ENo.619 24式ルクファリ単騎遠征試験機運用斑

　帝国歴2224年、皇帝即位60周年を機に、これまで机上の空論と捨て置かれていた様々な軍事理論や兵器理論が再検討すべしと勅命が下った。

　陸軍技術研究長官である皇弟ルクファリ四世は、自らの名を冠した戦車、ルクファリの最新型である24式の試作プランの一つとして、長期遠征に長けた燃料補給のいらない高機動戦車を皇帝に奉ずる。
　その翌日、二人の男が長官室に呼ばれた。

　一人は戦車兵として功績を挙げ、過去に英雄とまで呼ばれたが、度重なる失態で続けざまに降格し、中佐の位から大尉にまで落とされた男。
　階級や履歴から一戦車兵としては扱いづらいとして閑職に回されていたフィッツバーグ大尉。

　もう一人は士官学校を四位で卒業し、技術畑の人間でありながら前線任務でも功績を挙げ、若くして大尉になった期待の星。
　ルクファリ型の設計にも携わった秀才ガイデルハント大尉。
　二人に与えられた任務、それは――

---------------
・24式ルクファリ単騎遠征試験機（Lucfali-Type24-Solo expedition/Test type）
　最新鋭のルクファリ型戦車、通称「24式」の試作バリエーションの一つ。
　可変式無限軌道による高速不整地走行と踏破の難しい地形の対応による、高速移動＆これまで戦車では乗り込めなかった地形への戦車投入という24式の共通コンセプトを土台とする。
　新開発された高効率の光/熱充電パネルを機体上部と側面ハッチ内に大量に搭載し、そのエネルギーのみを動力として使う事で、長期遠征に必要な補給量を減らす事を目的とした一人乗り戦車。
　正面からの被弾面積を抑える形状を持ち、操縦席ごとリング状に上下可動する砲身による高い射角での長距離砲撃を可能とした。
　その反面、操縦士への負担が大きく、また充電パネルを搭載するために側面装甲を捨てた上に砲身のみの旋回機構を省くという、安全性を無視した設計になってしまっている。
　戦闘時のみ高速駆動し、行軍時には側面ハッチを屋根のように展開させて充電パネルを露出させた微速行軍モードとなる。
　その際には操縦士も歩兵や補給部隊と共に徒歩で移動をする事が求められる。
　主任設計士はゼーバイツァー技術大佐、副設計士はガイデルハント大尉。

・フィッツバーグ大尉
　陸軍第八戦車大隊所属。幼い頃に故郷が帝国に侵略され、併合された。
　手っ取り早く食べていくために軍隊に入り、なるべく死にたくないなと考えて戦車隊を志望した。
　過去に囚われない陽気な熱血漢として部隊員の評判も良く、並々ならぬ戦果を挙げて中佐にまで昇進。
　貴族でも士官学校の出でもない、被征服民出身の叩き上げの軍人で佐官となった初めての例となる。
　帝国内で併合した異民族との融和政策が進められていた時流と相まって英雄と持てはやされるが、とある作戦での敗戦の責任を取って少佐に降格。その半年後に命令違反で大尉に降格となった。
　ヒマを持てあます今の軍内隠居生活も嫌いではないが、皇弟直々の命令で仕方なく新型戦車の実験に派遣された。

・ガイデルハント大尉
　陸軍技術研究局所属。大学で科学技術を学んだ後、陸軍士官学校に入り四位の成績で卒業。
　軍事技術の研究分野での功績に加えて、前線任務での参謀への進言が認められ、少尉任官から2年で大尉となった。
　真面目で冗談を解さず、任務中の私語を嫌う。
---------------