ENo.3026 鈴音　鈴音

戦闘の直後というのは、肉体的にも精神的にも、睡眠中の次くらいに私の気が抜ける時間だ。
疲労はあるし、戦闘中のそれなりの緊張感からの解放もあるので、すぐに眠れそうなほどに気が抜ける。
それになにより、仕込んである包丁も大体使い切っているはずなので、隙はこの時が一番大きい。
要するに、この日はそれが災いした。

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アンジニティに生息する生物は、見た目こそ変でおかしいが、強さはそれなりのものがある。
今日も包丁を全て投擲しつつなんとか撃退し、投げた庖丁を回収しようと思った矢先、それは起きた。

「……あらー？」

何かに掴まれている、胸を。

「うわ、このデカさで詰め物無しなのかよ、すげぇな」

事態を把握出来ないまま数秒揉まれていたが、急にその手が引き剥がされた。

「な、なにしてるんです、か……ダメ、ですよ」

「なんだよ、俺があの女に近づけないようにテメェが距離取るせいで、戦闘直後くらいしか触れねぇんだから邪魔すんじゃねぇ」

大体把握したので、包丁を投げようとしたがもう一発も残りが無い。
昨日からいるテレサさん二号は、既に何らかの罰を受けて幽霊になっているようなので制裁対象から除外していたが、罪が新規追加されたので罰を与える必要がある。
とはいえ包丁が無い以上、仕方ないので殴るしかない。

「で、ですから……勝手に、そういうこと、しちゃいけない、んです」

「うるせぇなぁ、テメェといると窮屈で死んじまうっての」

二人で揉めているうちに二号の背後に立つ。
どこを殴れば一番痛いかよくわからないので、不意打ちを優先して後頭部を殴った。

「あ？なんだよ」

あまり効いていないらしく普通に振り向かれたので、今度は鼻を殴った。

「……だから、なんなんだよ」

「……えー？」

全力で殴ったにも関わらず、全く効いていない。
これは一体どういうことか。

「あぁ、殴ってるつもりかそれ。お前武器が無いと全然戦えねぇタイプだろ」

言われてみれば、昔から庖丁で刺すかマジックミサイル以外の手段で攻撃したことがない。
素手で何かを攻撃することが一切無かったので、ここまで自分の打撃が弱いとは知らなかった。

「巨乳で非力ってどういうボーナスキャラだよ、どう考えてもこんな物騒な世界にいる人間じゃねぇぞ」

「うるさいですねー、昔はーそれなりーに
強かったんですよー私ー」

この二号はさっさと重めの制裁を加えた方が良さそうだ。
しかし庖丁が無い現在、罰の与えようが無い。

「あ、あの」

「？なんですかー」

二号の陰から、一号が話しかけてきた。
二号と違って一号は問題が無い、なんで二号なんかと一緒にいるんだろうか。

「その、左手の……使わないん、です、か？」

「はいー？」

左手に意識を向けると、庖丁が握られていた。
色々考える前に、反射神経頼りで二号の頭を二つに切り裂いた。

「そういえばー、一本は投げないで使ってましたねー」

投擲用以外に、近接用の庖丁は常に一本持っているようにしているのを忘れていた。
人間なら即死であろう傷を受けた二号は少しずつ薄くなり、そのまま消える。

「たまにー、ありますよねー。手にー持ってるものーをー
探しちゃうことってー」