ENo.1383 キキウス・ヅーベング

前々回からの続きです。
不定期連載。前回までの日記はコミュニティ・ページに保管されています。たぶん。
暇な人は読んでみよう。
ついでに、小説に出てもいーよって人は伝言下さい。←けっこう本気で
キャラ名を考えるのが面倒くさい筆者が、キャラ名拝借致します。

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　【−ＡＣＴ．０２　男という名のいきもの−】

　　　　　　　　　　　　　　　１

　白煙が灼熱の大気を穿ち、螺旋を描いて地に爆ぜる。
　着弾点を予め想定してくれる電脳ナビゲーターがいなければ、今頃は火薬庫のど真ん中で右往左往していたことだろう。太陽光を反射し、灼熱地獄の中において全人類の生命を繋ぎ止めている高密度セラミックの壁を背にして、ビュコックは肩に装備された３０\x87oバルカンの残弾数に目を走らせた。
　一斉掃射にして、約３秒半。三点バーストに切り替えたとしても、４０秒は保たない。
　勝算があるとするなら、先ほどのミサイルで敵さんの長距離兵器がどうやら打ち止めらしいことくらいか。実に自分勝手な希望的観測に過ぎないが。
　高速熱源反応はゼロ。
　代わりと言っては何だが、Ａ・Ｇのジェネレーター反応が四つ、コンソールの半透過画面に映し出されている。移動速度から、砂賊が好んで使用する軽Ａ・Ｇ『ハンマーヘッド』と見て間違いあるまい。
　砂賊。
　それは、砂漠を移動するキャラバンや行商人を襲っては、金品や人命を奪ってゆくならず者の総称。
　彼らが規模の大小に関わらず一つの街を襲うことなど、いままで無かったことであった。報復を恐れてのこともあるが、砂賊が奪った荷や奴隷は闇商人の手に渡り、やはり街へと行き着いて浪費される。街を襲うということは、最終的に己の喉を自ら絞める行為だと、彼らとて理解しているのだ。街を襲った砂賊は、他の街の自警団からも、他の砂賊からも命を狙われることになる。
“だが、ここにきてどうだ”
　今月に入って、二度目の襲撃。それも、しっかりと編隊を組んでの攻略戦を挑んできている。これは論議するまでもなく、常識的に考えて「ありえない」ことだった。
　ありえないといえば、今の自分の立場もそれに相当する。
　己という存在を生み出した者たち。つまり、地球回帰教団の足跡を求めて放浪し、この街に流れ着いてほぼ二月が経過していた。
　補給の為にたまたま立ち寄った街であるが、ここの市長に請われ、こうして自警団の食客という位置にひとまず納まっている。最近は各地で砂賊の活動が活発化しているらしいのだ。まるで沈没する船の倉庫で、鼠が錯乱しているかのように。
　だから、ビュコックは街を離れることができない。
　市民の命を脅かす者を排除する。それが騎士の当為であると信じるが故に。
『機影四機確認。１０秒後に固定砲台から援護射撃３射いきます』
　無線からこぼれる電脳の落ち着いた声が、焦りそうになる心をほんの少しだけ鎮めてくれる。人間と遜色ない思考回路と、人間を大きく凌駕する演算能力を持つ電脳は、どこの街でも重宝がられた。それは偏にこの時代の技術力では生み出せない希少さにも起因している。
　体躯《ボディ》を失ったセラ・ドール。その末路こそが、この電脳ナビゲーターである。
　彼ら（彼女ら）は街の内外に設置された各種センサーやカメラの情報を一手に統合し、街の自衛において最適なアドバイスを導き出してくれる。この電脳がなければ、砂賊の襲撃を撃退するなど、夢物語であったろう。
　ビュコックは街を守る為に最適な指示を頼む、と電脳に伝えてある。それに対する返事はイエス。電脳は構造上、決して人間に対し嘘をつけない。
『騎士ビュコック。自走砲部隊が正面から突っ込みます。左手に見える砂丘の陰から接敵して下さい。チャフの散布は無用です』
