ENo.1118 エシャロット=グレイス

エピソード１０　どこまで逃げればいいのだろう

消えない。

血の臭いが…

きえない。

真っ赤で…

きえナイ。

真っ黒で…

キエナイ。

目の前に広がる世界は…赤と黒だけの…荒廃した大地…

すでに原型はないほどの、人ならざるもの…

…ここはもう、何もない世界…

…物語は終わり、歴史は終焉へ…

…すべてが…終わる世界…

…頭に重く響くような声が聞こえる。

「なぜお前だけ生き残った」

「…………」

虚ろな目で、光を目に宿していない少女は、赤く、黒い空を見つめていた…。
空からは火の雨が降り注ぎ、海は煮えたぎり、太陽は永遠の暗黒に隠された世界。
生命と言う生命のほとんどが死に絶えた世界…。

「……こっちが、聞きたいですの……」

幻聴のような声に少女はそう答えた…。
何もかも、どうでもいい…どこまでも深い絶望を見た目で…そう答えた…。

…頭に重く響くような声が聞こえる。

ナ　ゼ　オ　マ　エ　ダ　ケ　イ　キ　ノ　コ　ッ　タ

「……あたし……アタシ、ハ……」

・・・

・・・

・・・

「！！」

エシャロットは目を大きく開いて目を覚ました。
ここにきて、何度目かの夢、断片的な記憶…。

「はぁ、はぁ、はぁ…」

身体を起こし、苦しそうに胸ぐらをぎゅうっと掴んで、呼吸を整えようとする。

「なんで…また、こんな夢……」

かつての仲間達。
出会い、別れ。
滅んだ世界。

「みんな……みんなは……」

なんとか正気を取り戻し、あたりをキョロキョロと確認する。
相変わらず天気は悪いが、若干あたりが明るくなっているのを感じるため、朝日がそろそろ登り始めようとしている頃合いだとわかった。
まだみんな、寝ているようだ…。

「はぁ…よかった、ですの」

何か安心したかのように、息を吐くエシャロット。
その安心は、仲間がそばにいたこと、悪夢から覚めたこと、色んな思いが込められていそうだが…
何よりも、自分の「弱み」を見られなかったことに、安心している様子であった。

「ハッ……はっくしゅっ！！」

今日も、寝床はよく冷える。
妖精たちはこの程度の寒さは大丈夫そうだ。イグニにいたってはまず身体が冷えることはなさそうだ。
トトとひびなも獣人でなおかつ子供体型だから体温高いんだろうなー、もふりたい。

「う〜、みんな暖かそうでずるいですの〜…えはー、こうなったらー…！」

いつものようにお酒を取り出す、が…中身はからっぽになっていた…。

「ちょ、これシャレにならんですの……でもここは街ですの！お金もあるですの！んふふ、みんなが起きるまでに〜、お酒の買い出しにでもいくですの♪」

そういいながら、ルンルンとスキップし、楽しそうに腕を振りながら店へむかうのであった。

・・・

昔のことを思い出す。それは、長く生きれば生きるほどに募るものかもしれない。
そして、楽しいことも、つらいことも、たくさんの思いがつまっていっていく。
あの時はこんなこともあったって、『本当に』笑える日がいつかくるものかもしれない。
だが…エシャロットは…。

・・・

「んーーーー！！げんきひゃくばーーーい！！」

今日も朝がやってくる。イグニは勢い良く燃え上がっていた。
元気のない日が続いたイグニではあるが街でしっかり休んだこともあり、すっかり調子を取り戻していた。

「起きるのだー！起きるのだー！」

「あ、あうっ…みみ、ひっぱっちゃだめです……お、おはようございます…」

「ひびなー、おきないと、かたなたべる」

「やめろぉ！？」（がばぁっ

コヨートルはトトと、エペタムはひびなと…すっかりこの組み合わせで安定と言った様子。
エシャロットとイグニもなんだかんだで上手くいっている気がする、妖精さんは相棒的な感じがよく似合うのであった。

