぁぁぁぁっっっーーーーーーーーーーーーーーんっ！！
という擬音が付いたかどうかよく分からないけど。
あたしの拳には確かな手ごたえ。
なにかにめり込んで、弾き飛ばす感触。
あたしの体を走る電流のような快感をともなう刺激。
…くううううううううううぅっ！！　き、もっっちいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいっ。
これよこれ。
相手をぶん殴る時のえもいわれぬ心地よさ。
これだからやめられない。
っと、その間に吹き飛んだ何者かがどこかにぶつかり、止まった。
ふむ。
夢の中だっていうのに画面端はあるのね。
さて、次の一手はどうしたものか。
とりあえず相手の出方をみることにしようか。
あたしは構えを正し感覚とぎすまませながらも全身の筋肉をしかんさせる。
なんだか絶好調。
さすがはあたしの夢だけのことはある。

その何者かが起き上がり、一歩、また一歩。
ふむ、足元がおぼつかないようね。
効いてる効いてる。
姿ぐらいはおがんでおいてあげようかな。
顔もでないまんま倒されるモブ敵あつかいじゃあかわいそうだものね。
あたしは、もしも（というのは飛び道具or突撃系攻撃）をけいかいしながらも相手を待った。
幸運にも、そして残念ながらそのようなとくしゅ攻撃はなく。
闇とも光ともいえないなにも見えない空間からその何者かが姿を現した。
それは
く…熊？
艶がかったこげ茶の毛並みをゆさゆさと揺らしながら。
熊が二足歩行で歩いてきた。
身長はたぶん２ｍはゆうにこえているんじゃないかしらね。
顔は…せいかん…だったんだろう。
だったんだろうっていうのは、その熊は思いっきり鼻血を垂らして目に涙をいっぱい浮かべていたから。
てゆうか明らかに泣いてる。

　　ぶっ。

吹き出しそうなのをなんとかがまんがまん。
あたしのがまん顔を見たのか、熊が明らかにふきげんそうな顔つきになった。

　　ぶっふはははははーーーーーーーーっなにそれかっちょわるっ！！！！　

　　自分でやっといてあんまりじゃね？てか神様仏様に誓ったんじゃねえのかよ小娘。

　　ぶふーっ！！！ざーんねん、あたしはかみさまもほとけさまも信じてねえっつのっ。
　　
　　う、嘘吐きは泥棒の始まりだぞ。

　　　うひゃひゃひゃひゃー、そんなのだまされる方が悪いわっ。だいいち今までさんざっぱらあたしの安眠ぼうがいして
　　いい気味だわっぶふふーっ！！！　　　　　…っておや？

　　最低だなこの小娘。親の顔が見てえぜほんとに。

　　えーっと、親の顔はちょっと…。

ひなたがなんかつぶやいたみたいだけどまあいいか。
えーっと、よくわかんないんだけどさあ。

　　ところで、なんで熊がいるのこんなところに。

　　へ？

　　へじゃなくてさあ、ねえどういうことなのよ？

　　ち、ちょっと待て小娘、てゆうかひかげ。そういうのは普通殴る前に確認しないか？なあ。

　　あーあーそういうこともあるかもね。でも、毎晩あたしに話しかけてたのってあんたで間違ってないんでしょ？

　　そりゃそうだが…。

　　だったらなんの問題もないじゃない結果おーらいよ大の男がぐだぐだ言わないのっ。
　　あーあんたは男じゃなくてオスか。ま、どっちでもいいわよねこの際。
　　はーすっきりした。一度ぶん殴ってやりたかったのよねー。
　　積年のうらみ晴らしたりぃぃぃぃぃぃっ！！うわははははははははははははは

　　…なあひなた。

　　はあ。

　　誰に似たらこんなのが出来上がるんだ？

　　さあ。

高笑いするあたしをよそにため息をつく２人…じゃなくて一人と一匹。
ん?熊は一匹２匹でよかったわよね一羽二羽…なわきゃないわよねうさぎじゃあるまいし。
だがしかし。
なんか気に入らないわ。
なんでひなたは熊見ておどろかないの？
まるで、ずっと昔から知っているかのように。
いや、あたしも声だけは知ってるんだけどね。
そういうんじゃなくてさあ。
ええいっ、なんだかもうわからんわっ。

　　うぉぉぉぉぉぉぉぉっ！！！

あたしは雄叫びをあげた。

　　な、何だ何だ気でもふれたのか？

　　さあ？なにかありましたかね。

　　うぉぉぉぉぉぉっ、むしゃくしゃするからもう一発殴らせろ熊ぁぁっっ！！！！！

　　何故ェっ！？

　　あはは、なんだかわからないけどひーちゃんらしいねー。

　　ちょ、ひなたあれお前の妹だろ何とかしろよっ！

　　あは、それを言うならあなただって…

　　こらぁっあたしそっちのけで楽しそうにはなすなぁぁぁぁぁぁぁぁ！！　　

　　なんだその理屈はっ！？？？？？？

　　ひーちゃんほどほどにねー怪我してるんだからねー。

　　ふはははは知ったことかそんなことーっ！覚悟しろ熊野郎っ！！

　　ちょっと待てっその理由ならひなたも同罪だろうがっ！？

　　なんであたしがひなた殴んなきゃなんないのよあんた殴って気分すっきり問題解決で問題なしよぉぉぉぉっ！！！

　　なんじゃそりゃぁぁぁっ

ここは誰がなんと言おうとあたしの夢の中。
あたしの為のあたしだけの場所。
なにがあろうと、あたしが負けるはずがない。
と、考えていたあたしがいた。
けれど、それは大きな間違いで。
そもそもあたしの夢の中ではなかったのかもしれないけれど。
そんなことはどうでもよくて。

あたしと、喋る熊との、天地を揺るがす壮絶なバトルが。
始まって。
終わった。
最終１２ラウンド終了ギリギリのダブルノックアウト。
つまり。
双方ぼろっぼろの。
勝者もなければ敗者もなく。

この戦いで得た教訓は。
血は争えないね。
ということ。

血？

意味わかんないわ全く。

　　誰に似たんでしょうねぇ…本当に。

ひなたが独り言を言ったような気もするけど。
まあいいか。
そしてあたしは気を失った。
自分の夢の中で。