ENo.516 大神美弦

　死ぬかと思った、おかわり。
　
　　　　　…
　
「いやー、清々しかったね」
「ああ、清々しかったな」
　２回連続で封殺とかさすがにへこむ。
　結論は簡単で、要するに、自分のレベルや装備と相談した場合、どだい無理な話だということだ。
「だって初期装備だもんねえ」
「んだな」
　ひのきのぼうとぬののふくでラスボスを倒せるのは、ＴＡＳさんか、ゲームを熟知した廃人か、最初の城の周りでレベルを９９にするような暇人だけである。
　というわけで、木漏れ日の差し込む掲示板で、とりあえず防具を作ってくれる人を依頼することにした。
　
　　　　　…
　
　ちなみに今回の立ち直りは早かった。
　前回のあの重傷っぷりは何だったんだと言わんばかりのテンションだが、別にこれはこれで受け入れることが出来れば問題は無かった。
　いい加減真面目に取り組むだけアホらしいというかなんというか、豆腐に鎹、糠に釘、暖簾に腕押し、変に真面目にやると痛みが増すだけ。「そういうものなんだ」という感じで取り組めば、あっさりひょっこり立ち直ることが出来た。
　
　ああ、これがギャグ力場。
　否定したかったのだが、ダメっぽい。どうやら神は、私には真面目な話をさせるつもりはないらしい。
　
「最初から真面目な話なんて一つもしてなかったと思うけど」
「ああ、誰かさんのおかげでな」
　おらっ、けいけんち、だせっ！　ピコピコカチカチ。しかし草むらを揺らすのはめんどいなー、ドームの方が育て屋代と薬代も稼げるし、頻繁にやらないならそっちのほうが効率が良い。というか今厳選してもWi-Fi環境ないしなー。望めば出来るんだろうか「出来るって」「出来るのかよ！」マジかすげえな！　なんでもアリか！
　なんで気づいたらＤＳまでこっちにあるんだろうとか、そういうことに対するツッコミは受け付けるけど聞き入れない方針で行こう。どうせこちらの耳には届かない。
　なんかもう家の中でゴロゴロしながらゲームしてる気分だ。ヴァーチャルリアリティもここまで来れば現実と大差ない。そういう時代来るのかなあ。
　
　……しかしまあ、なんだね。
　いいのかな、これで。
　
　　　　　…
　
　街の名前は「オルゼ」というらしい。
　芸術の街らしく、イメージとしてはイタリアに近い。石造りという点ではドイツを思わせる。酒造も盛んらしく華やかで、その辺りはフランスだろうか。
　まあ、西欧の芸術文化がごった煮状態という感じでいいだろう。あまり深く考えることでもない。
「あれ、みつるんまさか、それお酒？」
　どこをうろちょろしていたのか。ののわは俺のところに戻って来るなり、めざとく鞄のポケットに突っ込んだ小瓶を指した。
「おう。二束三文だっつーから一つ貰った」
　試作品という名目だった。ワインのような何かである。見た目は似ているが、どういう味がするのかは未知の領域だ。
「わ、いーけないんだー。未成年なのに！」
「ちげーよ、飲むためじゃねえよ」
　いやまあこれから先、飲むかもしれんけど。というか大学の新歓コンパで既に未成年にもかかわらず飲まされている。いつもいつもナチュラルに犯罪幇助が行われていると思うのだが、その辺大学とか世間はどうお考えか。ちなみに俺はそこそこ強い。少なくとも前後不覚には陥らない程度には。普段通りで、酔ったからと言ってボロを出すこともない。「えっ」何か言ったか？
　ともあれ、主目的はそうじゃない。料理酒だ。
　料理に深みを出したいなら、酒の存在は必須だ。和洋中いずれもそうであるし、お菓子だってそうだ。
　どういう酒があるのか、料理には使えるのか、確認しておく必要がある。ぱっと見がワインなので、とりあえずこれを使うなら洋風のものになるんだろうけど――
　
「これで味が日本酒って可能性はあると思うか？」
「十分にあると思うですしおすし。菊正宗ピンくらいなら元取れまくりだと思うけど」
「あるいは中国酒かもな」
「杏露酒みたいな甘いリキュールの味だったらどうするよ」
　それは料理には使えないからホントに娯楽用だよなあ。菓子の味付けにも……微妙。
　
　――て、ちょっと待て。
「ちょっと待て、お前まだガキだろ。さらっと酒の話すんな」
　というか実在の商品名を出すな。こいつは確かまだ中学生くらいのはずだ。
「ガキはガキでもののわさんはドラゴンだもーん。そんな程度の安酒、ソフトドリンクだもの」
「つまりなんだ、あのバカ親は余裕で飲ませてたのか」
「んー、おかーさんは遺跡の中でテキーラ呷ってたし。いーじゃんいーじゃん、どーせ外様の生物であるののわさんに、人間の法律は適応されません」
　……あたまいたい。なんだあのバカアネキ。喉焼いてもしらねーぞ。
　いや、むしろ焼け。
　そして仕事を無くせ。路頭に迷え。
　
　でもやっぱ、稼ぎがなくなるのは困るから、それなりに大事にはしろ。
　そう考えるに至って、何をトチ狂ってるんだ自分はと怖気が走った。
　
　　　　　…
　
　アネキは歌が上手かった。
　俺も歌は好きだった。
　
　アネキは楽器も上手だった。
　俺は楽器はそんなに上手に弾けなかった。
　
　アネキはダンスまで完璧だった。
　俺は頑張っても学芸会レベルだったと思う。
　
　俺は血の滲むような努力をして。
　アネキは一日の半分を惰眠に費やして。
　
　いつもいつもそうで、どんなに頑張っても追いつけなくて、引き離されて、比べられて、疎まれて、当の本人は知らんぷりで。
　だから、殺したいほど憎いはずなのに。