ENo.3016 滝宮姉弟

レディカ「スオウさん、その・・・これから一緒に訓練しませんか？」

スオウ「訓練？構わないが、訓練するほどの理由ができたのか？」

レディカ「あたしももっと皆さんのお役に立ちたいですから。いつまでも足手まといなんて嫌です。」

スオウ「そうか、いい心がけだ。それじゃ、まずは基礎的な動きの練習から始めよう。」

レディカ「はいっ！」

あれからレディカさんは積極的にスオウと行動を共にしているようです。

スオウも不純な心がなく対応しているので、逆にレディカさんからは魅力的に映るのかもしれません。

ハネズ「・・・他人の観察ばっかりしてないで、私も何かしろって話ですのよね。」

精神的に不安定だとなかなか作業にも手がつかないのが人間の悪い所です。

私がリビングドールのままであれば、もっと効率的に様々な作業を終えていたと思いますのに。

・・・感情を持たずに作業ができる身体、といえば。

ハネズ「今頃・・・エミーの元にはDO-M0000008HACが到着している頃でしょうかね？」

DO-M0000008HAC、それは私の知識の全てを内包させたデータのバックアップ。

人間というものは加齢と共に使わぬ知識が抜け落ちていく生物、私の中にある大量の知識もいずれは朽ちてしまいます。

そこで、ほぼ全ての知識が残っている今の内にそれらを人型の機械にインプットさせたのです。

私達がアンジニティに来る直前にインプット作業は終えたのですが、肝心のインプット先の機械である『DO-M0000008HAC』はまだ完成していませんでした。

私が見た限り、あと数日で完成しそうな雰囲気でしたけどね。

ハネズ「本来の用途はデータのバックアップ用ですが、知識を流用させればエミーの家庭教師用としても使えるのですよね。」

だからこそ、エミーの母であるメウィンがそれらの機械の作製を手伝ってくれたというのがあります。

メウィンの事なので完成したら軽いテストをした上で、セルフォリーフに旅立ったエミーの保護者兼監視用として送り込んでいる事でしょう。

ハネズ「なお、DO-M0000008HACの外見はメウィンの初恋の妖精さんがモデルらしいです。ちょっと嫉妬しちゃいますね。」

当時はその初恋さんの体格は子供でしたが、今の年齢だったら・・・という想像で作り上げたらしいですよ？

初恋は実らないものとはいいますが、その相手とは成就できなかったようですね。

・・・うん、ちょっと話が脱線しましたの。

ハネズ「エミーはああ見えて優しく聡明な子、きっと文句をいいながらも一緒に勉強をしている事でしょう。」

それでも、マゾヒズムな部分はきっと治らないのでしょうけど・・・。

どうして彼女はああなってしまったのでしょうかね？

エミーに同年代のお友達ができるまで、普通の少女だった印象があります。

・・・幼少期、お友達と居る時に何かあったのでしょうか。

親としては心配になると共に、少々気になりますね。

ハネズ「・・・はっ、また思考が脱線を？まともに書類すら書けないなんて・・・！」

スオウ「ただいま。どうした、ぼーっとして考え事か？」

ハネズ「あ、おかえりなさいませ・・・ちょっと計算をしていただけですから。特訓、お疲れ様ですのよ。」

スオウ「そうか、無理はするなよ。俺は少しクロネさんにお茶を淹れて貰って休憩してくる。」

ハネズ「はいな・・・レディカさんは？」

スオウ「レディカは・・・ああ、ちょっと訓練を張り切り過ぎたのか早々にバテてしまってね。一足早く、クロネさんのところで休憩している。」

ハネズ「仕方ありませんね、筋力は一朝一夕で身につくモノではないですから。少しずつ体力もつけていくしかないでしょう。」

スオウ「うむ、だが筋はいいんで基礎能力が上がればもっと活躍できるだろう。」

彼女が強くなればなるほど、相対的に私の価値が下がって・・・と考えてしまう辺り、ダメダメですのね。

総戦力が上がるのです、ここは素直に喜ぶところでしょうに！

ハネズ「・・・・・。」

スオウ「・・・ん？浮かない表情をしてるが、まだ計算が終わらないのか？」

ハネズ「はっ！？い、いえ、なんでもないですのよ！？」

スオウ「それならいいのだが。じゃ、俺は休憩してくるよ。」

ハネズ「はいな、ごゆっくりどうぞ。私もこの作業を終えたらお茶にしますの。」

本当に、人間の本能って面倒くさい。

