ENo.1774 募集中

昨日も無事ワカメマンを撃退した。
今日の朝食はジルが作ってくれた「ワカメの酢の物」だ。
すっぱいけど美味しい。
ジルはいつも通り、酒を飲んでいるだけだ。
ふと、僕だけ美味しい物を食べている事が勿体無く思えた。

「…ジルが食べなくても大丈夫なのは解ったんだけどさ…食べられない訳じゃないんだよね？」
「…それが何か？」

ジルは僕の言葉に、なにやら警戒したような雰囲気だが、質問の答えは得られた。

「あ、否定しないんだね！いや、食べられるならジルも食べれば良いのにと思って。」
「別に食べなくても健康面に問題はない。だいたいここの食料ときたらまずくて食えたものじゃないからな。」

そっぽを向いてまた酒を飲む。

「健康に支障なくても、食べる楽しみが無いのは勿体無いじゃないか。それに、今僕が食べてる料理はとても美味しいよ！」
「それは君の舌が未熟だからだ。大体自分が作ったもののことなど作った本人が一番良く知っている。」

皿を差し出してみるが、ジルは見向きもしない。

「味見してるのかい？」
「まぁ…私くらいにもなれば味見をせずともどういったものが出来るかはわかるのだよ。」

味見をしているなら、ジルも多少は食料を口にしている事になるが、そういう訳ではないようだ。

「……味見しないで味が解る筈ないじゃないか……
　あ、じゃあ僕が料理を作るよ、ジルのために！」

ガックリきた分、次の瞬間の思いつきは素晴らしいものに思えた。
誰かのために作る料理は美味しくなるものだと思っていたからだ。
ジルが、本当に食べ物なのか疑う程の食材で僕に作ってくれた料理が、いつもとても美味しいから。

「ほう…ではつかぬ事を聞くが君の料理経験はいかほどかな？」

ジルが意地の悪い笑みをうかべる。
この時漸く、自分の料理のレパートリーを思い出した。

「……数え切れない程……魚を焼いたよ。」

ジルがふきだした。

「いや、てっきり料理したこともないかと思っていたが…生じゃないのか…くくく、いや焼くことはできたのだな。失礼！」
「ジル……僕が魚を焼くのがそんなに面白いなら、ジルのためにいくらでも焼くけど…」

一人で各地をふらふらしていた頃は、自分で採った木の実や野草や魚が主な食料だった。
僕を天使と勘違いした人間達にご馳走される事もあったが、
居心地が良いと思える場所には巡り逢わせが無かったので、すぐにまたふらふらする事になった。
ずっと笑っていたジルが漸く息を整えた。

「私が面白がったのは予想以上に君が文明的な食生活を営んでいたことなのだが…大体君の焼く魚が美味いはずなかろう。」
「はぁ、僕ってそんなに野生的？確かにジルの料理みたいに美味しくはないけど、魚に塩を振る事だってできるんだよ？」
「なん…だと…？」

ジルの驚き様にこちらが驚くぐらいの、驚きっぷりだ。

「ちょ、そこまで驚くかな？」
「君が塩を振ることが出来るとは…侮っていたな。まさか魚をさばいたり内蔵や頭をとって三枚におろしたりも出来るのか…？」

ジルにふざけている様子は無い。
今まで魚を捌く必要は無かったので確かにそんな経験は無いが、
このジルの驚き様を見ると、ジルの僕に対するイメージが何となく想像できるな…。

「いや…それはやった事ないけど…」
「そ、そうか…やはりそこまでの技術はなかったか…。」

ジルは安心した様な雰囲気で息をつき、笑った。

「で、君は未開の奥地で出るような料理で私に喜んでもらおうと？」

僕だって出来れば手の込んだ物をご馳走したいが、腕が無いのだから仕方が無い。

「意外と美味しいよ、食べてみない？」
「ははは、馬鹿も休み休み言い給え。結構だ！」

今日、今までで最高の笑顔で言い切るジルに、思わず苦笑が漏れる。

「それは残念…」

ジルの料理をまた一口味わう。
料理を勉強するならば、どうするのが一番良いだろう？