ENo.2084 夜灯

―　我は死を告げる者、うみねこ。貴方の未来は既に定まっている　―

海に囲まれた砂地で出会った白いうみねこが、こちらを真正面から見据えてそう予言した。
一体この鳥は何を言っているのか、と無視して通り過ぎようとするとばさりと目の前で羽ばたき、執拗に行く手を塞ぐ。

―　我は死を告げる者、うみねこ。貴方の未来は既に定まっている　―

先程と寸分変わらぬ台詞をまるで呪いのように繰り返し。
そんなうみねこの言葉に誘われたのか、水の中からずるりと海草に塗れた男が二人現れた。

――――厄介な。

軽く舌打ちをして呟く。
逃げようにも辺りは海に囲まれた狭い砂地である。
どうやらここは戦わずして切り抜けられそうもない。
しかも連れの二人は先日の戦闘で体力の半分近くを消耗してまだ体調が万全ではなかった。
状況は不利になるだろう…と思いつつ身体に蒼い鬼火を灯して戦闘準備を整える。
ウルリヒと黒晶も同じような結論に達したらしく、それぞれの武器を取り出し構えた。

―　抗うか、それも良いだろう　―

そううみねこが告げるのと同時に、海草塗れの男達が飛び掛ってくる。
すぐに激しい戦闘が始まった。
しかしこちらの火力・体力不足もあり、HP・SP回復を装備している相手の体力が中々削れない。
己の慣れない回復術ではダメージを補え切れずに程なくじりじりと、確実に不利な状況へと追い込まれていった。

「にゃー……申し訳ない。少々休ませて貰うぞ。」
「…！おい、しっかりしろ！」

元々体格も小さく体力的にも弱っていた黒晶が最初に倒れたのに、ウルリヒが振り返って叫ぶ。

少し前に｢黒晶を囮にして戦闘を切り抜けよう｣と私が言った冗談に対して黒晶が｢ヤト君が言うと冗談に聞こえないじゃないかー｣とむっつりと唇を尖らせたのを思い出す。
そして今日の戦闘前に彼女にしては珍しく真面目な声のトーンで｢……差しあたって、今回がそのフラグ回収になるのかな。やれやれ｣と呟いたことも。

「悪い、後は…頼む……」

直前まで罠を張り続け、なんとか耐えていたウルリヒも続いて倒れる。
元々不運続きだ、との私の言葉に「…そっか。そのうちどこかで、運の悪さを取り戻せるといいな。この先あっさりと進める…とか？」とウルリヒは笑って言っていた。

その直後のこの戦闘だ。
己の凶運に二人を巻き添えにしているのではないか……と、ふいに不安がよぎる。
やはり己は誰ともいるべきではないのではないのだろうか。
己ひとりならその凶運も甘んじて受けるし、耐えられるだろう。
だが共にいる者まで巻き込まれるのは―――
迷いが生じた一瞬のその隙を突いて、うみねこの鋭い一撃がクリティカルヒットする。

―　輝く生命とは裏腹に、貴方の未来は闇に堕ちている　―

勝ち誇ったようなうみねこの宣言が高々と辺りに響き渡り。

―　変わらぬ運命というものがある、それを知れ　―

投げかけられた呪いの言葉に視界がぐらりと揺らぐ。

――このままでは相手の呪詛に捕えられてしまう。
何か負ではない、プラスのイメージを思い浮かべねば―――！

相手の攻撃を避けつつ、崩れそうになる精神の平衡をなんとか保とうと集中しながら、懸命に記憶の中のイメージを探る。

綺麗なドレスを着て少し照れたように微笑む緋色の少女の姿。
野営地で手際よく暖かい料理を作るウルリヒの横顔。
そしていつも前向きで元気な黒晶の。

それは忘れていた温もりと笑みを多少なりとも取り戻せた暖かい灯火だった。
いまだ記憶の大半は失われたままとはいえ、この世のすべてを呪うどす黒い感情に取り憑かれてこの世界で目覚めたことを思えば、そう思える存在が今また在るということは己にとって奇跡に近い。

所詮この世は不公平で不平等なものだ、と常々思ってきた。
幸と不幸はすべての者に50/50で平等に振り分けられているわけではない。
…………だが。

『にゅふふ、現実にはそうだが心意気の問題だよ♪
世の中が不公平であろうと、それを「不幸ばっかりダー！」　と嘆いていては楽しくなかろう？』

記憶の中の黒晶の言葉をにかっと笑った彼女の笑顔と共に思い出す。

『うむうむ、折れない心さえあればどうにでもなるものだよ♪』

己も同じようなことを先日折れそうになっていた緋色の少女に言ったのだったな…と思わず苦笑する。
『己の人生を選択するのに誰かの許可など必要ない。その生き方が嫌ならば今日からでも変えればいい』と。

そこまで考えて息を大きく吐き。
白い尾をゆらりと大きく一振りして、うみねこの光のない瞳を真紅の瞳で正面から見据える。

―――いいだろう。
それが試練なら抗ってみようではないか。
お前の言う『変わらぬ運命』とやらを変える為に。

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10日目自PTの戦闘結果を元に書かせて頂きました。
PTMさんお借りしてます！