ENo.533 リヴェリア

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Now Lording...

ありとあらゆる並行世界を問わず、就学生活を経験した者ならば、真っ先に挙げるだろう一大イベント。

ソレは正しく、学園祭に他ならない。

展示とか模擬店とかライブステージとか。
或いは特設ステージを借り切っての、バトリングなんかもあったりするかも知れないケド。

種類の如何を問わず、まず共通するのは、ソレら全てが「楽しむこと」に裏打ちされた催しだってコト。

クラブやサークル、同好会なんかで集まって。
計画を練り、書面を作って、許可を申請し、屋台を組み立て、看板を塗る。
目を惹くばかりの装飾を施した空間。その一角にうず高く積み上がるは、総員をして買い出した資材や食材だ。
そして、ただの「材料」に過ぎなかったソイツらを、ああでもないこうでもないと試行錯誤を重ねながら、「商品」へ昇華させていく。

そうして出来上がるのは、紛うことなき、自分達だけのテリトリー。
今日。そして、明日から三日間だけは、我ら以外に何者も、口を差し挟むことは赦されない。
日々学生を悩ませる、小煩い教師連中や成績評価の存在さえ干渉し得ない、言うなればミクロ単位の自治領である。

否、規律を前提とする就学生活においては、本来そのような特例は認められない。
然もあろう。学園は、学び舎の名の通り、あくまで勉強を求める者のために組織されたコミュニティ。
一定の自由は存在こそすれ、本領を汚すような奔放は、コミュニティそれ自体を崩壊させる要因となる。

このような特例が認められているのは、学園祭というイベントが学業の一環であるからだ。
全ての学生が、コミュニケーション、リーダーシップ、パートナーシップ、リレーションシップ。
終いには、付加価値と商品価値の何たるかまで、確固たる実体験の下に学べる機会を、どうして手放すことが出来よう。

彼らのテリトリーが自治領たり得るのは、この辺りを根拠とする。

準備が終われば、残すは今夜を過ごすのみ。皆、思い思いに。
ある者は、明日への期待に胸を膨らませ。またある者は、明日よりの成功を寝際に祈る。

そして、開場の刹那より、彼ら尽力の集大成は、衆目の評価を受けるのだ。
我らの手による「商品」が、果たして今、時間を割いてまで鑑賞に値するものか。現金を対価にしてまで購入に値するものか。

たかが学生の作製したものなれど、例えばソレが苦悩と研鑚の果てに産み出されたのなら、もはや一個の「作品」と呼んで相違ない。

「作品」に支えられているからこそ、学園祭は多数の入場者と、それに倍する賑わいによって活気付く。

────そして、これら一連の流れは、例えば世界が「躍動」と銘打たれたとて、寸分の狂いもなく機能している不文律に他ならない。

足を踏み入れたソコは、ラスベガスの夜もかくやという混沌っぷりだった。

ただでさえ、測ろうとさえ思わないような、広大な面積を誇る魔法学校カメーリエ。
ビルと見紛うばかりの各種建造物はその敷地を占拠せんと屹立し、それぞれが己の偉容と、己に傾けられた財力を示威して憚らない。

分校責任者、ルナリアの背後にはとんでもなく潤沢な資金源が控えているに違いないケド、まぁソレはいいとして。

そんなトンデモ施設に、古今東西どころか異世界までも飛び越えて、学術、知識、食文化その他諸々が集結するのだ。
オマケに今回は、なんだかアイドル集団がプロダクション包みで広報活動してるとか。機械世界が宣伝に押し寄せてきてるとか。

それだけの要素が一同に会すれば、なるほど。来場者の数も推してはかるべきで、真実、枚挙に暇がない。

へー、すっごいじゃない。文字通り、御世辞抜きでハンパじゃないわ。

これは、ちょっと、うん。計算違いだったかな。

皆のお祭り気分に乗じて、普段では立ち入れないような学園の奥の奥とか。
欲を言えばルナリアや他の職員のアレとかコレを覗いちゃおうとか思ってたりしたケド。

どうもそんなことが出来る状況でもないらしい。と言うか、これはわたしも楽しまなきゃ損だろう。

……ホント、アイツも来れば良かったのに。

どうせなら、アイツにこの光景を────「未来」には、こんなにも楽しいことがあるんだって、見せてやりたかった。

ケド、かつては過去の一つでしかなく、今は現在に生きるているアイツにとって、赦されないこともあるんだろう。
セルフォリーフを似ているとわたしが感じたように、アイツだって、実は依頼を受け取った時から気付いていたのかも知れない。

即ちソレは、システムが酷似していることに起因する、過去への退行の可能性。

アイツを現在に引き入れた張本人としては、無理に連れて来るなんてコト、出来るハズもなかった。

そうね……うん。じゃ、今日は思いっきり遊んで、楽しいことをこれでもかってくらい経験しておく。
そして、セルフォリーフでやるべきことが済んだら、今日の、この話を土産に、アイツのトコへ帰ろう。

未来には、こんなにも楽しみに満ち溢れているんだって、アイツが思えるように。
例えば仮に。万にひとつかも知れないケド。アイツの心の中で、未来への期待が、過去への恐怖を打ち倒したら。

その時は、今度こそ、何ひとつの不安なく、一緒にまた並行世界巡りができるに違いないのだ。

そう決心して、もう一歩。わたしはカメーリエの正門に向かった。

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