でも、それが人間の魅力なのはよく解っているつもりですのよ。

ハネズ「さ、怠けてないでいい加減に作業をしますのよ。」

本日の作業、まずは・・・この集団の戦闘能力と問題点と改善点を探さないと。

これらをまとめて、今日の会議で話し合いをしなければなりませんから。

では、現時点の戦力と問題点を簡単に書きましょうかね。

私達双子の召喚とレディカさんの存在のおかげで、普通の集団よりは人数的に利があります。

しかし、単純な一人一人の戦闘能力はあまり高いとはいえません。

そこで隊列・射程を組み合わせた戦術や、全員を同じ隊列にさせて敵の攻撃を分散させる手法が基本となります。

回復は現時点ではレニーさんのみ運用可能、けれども消費が大きいので多用もできませんし期待できる回復量でもないです。

つまり、長期戦でいくよりは物量で短期決戦にするのが望ましい、という事ですね。

SPへのダイレクトアタックはクロネさんのみ可能ですが・・・実用的な威力ではありませんの。

運用するなら補助的に、という感じでしょうか？

どうしても長期戦にせざるを得ない時などに、相手の戦力を削ぐ為に苦肉の策で使う、というのが正しいでしょうかね。

そして、私達双子ですが・・・長所はやはり召喚による人海戦術。

基本的な武器能力も有していますが、召喚に費やしてしまうのでそこまで余力もないでしょう。

相手を技で魅了しつつ、じわじわと敵の体力を削ぐやり方が有効でしょうかね。

あとは他の方がある程度はなんとかしてくれるでしょう。

この集団の弱点としては、各個撃破を得意とする相手に遭遇した時に手も足も出ない事、ですかね。

そうならない為に、上手く各々が相手の攻撃力を落としつつ人数で攻めなければなりません。

全員にかなりトリッキーな立ち回りが要求されますの。

ハネズ「ふぅ、議題として問題提起するにはこれくらいでいいでしょうかね？」

もう少し、この集団で可能な戦術の幅を広げたいところですが・・・まだ出会って10日程度。

連携を取るにはもっと話し合いつつ、個々の能力と技を磨かねばなりません。

それでは一先ずはこれくらいにして、私もクロネさんのお茶をいただいてきましょうか。

・・・・・

レディカ「ごめんなさい・・・スオウさん。せっかくお付き合いしていただけたのに。」

スオウ「いやいや、最初は誰もが初心者だ。少しずつ、自分のペースで前に進めばいい。」

レディカ「ありがとうございます。ところで、スオウさんって誰かに武道を教わったのですか？」

スオウ「俺か？ふむ、昔は（生きた影として）ただ闇雲に強い人の模倣をしているだけだった。」

レディカ「模倣、ですか。でも、武道に限らず最初は大事なことですよね？」

スオウ「ああ、基礎を掴むには大事ではあるんだがね。しかし・・・模倣ではどうやっても『元』を超える事ができない。自分の強さとは基礎の上にある、自らの経験と鍛錬を積み上げたものだからな。」

レディカ「ふふふ・・・スオウさんって、真面目なんですね。」

スオウ「そうでもないさ。この事実に気づくまではずっと模倣ばかり繰り返していたのだからな。自分の『個』というものがなかったんだ。」

レディカ「・・・『個』、ですか。まるで今のあたしみたい。ただなんとなく皆と同じ勉強をして、真似て自分は頭が良いと思い込んでただけで・・・。」

スオウ「それに気づくのが早いか遅いかの違いだけさ。大事なのは、それらを修得して『何を成すか』だと考えている。」

ハネズ「そう、大事なのは得た能力で何をするか、ですのよ。」

スオウ「お、ハネズか。作業も終わったみたいだな。」

レディカ「おはようございます。一足お先にお茶をいただいてました。」

ハネズ「気にしなくていいですのよ。運動後の水分補給は大事ですからね。」

レディカ「・・・えぇと、何を成すか、ですか。難しいですね。」

スオウ「深く考える必要はない。自分の世界に帰るだとか、誰かを護るだとか、理由は単純でいいんだ。強い動機があれば、思いの強さに比例して得た力に応用力が身につく。」

ハネズ「いずれ、何かの思いを成したいと思う日がくるはずです。それまでにそれを行使するだけの必要能力をつければいいのですよ。」

レディカ「思いの強さ・・・なんとなくですが、わかりましたっ。」

・・・私が気づかないうちに、スオウも人間らしい言の葉を紡ぐようになりましたのね。

私達も人間として、少しずつ変わってきているようです。