ENo.1396 めいふの

超みかん帝国（仮）と仁義無き練習試合・後編

前編のあらすじ

ふのさんのパーティ（こすぷれ）はお隣のパーティ「超みかん帝国（仮）」とマジックシールド方式による練習試合を行う事になった。練習試合は安全で痛くないと聞いたふのさんは、ゲーム感覚でお気楽に参加したわけだ。

マジックシールドは剣道における防具みたいなもので、シールドの反発を利用してダメージゼロの試合が可能である。攻撃による痛みも調整可能。知り合いや友人に躊躇なく「Leg Killer」や「Massacre」とかの痛そーな技を連発可能というあんばいだ。

☆　非接触フェィズ

一定距離を挟んで睨み合っていた双方のパーティは、互いに激突すべく前進を開始した。

ふのさんの所属するこすぷれパーティの布陣は以下のごとしである。

前衛１　四畳半姉弟
　　- ななみねーちゃん（オーラ滾る右腕を持ったねーちゃん）
　　- 陸さん（ねーちゃんの弟。爆弾の信管処理もこなす器用な中学生）
後衛１　ふのさん（遺灰由来の腐らない死体）
後衛２　ゆうなの召喚師達
　　- カンタにーちゃん
　　- アイさん
　（アニメキャラクターになりきって冒険している筋金入りの不思議さんたち）

四畳半の姉弟が前衛を務め、ふのさんとゆうなのお二人が後衛を担当する。陸さんはパーティの軍師的な存在なので、普段は補給等の後方支援にあたる事が多いのだが、今日は珍しく前衛だ。

対して、みかん帝国の布陣は以下のごとし。

前衛１　シスター・リリ（殴ることが伝導の手段という規格外の修道僧）
前衛２　いよさん　（みかん星人）
後衛１　Gakuさん　（千年生きたという鳥）

試合が始まると、鳥のGakuさんが空へと羽ばたいていった。鳥は上昇気流をつかまて徐々に高度を上げていく。リリさんがいよさんに何か語りかけると、いよさんが頷いていた。「さあ、参りましょう」とでも言ったのだろう。

双方の布陣を見渡してふのさんは思う。真人間が一人もいない。「お前のような○○がいるか！」な方々ばかり。これから何が始まるのか、ちょっと想像もつかないな、と。

☆　戦闘フェイズ

両パーティは前進を続け、徐々に物理攻撃の射程内に近づいていく。最初にぶつかり合うのは前衛同士だ。

ななねーちゃんはオーラ沸き立つ右手を弓引くように構え、敵との間合いを伺う。対して、リリさんは泰然とスタスタと歩くのみ。

「構えをとらないのか…おもしれぇ」

ななみねーちゃんがニヤと笑う。普通に豪傑だ。対して、リリさんは勤務先へと向かう往来の勤め人のような歩きぶり。ふのさんにもリリさんは本当に戦いに臨むつもりなのか訝しく思えた。

「ま、まさか、あれは！！」
「何か知っているの？　カイタンダイヌ」

ここで、カンタにーちゃんが驚嘆の声を漏らし、アイさんが首を傾げていた。ゆうなのお二人は時々アニメのキャラクターになりきって会話をするという相当な不思議さん達で、今日も絶好調というわけだ。ふのさんも気になって聞き耳を立ててしまう。

「あの無防備な佇まい…あれは、教会のトップにのみに伝承されるという一子相伝の拳法、聖座法王拳！！」

な、なんだってー！！

カンタにーちゃんのあまりにも切迫感溢れた科白に、ふのさんは意味も分からないまま衝撃を受けてしまう。教会のトップ！　なんかすごそうだ。

ふのさんはくるうりと敵に背を向けて、カンタにーちゃんに続きをカモンとジェスチャー表示。にーちゃんはうむと頷く。

「聖座法皇拳に『いわゆる』構えはない。構えとはすなわち防御の型、相手の攻撃を受け、捌くための動作に適した姿勢のこと」
「防御度外視の攻撃的な拳法ということ？」

アイさんも当意即妙な質問を挟む。２人の息が合っている。

「いや、聖座法王拳では、相手の攻撃を全部受けると聞く」

攻撃を食らって負けちゃうよ？ふのさんは怪訝に思ったが、カンタにーちゃんは神妙な面持ちで言葉を続ける。

「『右の頬を叩かれたら、左の頬も差し出すべし』…このフレーズを知ってるかな？」
「マタイの福音書の有名な一節ね」
「そう、このフレーズが表すのは、いくらでも叩いてこいというレジスタンスの心。
そして、聖座法王拳が体現するのはこのフレーズの奥義」

カンタにーちゃんはしなった弓が矢を放つかのごとくリリさんを指差して宣言した。

「つまり、聖座法王拳とは、相手の技を全て受けきり、精神的に相手を圧倒する拳法なんだ！！」

ふのさんはバァーンと稲妻を見た気分だった。そういわれてみると、リリさんの背後にバチカンの寺院がゴゴゴと聳えているかのように思えてくる。

「しかし、何故リリさんがそんな拳法を？」
（あと何でカンタにーちゃんがそんな事を知っているんだろう？）
「分からない…だが、大きな運命のうねりを感じるよ…」
「セルフォリーフには様々な世界から冒険者が集っているもの、それと何か関係があるのかもしれないわね」

