ENo.2588 音無瑠璃

東の国の山間に、小さな村がありました。
痩せた土地をどうにか工夫し、貧しいながらも村人達は平和に暮らしていました。

夏の太陽が少しだけ力を強め、その年の作物は、例年よりも豊作でした。
冬の間の蓄えも十分出来、その年の冬は飢えとは無縁でした。

翌年の春、一人の女の子が生まれました。
その子は村人達に可愛がられ、すくすくと美しく成長して行きました。

濡れ羽色の髪を長く伸ばし、闇よりも深い夜色の瞳は見つめる者を魅了しました。
砂糖菓子のように甘い声で囁く言葉は、何とも言えない不思議な魅力を持っていました。

少しだけ貧相な身体と相まって、大人になった女の子は、しかし少女のような危うい印象を見る者に与えました。

ある新月の夜、村人の一人が姿を消しました。
山菜採りに出かけて迷ったのだろう。間抜けな奴だ。村人は、悲しみながらもそう納得していました。

次の新月の夜、また一人村人が姿を消しました。
その次の新月の夜も、また一人姿を消しました。

偶然も３回続けば偶然ではありません。誰かが、この村の人を消している。そんな噂が流れました。
果たして、その噂は真実でした。

村人が最初に姿を消してから６回目の新月の夜。一人の男が見たのです。
濡れ羽色の髪を乱し、闇よりも深い夜色の瞳を歓喜に染め、砂糖菓子のように甘い声で喘ぐ少女の姿を。

彼女は、村人の一人を食らい、犯していました。
その夜、新月に消えた村人は、一人ではなく二人でした。

村人は、次々に姿を消しました。
そして彼女が最後の一人を食らった時、村を守っていた山の神が彼女の夢枕に立ち、言ったのです。
「君、やりすぎ」……そう一言、シンプルに。

彼女が目を覚ました時、そこは見知らぬ世界でした。
ですが、少女はそこに居る理由を知っていました。

山の神は、また夢枕に立ち言いました。

食らった人間の数だけ、おまえは食らわれ蹂躙されなければいけない。
例え片腕を失っても、一晩眠れば元に戻っているだろう。
例えどのように暴行されても、一晩眠ればお前の身体に痕跡は残らないだろう。
おまえが食らった人の数だけ、何度でも、何度でも。

それが、おまえが犯した罪の重さなのだ、と。

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プロフィールイラストは琥音・クライン(2393)さんに頂きました。有難うございます！

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