ENo.2874 茜

「こういう地形ってよ。良く罠とか張られてるよな」

左右を崖に挟まれた谷間の道。こんな場所を見ると、横山三国志の孫堅が落石の罠で死んだシーンが何故か思い浮かぶわけで…

「落石だっ！」

こよみちゃんの叫びに、私は反射的に頭上を見上げ

　ぺしっ

小さい何かが顔に当たった。振り向くと、くりおねが指の爪ぐらいのサイズの小石をこちらに飛ばしていた。

「びっくりした？　ねえ、びっくりした？　ドッキリ！」

いえーい、と両手でタッチしあう、こよみちゃんとくりおね。
まず足の遅いこよみちゃんを捕らえ、頭のこめかみの辺りを両側からグリグリして泣かせた。逃げたくりおねは、先日戯れに作った石英の棒手裏剣で殺した。

「確かに、両側が塞がれてると逃げ道が限定されるねぇ」

そういうくりおねの背中の傷にはすでに膜が…　バケモノか。

「肉が食いたーい。ビーフ１００％！　傷を癒すときは肉なのだ！」

「だから、何でオリバなんだよ」

くりおねが待ってましたと言わんばかりに目を輝かせた、ような気がした。

「茜ちゃんってさ。ずいぶん古い漫画のネタ知ってるよね。今の地球はバキ連載してた頃より50年くらい先って聞いたよ！」

「止めろよ、歳が割れる…　いや待て、今地球と申したか？」

「私は何でも知っている。くりおねの英知は時空をも超えるのじゃ…」

「７分の１の循環小数言えるか？」

「くりおねにも分らない事くらいある…」

だろうな。コイツの知識はサブカルチャーに偏ってる感はした。ちなみに答えは

「142857ですよね」

こよみちゃんに答えられてしまった。

「頭良いな君…　俺はにわかだからコレ以上難しい事は知らんぞ」

何となく歳の割りに博識だと思っていたが、これでは迂闊にハッタリはかけれんな。

嬉しそうにニコニコするこよみちゃん。ナデナデシテー、と言いたげだったので、グシャグシャしといた。

「よし。くりおねｓなんが回復するまでの間に、この間の敗戦の反省会です！」

こよみちゃんの呼びかけに、他２名の視線が私に集まる。もう踊る兎人形の話は止めてくんろ。

「いや、もう十分だろ。ここに来るまでに３回やったでしょうに」

「いえ、私とこよみさんは力及ばずですが、茜さんは不用意に前に出た所為なので、繰り返ししっかり反省してもらわないと」

「二人で後列に下がるって約束したのに！あやまれ！くりおねにあやまれ！」

「ハヤクミンナニ　アヤマルノデス！」

「いい大人なんですから、頭下げましょうよ」

どうしてコイツらはこういうときに妙な連帯感を発揮するのだろうか。

いや悪いとは思ってる。兎人形の前情報を生かせなかった上、私がやらかさなかったら、勝率は間違いなく上がっていたと思う。いやホント、チョンボしたの反省してるんです。

「…過ぎたことは気にすんなよ。しっかり前見て生きな」

「ぶーぶー！」「あやまれー！」「ドゲザー！」

大人になるって大変だな。

「…ほら見ろ。前からお客さんだぞ。ちゃんと前見なきゃダメだぞ」

目のやり場に困って遠くを眺めていたら、前方から動く【椰子の木】がのっそり現れた。

「後ろからもお客さんですよ。過去も振り返って上げるべきです」

伊吹君は常識人だが根に持つタイプだな。ってか、俺がお前に何をしたと言うのだ。それより挟み撃ちにされた形で退路が無い。コレは困った。

「しゃーねぇ。二手に分かれて捌くぞ。いつものコンビでな」

「茜さん、３対１の形になるので問題無いと思いますが、くれぐれも前に出過ぎないで連携とってくださいね」

「おうよ」

「茜さん、次負けたら『なまこわんわん』だからね！油断しないでね！」

「分ってるよ。……え？　なまこわんわん！？」

「茜ちゃん！」

「あーもう、何だよ！」

「……今変な顔してる〜」

爆発しろ。