「うへあー、みんなーおっはよーーですの〜〜〜〜！」

「えしゃろっと、はやおきとはめずら…さけくさっ！？」

「も、もうのんだんです…！？」

朝からいきなり酒を飲むのもどうかと思うが、ここ数日エシャロットと出会って、それはもうみんな慣れ始めていた…。
そのため、どちらかというと早起きのほうに驚かれていたようだが、それでいて酒に手をつける速さ…改めて驚いたという様子であった。

「エシャロットーー！」

「いーぐにーー♪」

イグニが久しぶりに出会った飼い犬のように飛びつこうとする。
エシャロットもそれには甘んじて受け入れた。

ぎゅうっ

ドジュウッ

「ほあ゛〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜！！！？」

こうなることはもはやわかっていたのにエシャロットは燃えはじめた。

「えしゃろっとーーー！？」

・・・

エシャロットはミイラ女になっていた。
ちょっと久しぶりなので激しいプレイをしてしまったようだ。

「まったく、いつになったらがくしゅうするんだ…」

「学習〜？イグニちゃんに触れたら火傷するのは知ってるですの！」

「こ、これはやけどどころではないとおもうぞ…？」

「そこにかわいい妖精さんがいるから〜、仕方ないん〜ですの〜♪」

エシャロットのその様子には、ただ溜息しかでないといった様子のひびなであった。

「えしゃろっと…ごめんねー…？」

「ん〜？」

さすがにやりすぎたと感じたのか、イグニはエシャロットを心配そうに見つめつつも、申し訳ない気持ちを積もらせていた…。

「そんな顔しないでほしいですの、イグニちゃんのやりたかったことは〜、あたしのやりたかったことでもあるんですの！」

そういうとエシャロットは、イグニの頭にぽんっと手をのせてなでなでした。

「んっ…！んっ…」

「…おおっ？」

熱くない。いや熱くは感じるが、触れるくらいの熱さである。これは…

「お〜？触れるですの〜♪なでなでなで〜♪」

「ふみゅっ…えへ、えへー♪」（ごおおっ

「あっちぃ！？」

なでなでされたのが気持ちよかったのか、嬉しそうな顔をするイグニだが、次の瞬間エシャロットの手を再び火傷させてしまった。

「いま、たしかさわれたよな…」

「う、うん…」

「んふふ、これはいずれちゃんと触れ合える日もきそうですの」

「ほんと！？」

「ほんとですの〜、イグニがいい子にしてればきっと大丈夫ですの！」

これはもしかしたらの話だが、イグニは弱っていたり、眠っている時には普通に触れることができていた。
つまり、力が残り少ない、または落ち着いた感情を維持できれば触れることができるのではないだろうか…。
イグニはまだ生まれたてであり、その辺の力の制御はできないということもありそうだ。

「そのためにも〜、いっぱい訓練とかするですの〜、力の使い方をマスターすれば大丈夫ですの〜！」

「わー、よくわからないけどがんばるー！」

「んふふ、そしていずれいっぱいらぶちゅっちゅっするのですの〜、うふふふうへへ」

「ら、らぶちゅ…」

「らぶちゅー？」

ひびなは顔を赤くした。イグニは意味はわからない様子で首をかしげていた…。

続く。

・・・

いきなり次回予告！

「さぁー、再び冒険に出発ですのー！」

「おー！」

ミイラ女状態、もとい火傷は治ったようだ、さすがはギャグマンガの住民である。

「もう五時かー！」

「小腹すいたねー！」

エシャロットの謎のネタにイグニはしっかり対応した。この妖精、調教されておる…。
冗談はされおき、しばらく進んで、山岳が見えてきたあたりで食事をとることにした。

「……」

「んー？トトちゃんどうしたんですの〜？」

「…ごはんわすれました…」

「なんだとーーーーーーーー！！」

「ひっ！？」

コヨートル、怒髪天である。食べ物の恨みは恐ろしい。
コヨートルの食料もトトが担当していたようだ…。

「まったく、おなじしゅぞくとしてなさけない！」

「まぁまぁ、ひびなちゃん、ここからならまだ街に戻れるですの〜」

こうして、再び街へ引き返すことになったパーティ一行。
……無事に戻れるといいのだが……。

次回、エピソード１１、お腹が減って力がでない！お楽しみ！

※エピソードタイトルはタイトルは変更される予定です。