ENo.578 ジャック・M・バイオス

ジャック「（これは食べられる物……なんだよな？）」

俺はキングさん手作りの料理……納豆かけご飯を前に困惑していた。
何がヤバイってその……見た目がヤバイ。ヤバイっていうか危険水域ですよ奥さん。

器に並々と盛られた、ヌメヌメ茶色に変色して糸を引いてるこの煮た豆のような謎の物体Ｘ。

おそらくチーズと同じ醗酵食品の一種なんだろうけど、
臭いと粘々した糸引き具合の相乗効果で俺には醗酵がすすみすぎて腐敗してるようにしか見えない。

「……どうした、やはり臭いが気になるか？」

スプーンが止まっている俺を見てキングさんが話しかけてきた。

ジャック「い、いや……臭いは大丈夫っすよ」

「そうかそうか……それは良かった」

さぁ、ご飯が冷める前に食べてしまえとキングさんに勧められる。
ちらりとキングさんに視線を向けると、キングさんと目（？）があった。
……俺がこの納豆かけご飯を食べるまでキングさんの視線の照準が外れる事はなさそうだ。
最初から解ってたことだが俺に納豆かけご飯を食べないという選択肢は無いのだ。

ジャック「（チクショー！食えばいいんだろ、食えば！）」

覚悟を決めて糸を引いたスプーンを口元まで運ぶ。
同じくらいクサいとはいえ、チーズと違って今まで嗅いだ事の無い臭いだからか
温められて更に強くなった醗酵臭に一瞬、身がすくんでしまう。
しかしもう後に引くことはできない、俺は目を閉じてスプーンを口に押し込んだ。

勢い余って噛んだ金属スプーンの堅さの後に、一緒に噛んだ軟らかい豆の感触が気持ち悪い。
このままだと飲み込めないのでスプーンを口から引き抜くと、唇にぬるりとした何かがくっついた。
これがさっき見たネバネバした糸引く部分だろうか？目を瞑っているから確認しようがない。
早く飲み込もうと口の中で咀嚼すると軟らかい豆がいちいちニチャニチャ音を立てて潰れる感触がした。

だが、不快な食感とは裏腹に、口の中に広がる塩気は悪くない。
塩気の中にかすかに感じる甘みが不快な食感を和らげてくれる感じがする。

ジャック「（……なんなんだよこの食べ物は、色んな意味で滅茶苦茶じゃないか！）」

滅茶苦茶臭くて、見た目も糸引いてたりして滅茶苦茶だし、
食感も腐敗してるんじゃと思いたくなるくらい滅茶苦茶気持ち悪いけど滅茶苦茶美味いじゃないか！

俺は無我夢中で納豆かけご飯をスプーンですくって口に運んでいた。
見た目も食感も気持ち悪いのによく咀嚼して味わって食べた。

気がつくと器に山盛りに盛られていた納豆かけご飯はなくなっていた。

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「……満足していただけたようだな」

してやったりといった表情（？）でキングさんに話しかけられた。

ジャック「そうっすね、美味かったっすよ」

あの腐敗してるような見た目と食感には当分慣れそうにないっすけど
……と心の中でボヤきながら俺はお茶を口に含んだ。

このキャラバンに入って色々なメリットはあるけれど
前にフユリカさんにもらったどら焼きや、今日食べた納豆かけご飯等、
食を通じて気軽に異文化に触れられるのは有難い。
旅に出るまで魔術の勉強ばかりだったからセルフォリーフの体験はどれも新鮮だ。

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ジャック「それにしても……今思えば、俺の故郷って全体的に飯マズだったんだなぁ」