ENo.1828 霊夜　代

色々抗議をした翌日。

入り口でしっかりとパンフレットを受け取り。
自分の調べたい資料が二階の書庫にあると確認し。
今度こそは効率よく本、資料を集めていく。

本を汚さなければ、という注意の元でペンとインクと羊皮紙を持ち込む。
メモを取るだけだから、まあ不注意さえなけりゃ大丈夫だろう。

資料をいくつか棚から取り出し、近くにあった机に座る。
そして欲しい情報を羊皮紙に書き込み、情報を収集していく。

覚えるのも容易いが、地図、図面、写真などがあると記憶だけでは心許無いからね。

最初に調べたのは王宮の構造。

過去に隣国と戦争した際に活躍したのは王宮の構造だという。
何でも、今は水が引かれている水路は何かの仕掛けを動かすと水が引き、穴が出来上がるらしい。
で、その穴に落ちると自力で出られなくなると。

まあ、古典的な仕掛けではあるが戦争だとそういう仕掛けが活躍したりするのかな。
戦争はちょっと専門外だからわかんないなぁ。

その仕掛けを考案したのは当時の軍師で、現在も王宮で大臣という大役を引き受けているらしい。
やっぱ功績を残すと偉い人になるもんなぁ。

名前は……クロン、か。変わった名前。一応メモしておこう。

そして、王座があるのは最上階ではないのだという。
何でも階段を使った仕掛けで錯覚させ、実際は何階にあるかは設計者にしかわからないらしい。
で、王座を攻められそうになったら隠し通路であっさり脱出できるようになっていると。
これも子供だましに見えるけど、やっぱり戦争となると別になるのかなぁ。

で、設計者も大臣になっているらしい。
名前は……ゴート、か。遠い国の言葉でヤギじゃないか。覚えやすくていいね。

さて、これで得られた情報は二つ。
一つは『地下がある可能性が高い』事。
水路から水を引くなら、当然地下に何か仕掛けがあるんだろう。
水を流すだけであっても、地上に仕掛けを作るより地下に作ったほうがやりやすそうだ。

もう一つは『隠し通路がある』事。
見た感じだと王族や偉い人にしか知らないんだろうな。

で、師匠の事件の現場は公になってない。
つまりはこの隠された場所で起こった事なんじゃないだろうか。
だって、隠しておきたい場所で王様が死んだらそりゃあ情報規制も巻き起こるだろうし。

……はー。
これは……現場調べるのも一苦労しそうだなぁ……

とりあえず資料を置く。

次に手に取ったのは師匠の事件の当時の新聞だ。

書かれてあることは昔に調べた事が殆どだった。
当然、発見者の名前も書かれていない。

ここでも内容は同じか……
少し溜息をついて、さっきの資料の上に置いた。

よし、次。
調べることは山ほどあるから、まあ……適当でいっか。

ぱっと手に取ったのは隣国との戦争の資料だった。

さっきも軽く触れたけど、この国は二十五年前に戦争を起こしている。
いや、隣国に仕掛けられただけみたいだけど。

結果は竜聖王国の勝ち。
隣国は勢力を失って、今では竜聖王国の言いなりっていう噂。
まあ戦争の敗北国なんてそんな運命だよねぇ。

ここに何かヒントがあるんじゃないかと思ったけど、特に目ぼしい情報は無かった。
この頃には師匠はもう騎士やってるはずだから何かあると思ったのに……
まあ、名前が書かれてないだけで何かあったのかもしれないけど……

