ENo.1089 不死人間と蟲人間？

「あ〜ねご〜」
「･･･ん？」
聞き覚えのある声が上空から聞こえた。

煙草が飛んできた？
いいや、違った。あれは煙草を抱えた小さい蟲である。
人語を巧みに扱い、顔が三面あり、宇宙的螺旋を描いた触角を頭に生やし、腹から脚を１０本生やした昆虫の定義から外れた昆虫的な蟲。地元にいた生物である。
「お前〜、どうしたんだ。ちっさくなったな？」
そう、元は人の子、それこそミュゼと同等の背丈であったのに
今はもうカブトムシ程度の大きさでしかない。
「長旅で体力使っちまったらよ〜、何時の間にかこんなになっちまった。」
「小さくなるまで必死になって何しに来たんだ？」
「決まってんでしょー。悪戯しにきたのよ！」
「おいおい、命懸けで悪戯しにきたのかよお前は･･･」
「あぁん？何言ってんの？
オイラ光で喰っていけるから働く必要もなくて暇なの判っているよね？
お前が一番体質について知っている筈だよねえ？
時間あるわけじゃん？なあ？
暇なのよ、そう。
じゃあ何をするかといえば悪戯をしたくなっちまうのよ。
だって食べる為に努めたり働いたりする必要ないのに、相手の立場を考えて過ごすのって正直莫迦らしくね？
それでもってオイラは人様のリアクションを愉しみにしているわけなのよ。
生きて感情ある証拠よ、リアクションあるのって。
あぁもしかしたらオイラの糧は光とその豊かな表現から来ているのかもしれない･･･！

そんなわけで悪戯しにきたの。」

小さい癖によく喋る蟲である･･･。
ミュゼときたら、今度はあっさり同行を許可してしまった。
身内補正だとしたら、あの林檎男が哀れすぎる。しかし･･･
「こいつちっちぇえし、ほら、あいつに頼まれたんだろ？
あいつの分まで頑張ってもらうわ。」
林檎男の持っていた煙草を何気なく咥える。
「ただし俺の邪魔をするようだったら容赦なく
殺虫スプレーぶっ放したり、蟲っぽく叩き潰すからな。いいな？」
「はぁ〜い、あねごだいすき♪」
ミュゼの周りを飛び回る。
よく見ると不気味な体の作りの癖に、飛んだ際に舞い散る鱗粉はやたら綺麗に輝いている。

悪戯がこいつの美学、嫌われようが何を思われようがそれが人生、その潔さは男前、或いは美しいのかもしれない･･･

「あー、さすがに呼び名がないと喋り辛いわな。」
「名前かい？必要ならあねごが付けておくれよう。ジェダじゃ絶対だっせぇもん。」
余計な事を言うな･･･
「そうだな、えーと･･･マサ･･･ナオ･･･。マサナオ！」