「ふむ。了解した」
　だから、ビュコックは今度の戦闘にしたって自分たちが負けるなど微塵も思っていなかった。勝利を確証していた。
　おそらく電脳はＥＣＭでも展開させ、こちらの位置を攪乱してくれているのだろう。確かに熱源反応の強い自走砲が程良い囮となってくれる筈だ。敵編隊の脇腹にあたる位置から強襲し、接敵すれば、逆転の可能性も見えてくる。
　砂丘の陰をひた走りながら、ビュコックは少しでも銃身が冷えてくれることを願った。熱せられすぎた銃身では、正確な射線が割り出せない。
『銃身、まだあっついで〜。ちんちんやで〜』
「うるさい、だまれ」
　ので、ついつい各センサに割り当てられた音声サンプリングによる回答に、独り言で返事をしてしまう。
　ビュコックの駆るＡ・Ｇ《アサルト・ギア》、スナークＫは汎用性が高く取り回しやすい機体だと評価しているが、唯一いただけないのがこのサンドロップ機能だろう。機体を動かしたり、各種のセンサを稼働させる度に、機体を改造した人物の声で人心をいらつかせる返答をする。さっさと無効化したいところではあるが、金銭的余裕により後回しとなっているのが、ビュコックの懐事情だ。
“さて、うまく回り込めたか”
　砂塵を巻き上げぬよう、スナークの足周りにはサンド・シューに似たアタッチメントが取り付けてある。機動性を犠牲にて隠密性を取ったのだ。それらを手早く脱ぎ捨て、戦闘準備にかかる。
　バルカンの射線補正《シャリブレーション》は最初の一発目で自動補正されるようにセットし、セラミック製のブレードを予め引き抜いておく。
　そろそろいくぞ、とビュコックが覚悟を決めたその時だった。
《囲まれとんでー》
　索敵センサーが一斉にアラートを奏でる。
「なに!?」
　Ｅ属性を示す四つのジェネレーター反応。それらは、迫りくる自走砲には目もくれず、まるでキキウスの居場所を最初から知っているかのような動きで砂丘を包囲し始めていた。
「く、まずい…」
　街を背にすれば、流れ弾によって被害がでるかもしれない。となれば、のこされた道は突っ込むか、逃げるか。
　である。普通は。
「騎士は敵に背を向けん！」
　ビュコックは迷うことなく敵のど真ん中へと躍り込んでいった。
　バルカン掃射。その効果を確認する前に手近な敵へと斬りかかる。
　が、砂に足を取られて転倒。
　起きあがったところに斬撃を受け、右腕がねじり飛ぶ。
　まるで狼の群に追い立てられる兎のように、キキウスのスナークＫはいたぶられた。
「なぜ、ＥＣＭが利いてないっ！」
　頭の中では、自走砲に対し敵が程良く散開している予定だった。だが現実は程良く包囲されてしまっている。
　けたたましく鳴り響くＥＣ《エマージェンシー・コール》。もう、二度と聞きたくはないと願っていた音だ。
『おおっと、出力低下２０％オーバーに突入や！ぴーんち！ビュコック大ぴーんち！』
「やかましいっ！」
　追い打ちをかけるようにして座席スピーカーから発せられるサンドロップ機能に、これほど心を苛つかせたことが、かつてあっただろうか？本気でこの機能を付けた奴をぶち殺してやりたいと思ってしまった。
　こんなところで死ぬわけにはいかない。
　だが、現実にはキキウスの旗色は悪くなる一方である。敵は一定距離を取りつつ、銃撃によってスナークＫを追い立てる作戦に切り替えている。もう、キキウスに残された武器は近接戦用のブレードしか残されていないというのに。
『出力３０％低下。がんばるんや！足掻くんや！……でもな、もうゴールしてもええねんで？』
　うん、よし、殺そう。もし次に遭う機会に巡り会ったらのなら確実に。

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…継続が開くと、なぜか日記を後回しにしてしまうよね？