ENo.934 アルシア=フィアス

「なんなのよ、もう…」
呆れたようにため息をついて襲い掛かってくるハムスター。
それに対し、
私は相手へと踏み込み舞うように銃弾を連射する。
狙いはしない。
ただ味方のいる方向にだけは撃たないよう気を付ける。
それだけで、
相手に銃弾が穿たれ敵の戦力を削る事が出来る。
そして敵の攻撃はそのまま紙一重で避ける。
避けやすい動きをしているのだから、
当然といえば当然だろう。
そしてそのまま避けながら銃を乱射する。
リィンさんとエモさんもいる為、
面白いほどにハムスター達は消耗していく。
ハムスターの動きは鈍重で、
全て避けるのは無理でも、
致命傷を避けるのは容易い。
一気に押し込んで倒し切る。
三匹のうち最後の一匹が崩れ落ちた時点で、
ハムスター達は降伏した。
「好きに……すればいいじゃない。」
折角なので皆でもふもふする事にした。
…驚くほどにもふもふしていて、
少し幸せな気持ちになった。
…またこういう機会があれば幸せでいいのにと思ったが…
それは贅沢…なのだろう。きっと。
その場を後にして先に進む。
今日はゆっくり眠れそうだ…

夢を見た。
懐かしい夢。
あれはまだ、
私が小さかった時の頃。
十にも満たなかった私は戦場にいた。
硝煙の匂いと、
死の香りがたちこめる戦場に。
私は銃を手に泣いていた。
親しかった友達も、
優しかった先輩も目の前で死んでいた。
だけど、
私は引き金を引けなかった。
人を撃つなんて出来なかった。
ただただ怯えて…
皆、犠牲になっていった。
引き金を引いていれば救えたかもしれないのに。
失った事、
己の情けなさ。
私は自分が許せなかった。
だから泣いた。
ずっと…ずっと…
けれど、
ここは紛れも無く戦場。
泣いていても敵は来る。
「ひっ…」
怯えた声をあげる私。
慌てて隠れるけれど、
そんな私に一人の男が銃をもって寄ってくる。
息をひそめようとする。
けれど、
上手くいかない。
身体が震える。
涙で視界が揺らぐ。
(気付くないで…
お願い…お願いだから…！)
懇願(こんがん)する。
神へと。
けれど――
神に願いは届くはずもなく、
無情にも男は銃を構えたまま木の陰に隠れた私を見つけ出す。
男は口元を歪めて笑い、
銃口を私に――

「――ッ…！」
飛び起きる。
なんて夢。
もう、
すっかり見なくなって、
忘れていたというのに。
今ではもうすっかり過去の事として受け止めてるし、
気にする事でもない。
それが戦場なのだから。
しいていえば、
昔の恥を見せつけられて恥ずかしい。
そんな程度の事。
けれど、
だからこそ嫌な夢には違いない。
「なんて夢見…
　今更あんなのを見るなんて、
　ついてないね。」
全く、嫌な気分。
けれど、
見る夢は選べない。
仕方のない事。
時間を確認しようとして腕時計を見る。
日時は１月１日。
という事は――
「…そういえば年の瀬も過ぎて、
　もう新しい年…か…
　その一発目があの夢だなんて、
　気を引き締めろって事かねぇ。
　全く、見る夢は選べない訳だから…
　ま、仕方ないのだけれども。」
ため息をつく。
そして目を閉じてあの時の事を思い返す。
あの後――

――パァン。
乾いた音が響く。
その音を聞いて近くにいた２，３人が駆け寄ってくる。
――パァン
――パァン
――パァン
続けて三発の銃声が響く。
「あ、ああ…」
崩れ落ちる４人の男。
最初の一人は油断していた。
怯えた少女だと思ったから。
残りの２，３人はそもそも戦う気構えが出来ていなかった。
きっと、
仲間が誰かを見つけて殺したのか？
そう思って駆けつけたのだから。
だから、当たった。
私は恐怖に堪えきれずに引き金を引いて、
恐怖が故に銃から手を離せなかっただけなのに。
それでも、
４人全員に当てたのは…
一つの才能、
だったのだろう。
命中させるという才能。
偶然だったのかもしれないけれど…
一つだけ確実な事。
それは、
私が生き延びたという事実。
その後の事は覚えてない。
気付いたら他の部隊の人に保護されていた。
良くやったとかいわれたような気もする。
けれど…
私はただ怯えていただけだというのに。
そして――

