ENo.40 西圓寺真衣

第九話　協演

時刻は朝、彼女が何時も起動する時刻
目覚めた彼女は思考の波にのまれる。
「……（何時も使用しているテントとは違いますね）」
　彼女の隣で微かに動く布団
「……（エレンさん　違います。ピアノさんですね。
　……（そういえば昨日止まる処がなかったので彼女の宿を使わせてもらったのでしたね。
　……（饒舌に私が泊る事を了承して貰い本当にありがたいと思いますね。」
　彼女が身体を動かすと、ずるずるとピアノも引きずられて毛布の外に出る。
「……？……（右腕をつかまれていたのですか？　エレンさんと同じような方なのですね。」
少女は力を込めて真衣の右手をに抱きしめつつ呟き、真衣の肩ぐらいを撫でるように
「もぅ、　栗鼠さん逃げてはダメですの……ふわふわっ。」

外気に触れ、ショートカットの少女は、小さくくしゃみをする。
少女は身震いをした後にごしごしと目を擦り瞳をあける。

「おはようですわっ　まい……って！？　何でこんな処に！？」
寝ぼけたまま、人影がいたので挨拶をした後に驚いたように声を上げる。
「……（どうしたのでしょうか？　彼女が私を連れて来たというのに？」
そう、昨日真衣が学園祭の場所でそのまま野宿をするという事を伝えると、
ピアノが、半ば強引に彼女を連れて自分の寮に連れて来たのであった。

「……ピアノさんが連れて来たのですけど？」

「……　そうでしたわね？」
先程の自分の反応が恥ずかしかったか、横を向きつつそう答える。
枕元に置いてあるリボンを手に取りトレードマークであるサイドテールを整えるのだった。

朝食後、ピアノと別れ彼女は自分が所属しているグループの特別会場である体育館に向かう。

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楽屋といわれる処を素通りし、体育館内で、突貫の組み立て作業等をしているのを眺める。
予定では今日の午後までに仕上がるとの事だが、今は最終調整等をしているようだった。

真衣は、その作業を特に念入りに確認しなければならなかった。
彼女の体重は人の数倍にもなる為、舞台のうち一部補強されている箇所だけが、彼女の動ける範囲となる。
その範囲を外れて動いた場合には、床が抜ける可能性も大いにあり得る。
稽古時にも、体重の事を知っているスタッフにより、彼女の踊りは念入りに監修されている。
とはいえ彼女は、一度言われた事は絶対に間違えない為、打ち合わせは数度で事足りた。

ただし、彼女の通るルートがしっかり補強されているかどうかを確認するのは、彼女自身の役目だった。
彼女はアドリブというモノは苦手だが、予定通りに動いた際には、最大限の力を発揮するタイプの機種であった。

「……（補強されている地点が異なっています。この位置では半歩余計に踏み出す必要があります。
　……（このステージの補強状況によると、歩幅を十.二センチに設定すれば大丈夫そうです。
　……（この位置をスタートにすれば、最後まで無事に踊り切れますね。」
と、ぶつぶつ言いながら舞台を確認していると、近寄ってくる影があった。
「…マイさん？　どうしたんですかこんな処で？　本番まではまだ時間ありますけど…」
真衣がステージ裏に歩いていったのを見かけたらしく、後を着いて来たようだった。

「……（また、舞台の大きさが……誰か声を掛けて来たようです？）」
五感すべてのセンサーで舞台を観察していた真衣だが、いったん思考を止め振り向く。

「……（ほぼ同じ時期にKT2所属となったエレインさんである可能性が、九十五.二五%です。
　……エレインさん？　自分が歩く舞台のチェックをするのは当然の事だと思っています。
　……それに特別とはいえ仮設なのですから、何が起こるか分からないです。」

「そうですね、その通りかも…わたしも今後は、見習うことにしますね。」
少し肌寒いのか、身体を抱える両手を小刻みに動かしつつ、エレインはそう答えた。

「……そうですね。
　……私の場合は舞台の補強をしてくれる方がいないと自らの足で立つ事が出来ないので特にそう思います。
　……私の自重（じじゅう）を支える事の困難さは良く分かっています。」
と真衣は、自分自身の体重の事を淡々とそう答える。
彼女の体重が通常の人間とは比較にならないほど重いことは、ごく限られた者しか知らない。
見た目こそ可憐な女性に見えるが、その実は機械人形に他ならないのだ。
「自重って…何を仰ってるんですか？　女の子1人の体重なら、さすがに問題なく支えられると思いますけど…
　…もしかして、冗談？　マイさんの冗談なんて、初めて聞きました。」
面白そうに、エレインはくすくすと笑う。