なんか盛り上がって参りました。ふのさんがワクワクしていると、今度はうつぶせの陸さんが草地をするーと滑ってきた。立ち木にごちーんとぶつかって止まる。

ふのさんはうわぁとびっくりするも、近くにいたので、

「何器用なことしてんすか？」

と抱き起こす。

「君ら真面目にやりなよ！」

陸さんは火のごとくお怒りだった。緑色だったマジックシールドは赤色になっており、戦闘でダメージを受けていた。

ふのさん達が小芝居に興じている間に、前衛では戦闘が始まっていた。陸さんはリリさんにぶん殴られてここまで滑ってきたらしい。

ふのさんが前線を眺めると、ななみねーちゃんがリリさんとの間合いをつめ、オーラ滾る右腕によるフックをリリさんの顎に打ち込んでいた。

パシーン！

シールドが干渉しあう乾いた音がした。

リリさんのシールドはダメージを受けて緑色から黄色へと変色する。しかし、攻撃を受けたリリさんだが、意に介した風もない。

「うー、聖座法王拳、恐るべしっすね」
「それアニメか何かの設定でしょ！　練習試合だから痛くないんだよ！」

陸さんは後衛連中の小芝居につきあう気はないようだ。

リリさんの反撃の右のストレートがななみねーちゃんに放たれ、

空をきった。

ねーちゃんが姿勢を反らせてうまく攻撃を回避したのだ。

だが、みかん帝国側の攻撃は二段構えだった。いよさんはぴょんと飛び出して、ななみねーちゃんの肩に乗っかる。シザースをジャキンジャキンと開けたり閉じたり。シザースとはハサミのことだ。ななみねーちゃんが青ざめる。

「ちょ、そんなもんどうする気だ？」

ちょっきんと。

ギャー！

悲鳴が上がった。これは練習試合であり、ダメージは０のはず。それでも目を覆いたくなる光景だった。

よろめくねーちゃんの頬にリリさんのナックルが炸裂、シールドから嫌な音がした。ねーちゃんのシールドはへこまされ、赤く点滅し、ヒビが入っている。

格闘の技量ならばシスターよりもななみねーちゃんの方が上だろう。だが、追いつめられているのななみねーちゃんの方だった。みかん帝国の面々は戦い慣れている。

「ねーちゃんを援護して！」

陸さんの悲鳴に似た指示が飛んだ。ななみねーちゃんの敗退はこすぷれパーティの主力の喪失である。これはまずいと、ふのさんとゆうなのお二人はリリさんに魔弾を打ち込む。２発の魔弾がリリさんに直撃し、こちらもシールドにヒビが入る。

続いて、陸さんが前線へと走りこみ、いよさんを蹴っ飛ばし、リリさんに背負い投げをかけた。その隙に、ななみねーちゃんは体勢を整えるべく、みかん帝国の前衛の射程圏外まで撤退だ。

リリさんにもだいぶダメージを与えたし、押し切れるかな？

ふのさんがそう思っていると、頭上から鳥の鳴き声が聞こえてきた。リリさんのマジックシールドのヒビがみるみる消え、色も赤から黄色へと戻っていく。ふのさんが空を見上げると、上空を旋回する鳥が歌っていた。回復魔法だった。

リリさんといよさんは勢いを取り戻した。陸さんを蹴散らすと、こすぷれ側の後衛に向かって歩いてくる。その様は燎原の火のごとし。

シスターとみかんは盾と矛、空を舞う鳥は回復魔法のサポート役。彼らの連携はうまく回っていた。みかん帝国、恐るべしだ。

対して、前衛の布陣を崩されたこすぷれパーティは大ぴんちである。ふのさんの目の前にもリリさんの笑顔が迫る。いよさんのハサミがリリさんの背後にちらちらと覗いて見える。

うう、おっかない。

ふのさんが思わず後ずさると、鳥に狙撃されてすっ転んでしまう。その隙をいよさんは逃さない。いよさんはハサミをちゃきんと掲げてふのさんに飛び乗った。

「ハサミをそんな風につかっちゃだめっすよー！」
「オマエラはハサミを入れられるみかんの気持ちを考えた事が一度でもアルノカ？」

ふのさんの物言いはみかんの主張ではね除けられてしまう。もうだめだ。ふのさんはやけになって魔弾をゼロ距離で発射し、ハサミと魔弾がぶつかり合った。急激な魔力の干渉が発生して、ふのさんは地面をごろんごろんと転がった。

口の中が泥でじゃりじゃりします。ふのさんは立ち上がろうとすると、黒い僧衣の裾が目の前に。見上げると、リリさんが手を差しのべている。その笑顔のまぶしさはまるでお天道様のよう。

「さあ、立ちなさい」
「あ、これはどうも」

ふのさんがリリさんの手を取って立ち上がると、重い右ストレートがふのさんの顔面にめりこんだ。続いて、首に手が回され、膝がお腹にめりこむ。

ふのさんのマジックシールドはメリメリと軋み、ガラス細工のように砕けてしまった。シールドの魔力が散逸し、きらきらしたものが空気に解けていく。

「シールドが破られた人は退場してね？」

ふのさんはすごすごと退場する。しかたないので、ふのさんは倒木を見つけてそこに座り、練習試合を見物することにした。

☆　まとめ

ふのさんは練習試合を眺めてうーむと唸る。

リリさんは次の得物を定めたようで、笑顔でゆうなのお二人を殴っていた。ゆうなのお二人も負けてはおらず、好きなアニメ由来の台詞やらポーズやらを交えて応戦している。戦列に戻ってきたななみねーちゃんは、アルゼンチバックブリーカーで担いだ陸さんをぶん投げる荒技を披露して奮戦している。みかんにはハサミを、鳥には歌をであった。

わけがわからない。

まあ、でも、と、ふのさんは苦笑する。こすぷれパーティのみんなのことも、みかん帝国のみんなのことも、もっとよく知りたいと思う。あの人たちが何を見て、何を考えて生きているのか、知りたい。

そして、みんなの親の顔が見てみたいですよ、ええ。