ENo.3455 衝撃のチャンコ・あたたまるフォイ

*「衝撃のチャンコ」　第3回　12/1/12

マリちゃんの家は貧しかった．
その頃，不景気に重ねてコメの不作が続いたため，貧しい家庭はたくさんあった．
加えてマリちゃんの父親は病気をしてから寝たきりになっていた．

「すまんなあ苦労かけて」「すぐに良くなりますから」
マリちゃんの家でよく聞いた会話だ．
家にはマリちゃんの他に食べざかりの兄と赤ん坊の弟がいた．
マリちゃんのお母さんはパートで働き，３人の子を養っていたがそれでも食べ物に困る程だった．

ある日，お隣である私の家にマリちゃんのお母さんが来た．
どうにも困ってお米を借りに来たのだ．
父はすぐに察してコメを取った．うちもそんなに余裕があるわけではなく．
少しで済まないと言って渡した．
「必ず返しますから」そう言って深くお辞儀をして，マリちゃんのお母さんは帰っていった．

不景気は回復せず，給料が上がるわけでもない．子供は腹をすかせる．
マリちゃんのお母さんは毎日のように家に来るようになった．
「必ず返します」謝りながら借りに来るマリちゃんのお母さんに，
父は「困ったときはお互い様です」とコメをあげていた．

半年もした頃マリちゃんの父親が亡くなった．
お弔いの費用もろくに出せないであろうことは容易に予想できた．
費用をポンと出せるほどのお金は家にもなかった．

父はへたり込んでいるマリちゃんのお母さんに任せなさいと言うと出かけていった．
父は町の有力者の周五郎先生のところへ行ったのだった．
父と周五郎先生は仕事で付き合いがあった．

父はお隣の旦那さんが亡くなって弔いをしてやりたいからお金を貸して欲しいと申し出た．
先生は思いかけない大金をすっと出した．
「先生，こんなには借りられません．半分で十分です」
「いいえ，とっておいて下さい．それに此れを返す必要は無い」

先生は父をぐっと見つめると語りだした．
「あなたがお隣さんにお米をあげていたことは知っています．
そういう親切は口で言うのは簡単だが，実際にそうそう出来ることじゃない．
私はお金を出すことは出来ますが，ただあるものを余裕を持って出すだけです．
あなたがお隣さんにしてあげたことの何分の一にもあたりはしない．
私はあなたの行いに感動したのです．このお金は持って行って良いように使って下さい」

分かりました．ありがたく頂戴しますと父はお金を持って帰ってきた．

マリちゃん一家はしばらくして，引っ越していった．