「……？（冗談？　どういう事でしょうか？人の嗜好を」

「でも貴女も、こんな寒い処にずっと居たら凍えちゃいますよ？
　…くしゅんっ」
オーバーを羽織ってはいるがまだ寒いらしく、小さくくしゃみをしている。

「……（少しでもあったまるようにすれば良いのでしょうか？
　……（それならば私のジェネレーターを稼働して適温にし、触れてあげれば少しは寒さを凌げるはずです。
　……エレインさん。」
エレインに自分の髪が触れるほどに、そっと寄り添い徐々に人肌程度の温度まで上昇させていく真衣。
「ちょっ…何を…？
　そんなに抱きつかれると、ちょっと恥ずかしいです…」
驚いたような表情で、エレインは真衣を見下ろす。

「……こうすれば暖かいと思います。」
平然とエレインを見上げる。

「それはそうですけど……そ、それよりも、もっと暖かい処に行きせんか？」
抱きつかれているのが恥ずかしいのか、エレインは軽く顔を振り、楽屋の方へ歩いていく。

「……（見るべき処も見ましたし、角度歩調スタート位置全てメモリーにセットしました
　……そうですね。　楽屋に行きますか」

楽屋の扉を開けるエレイン、続いて真衣が入っていく。
本番までのつかの間、アイドル達が化粧をしつつ歓談していた。
「開演まで、もうちょっと時間ありますね…まだ全員揃ってないのかしら？」
と言いながら振り返ったエレインの先には、既に衣装へ着替えた真衣の姿があった。

「あ…相変わらず、気が付かないうちに着替え終わってますね…
　というか、着替えって速さじゃないですよね…？」
と、エレインは半ばあきれたように言った。

「……私にとっては普通の事です。
　……まだ定刻まで一時間四十五分三十一秒、三十秒、二十九秒ありますし。
　……皆さんが揃っていないのも問題はないと推測します。」
と小首をかしげてエレインを見上げる。
　
「じゃあ、わたしも着替えに行ってきますね」

エレインも片手をあげ他のKT2メンバーの元へ行き着替えを始める。
彼女は暫くメンバーを見つつ、楽屋の隅に佇む。
何もなければ基本的に四隅に立つ事が多い。これも、自分の体重を意識しての事である。

本番前の最後のリハーサルがはじまる。
何時も忙しいメンバーの為、集合してやる事は殆ど無いためこの時間が最終の調整である。
場所もある程度最初に決められてはいる。
彼女に当てられた地点は、自分の重量に耐える事ができそうにない地点であった

「……（この地点では、開演後、三分三十五秒踏み貫きます。
　……すみません。　場所をこっちに変更して欲しいです。
　……この地点では不都合が生じます。」
　あまりしゃべらない彼女が珍しく自発的に発言をし、しかもそれが、要望という事で他のメンバーも
驚きの表情を浮かべる。
彼女にとっては自明のことなのだが他人から見ると我儘といわれる類に見えるが
普段からそういう事を言わない彼女が言いだした為、『勇気を振り絞ったんだね』とか、
『そういう事はギリギリにじゃなかったらもっといいわよ』とか言われるがメンバーから快諾される。

「……ありがとうございます。」
そういって頭を下げそう答える。

最終のリハーサルが終わり、開演時刻が迫る。
ステージである体育館に続々と集まってくる。
真衣自身は、今までにライブの経験は一度、それも、ゲリラライブという一度だけ参加しただけだった。

「……こんなにモノ人が、聴きに来ているのですか？」

「何を言っているのよ。チケットが手に入らなくて聴きに来れない方もいるそうですよ。」
と隣に立っていたエレインがそう答える

「さぁ頑張りましょ」
と、開演時刻が始まった。

「……（全てに異常ありません。）はい」

そして開演が始まる。

彼女がもっと、苦戦する笑顔以外を絶やさぬようにするという一点のみ苦心する。
機械仕掛けの彼女にとって自分の顔の表情を表すというのはとみに難しい。
昨日、パーミルのメイド喫茶で、何度も表情の練習をしていたというのだが、
以前表情は硬いままである。

「今よ〜い for You♪まぁっていて〜（しかし皆さんは、あんなにも笑顔を絶やすことなく歌えるのでしょうか？
　（わたしと皆さんは何が違うんでしょうか）」
彼女の思考は歌にではなくKT2のメンバーの方向けられている

「私のまるご〜と〜　届けにいくから♪（見ている風景が違っているのでしょうか……？）」
自分以外のKT2のメンバーが見ている風景
即ち、焦点の合わなかったマイ自身も客をしっかりと見る

「今よ〜い to You　あなただけ〜（客側の方達も凄く真剣に私達を見つめている。）」
そして、その真摯な眼差しに一瞬彼女の身体は一瞬震える。

「おなじ星ぞ〜ら〜　わかちあいたい♪（えっ？　なんですか今の感覚は？）」
彼女がその感覚を再び味わう前にコンサートは終了してしまう。
アンコールの声援が鳴り響く中彼女達はステージを降りたようだった

「…………不思議な感触でした」

今回は　ぴあのさん(58)、エレインさん(22)をお借りしました。