ま、特に収穫なし。次に期待だなぁ。
気を取り直して、読み終わった本はどんどん積み上げていく。

さてさて、次は。

ぱっと本を取る。
十年前の住所録だった。

師匠の家がいつ無くなったのか、一応知りたくて。
でも住所録だとそのあたりは何も解らないな。

ただ、十年前にはもうあの家は無くなっていたみたいだ。
事件が起こったのが確か十一年前。一年の間か……

まあ、国王殺害の容疑者の家系なんて、どんな事が起こったかは想像するのは容易いか。

これも無駄足か……
そう思って、また本を積んで置いた。

適当に本を掴んでみる。
すると、王宮の歴史の本だった。

歴史かぁ。
深くは知らなくていいんだけどな。
大昔に英雄が竜の姿に変身し、その子孫がこの国を作る。
それが始まり。まあそれは昨日見たから知ってるけど。

そんなに深くなくていい。
最近の……あれだ。今の国王が誰か解ればいいよ。

そう思ってぺらぺらとページをめくる。

ふと、手が止まる。

先代国王が亡くなって、大臣達で会議が起こった。
そして政治代行として、大臣の一人が現在の国王になったらしい。

名前が……ゴート＝S＝C。

……王宮の設計者か。
……んー。

まさかとは思うけど。
設計者だから隠し通路は詳しいはず。
そして国王を呼び出して殺して、師匠に擦り付けたとか……？
で、自分はまんまと国王の座を独占したとか……

いやいや、これは誰もが至れる推理だね。
そもそも会議で話し合って国王を決めたって書いてあるのに。
あと、国民が納得している以上、国民はゴートは無関係だと思える根拠があるのかもしれない。

ただまあ、この国王様には話を聞く必要性があるね。

ぽんと本を閉じて、読んだ資料の上に積む。

さてさて、次はー。

適当に手に取った本を見た。
翼の無い子供達という本だった。

これも……昔調べた内容ではあるけど。
どうしても気になったから、少しだけ本をめくる。

そこに、はっきりと書かれていた。

『翼を切り取られた竜の子供達は、四十年を生きる前に必ず死ぬ』

……死因も大体同じ。師匠も血を吐いていた。
ただ、どうしても気になる。

だって、師匠は……四十一歳を迎えたんだ。

凄く苦しそうではあった。
それでもいつも通りに、一生懸命に生きて、四十一歳と半年過ぎた頃に……

でも、本にはそんな事は書かれていない。
どの内容も四十までに死ぬ事が前提で書かれている。
ちなみに、騎士は翼を切られる風習があったせいで騎士の平均寿命は短い。
男であろうと女であろうと、切り取るのは少し惨いと思う。

最近ではこういう事実が発表されたせいか、騎士でも翼を持つ者が多いらしい。いいことだね。

師匠がどんな気持ちで過ごしたのか、今となってはもう解らない。
でも、一年以上も生き延びれた事は……師匠にとって、良かった事なのだろうか。

……少し複雑な気分になる。
そして本を閉じて、読み終わった資料の一番上に乗せる。

最後の本。
これはこの街の地図だ。

まあ、これは覚える気は毛頭無い。
ただ羊皮紙に写せばいいだけだから。

まあ、普通の人なら地図を写すのは難しいとは思うけどね。
さて、いっちょ…………

「あの……すみません。あっ……」

急に声を掛けられる。
声がする方向を向くと、竜人の女の人が立っていた。

「あ、あの時の……あの後、宿に着きました？」

「ほえ？　……ええと。」

……あ、そうだ。
そういえばこの国に着いたときに、女の人に宿の場所を尋ねたんだった。
あのときは暗かったから顔はいまいち覚えてなかったけど。

「あー……あの時の。結局宿に辿り着いたの真夜中だったよ。」

「あら……私、何か間違えました……？」

「いやいや。門の場所覚えてなかった俺が悪いから、気にしなさんなー。」

「そうですか……あ、前失礼していいですか？」

「ああ、別にコレ俺の机じゃないんで、適当に座ってくださいな。」

「はい、じゃあ失礼しますね。」

そういうと、その女の人は前の席に座った。
彼女もまた何かを調べ物しているみたいだった。

さて、地図を写さなきゃな……
そう思い、眼を集中させる。

「……あ。」

女の人が急に声をあげる。

「……す、すみません……その積み上げてる……下から二番目の本、良かったら……」

「え……？」

相手の方を見ると、さっき読み終わり積み上げた本を指差していた。

「あ、あー。ごめんごめん、俺はもう読み終わったから。はいどーぞ。」

本の山から言われた本だけ器用に抜き取る。

「ありがとうございます……！」

そういうやりとりをして、本を渡す。

「す、すみません……！」

「ほえ？」

「その、積み上げてる……一番上の本も……」

「ああ、はいはい。どーぞどーぞ。」

「すみません……」

「あ、あの……」

「んー？」

「すみません、その、上から二番目の本を……」

「あ、はいはい。どぞどぞ。」

「ええ……」

それからは会話が続かなかった。

……彼女は何を調べているんだ？
だって、彼女が欲しがった本は……

彼女もまた、俺に対して何かを思ったのか。
それからは何も言わなかった。

気まずい空気。
俺が立ち上がったときも、お互いに黙ったままだった。