「アリア。行くよ？」
思い出にふけっていると、
不意にテントの外からリィンさんの声が聞こえた。
どうやらもう時間のよう。
「今いくよ。
　テント畳むから待っておくれ。」
準備を手早く済ませテントを畳む。
また先を急がねばいけない。
思い出にふけるのは後にして、
今は先を進もう。

それにしても、
ここに来てからの練習試合は何回目だろうか。
最近、あまりいい結果を残せてない気がする。
(…まぁ、たまには…とも思うのだけれど…)
正直、
毎回思うのだが…
相手が強すぎる気がする。
いや、私が弱いだけなのかもしれないが…
銃でびくともしない敵が多すぎないか？と思う。
「寸止めは得意じゃない。
　悪いが、このままでやらせて貰う」
そして、
今回の相手の一人は剣を鞘に入れたまま戦うらしい。
「中々手ごわそうな相手だね。
　それにしても、
　銃対剣か…私の世界じゃ物語の中くらいだけど、
　はてさて…」
剣で銃と渡り合うのが当たり前の世界。
(…全く、私が場違いに感じるね…
まぁ、場違いではあるのだろうけれど。
魔法を知らず、
銃に頼るしかない私じゃ、ね…)
幸いというかなんというか、
相手の一撃で死ぬことはないらしい。
よく相手も加減してくれてるものだと思う。
間合いを取って相手を狙う。
(…距離があるうちに仕掛けるとするかね…！)
銃を抜いて２連射。
だが、
一発は小手で弾かれる。
よく反応出来るものだと思う。
「チィ…！」
続けて妙な動きをしている一人に一発。
素早い動きで落とし穴を作っていた人物…ツェロさんだ。
放置しておくのも厄介な気がしたから狙ったのだが――
それが不味かったのだろう。
「正面は得意じゃない。
　……ならば、上からだ」
剣士…ロッドさんが上から鞘に納めた剣で攻撃を仕掛けてくる。
どうやら、
最初の連射の２発目をはじいた後、
正面に立つのが不味いと思い、
いつの間にか跳躍していたらしい。
鞘に納められ、
素早さに重点を置いた攻撃。
銃でいなし、逸らし、
辛うじて被害を最小限に止める。
けれど、その次の瞬間、
わき腹に激痛が走る。
今度はロッドさんに気を取られた私に、
ツェロさんのスコップの一撃が叩き込まれていた。
「ぐっ…！」
エモさんとリィンさんはそれぞれ攻撃を仕掛けてくれているが、
「いかがかしら？」
３人の相手の残る１人、
エリーさかの支援、
そして…
(この罠…)
なんとか一つ目の罠を銃で回避する。
が、
リィンさんが落とし穴にはまっているのが見えた。
まさに絶妙の配置。
連携で誘い込むような動き。
何とかしようと銃を撃ち牽制するも、
素早い動きでロッドさんが落とし穴に落ちたリィンさんを攻撃する。
更に周囲に気を取られたのが不味かったのだろう。
更にスコップの一撃を受けた私は、
第二の落とし穴に足を滑らせ…
最後のトラップの餌食になる事になる。
「〜ッ！」
落とし穴から抜けるには時間がかかる。
仕方なくそのまま銃で応戦する。
けれど…
致命傷には至らない。
仲間達も頑張ってくれてはいるものの、
どうにも手詰まり。
そして…
背後から襲いかかる衝撃。
どうやら後ろに回り込んだツェロさんのスコップが私の頭を強打したらしい。
そこで意識は途絶え――

気付いた時には敗北していたようだった。
練習試合の礼をいうと、
「もし気分を害したようなら、すまない。
　今はこれで勘弁してくれ」
と鞘に納めた剣をベルトに納めながら頭を下げられた。
…ロッドさんは礼儀正しい。
態々剣を抜かなかった事を謝るなんて。
「いや、練習試合だから仕方ないさ。」
練習試合だからの気遣い。
それが分からないという訳ではない。
私も何か練習試合用の銃弾を用意した方が良いのだろうか？
実は実弾と空砲くらいしかもってない気がする。
「それにしても、
　よく弾を弾けるね…」
「大体その武器については予測もついていたので、
　後はどう飛んでくるか予測すれば後は…」
「成程、ね…
　闘ってくれてありがとう。」
ひらりと手を振って相手をしてくれた三人と別れる。
やはり、三人で行動している人達は、
実力もそうだが、
連携も優れている。
私達はこのままではいけない。
まるでバラバラな気がする。
――次闘う時までに、
もっと連携が出来るようにならないと――ね。
仲間の二人を見る。
はたして、
私達は上手くやっていけるのか――？
それは今はまだ分からない。