ENo.130 タマコ＝カネヤマ

様々な世界には旧年が無事に終わった事と新年を祝う行事があり、正月飾りをし、正月行事を行ったり正月料理を食べて盛大に祝っている。
セルフォリーフやアンジニティでも、新年を祝う者達は少なくない。特にセルフォリーフでは新年に祭りを行う店なども存在しており、一方アンジニティはそれほどの規模はないものの仲間達でそれぞれ酒やつまみを用意してはどんちゃか騒いで新年を祝う。
あたしもその時には神々の世界に戻って派手に飲み食いしてきたが、おそろしく飲みすぎた。酒には結構強いほうだが飲む量が多ければ酔いもする…、あたしはトイレに行って相当な量をリバースしたとかなんとか。よい子は飲み過ぎないようにNA！
酔った勢いで脱ぎ散らかした服を着なおし、二日酔いの薬を飲んだ後にあたしは麗入茄街へとやってきた。こんな駄目な大人が、天ちゃんの家に新年の挨拶に向かうのだ。
天ちゃんとゆーちゃんは新年早々もいちゃついているのだろう…、羨ましい限りである。

「本来なら元の昔の姿で挨拶に行きたいところなんだけど…、まぁ…一度死んでしまった以上この世界で下手に昔の姿を出す訳にはいかんよねぇ…。知人にあってもそっくりさんっていうのもなぁ……」

とはいえ、天ちゃんには既に練習試合で見せている。ついでに天ちゃんにはいずれ話しておきたかったことも全ても話した。
あたしはかつて天ちゃんよりも前に、蒼の決闘着の資格者として麗入茄街で戦っていた。あたしが死んだ後の獣たちの派手な登場の前に、既に街には獣が出ている。
スフィアも偶然はじめて遭遇した獣が銜えていたのだが、獣とあたしが接触しそうになった瞬間に獣だけが弾き飛ばされ、あたしの手元にスフィアは来た。そしてその力を手にして、あたしは獣と刃を交えてきた。
獣との戦いに身を投じてから数ヶ月…、あたしの身体には突然と変化が現れる。戦いの途中で急な発作が起こったり、胸が焼けるような苦しみを感じたり、味覚を失ったり、目に見えるものの彩度が落ちていったり…。しかしその原因は決闘着だけではなく、あたし自身にもあった。
あたしの身体は通常の人間よりも魔力成長が極端に遅い体質で、一定の時期が来ると急激に成長をはじめる。普通に生活している分には特に何も問題ないことだが、決闘着の資格者であるあたしには大きな問題がある。
蒼の決闘着は元々魔力の小さいものが使える決闘着なのだが、これを仮に魔力の大きなものが使ってしまうと最悪死に至る危険性がある。あたしの場合は資格者となった後にこうして魔力成長が始まってから、徐々に影響が出始めた。
魔力のキャパシティをオーバーすればするほどあたしの身体は蝕まれていき、ついには戦いの後に倒れてしまった。偶然その場にいた友人の手によって病院に運ばれたのだが、原因不明の病として扱われている。まぁ…、こんな力でこうなったなんて知るはずもないから無理もない。
命が尽きるまでのタイムリミットまであと数日…、あたしは見舞いに来た博士に全てを明かし、博士にスフィアを渡した。いずれ新たに現れる可能性のある資格者にこの力を託してくれるように…。
一度死んでからあたしは、神々の世界に魂が召喚されて新たな肉体にその魂をぶちこまれ、事実上の蘇生処置が施された。神様曰くセルフォリーフの異変と同時に起きた各世界の異変の調査ならびにその原因に対する処置をあたしに行ってほしいんだとか。まぁ…、その後にアンジニティの壁の一度がぶっ壊れると共にセルフォリーフにも影響が出たということが発覚し、あたしは神様からアンジニティへ向かうよう指示されたという訳。
まぁ…、既にあたしよりも前からアンジニティで調査を行っている使者が多く存在する為、休憩とったりするのも自由らしいが。しかし壁が見つかれば、即呼び出しものである。壁の修復には大勢の使者の力が必要とされるため、一人でもかければ成功確率もその分ちいさくなってしまうのだという。
壁の修復が完了次第おそらく次の役割が与えられるとは思うのだが…、既にセルフォリーフには多くの人々が別世界からやってきている。それに現代の蒼の決闘着の資格者の天ちゃんもいる。可能性があればセルフォリーフでの仕事はなくなりそう。
しかし今の天ちゃんをそのままにも出来ない。今のままではおそらくこの先ありうるかもしれない事態に彼は対応できないだろう。そうならない為にも、あたしは天ちゃんがさらに蒼の決闘着の力を引き出せるよう、その手伝いをしている。生前時代の時から天ちゃんのことはよく世話してたし、久しぶりに世話するのもいいものだ。
あたしの訓練についてきてくれている甲斐もあって、次第に成果も出てきた。この調子ならLv2への以降は近い。当初の予定よりもかなりはやいペースで伸びている。まぁ…、あたしの訓練の加減の無さもあるかもしれないが。

「まぁ…、新年くらいはゆっくりさせるのもいいだろう。…そうじゃなくてもだけどっ。ここんところちょっと力入れすぎてたからかなぁ…、天ちゃんの顔色も悪くなってきた気がしないでもないし」

今度はもう少し加減してみよう…、……でも加減は大体あたしの場合はへったくそだけど。またぶっ倒れそうになったらごめんな、天ちゃん。
ともかくあたしは新年の挨拶に天ちゃんの家に向かう訳だが、手ブラという訳にはいかないので、最近の年明けうどんブームで売れている年明けうどんセットを購入。ちょっと奮発して高めのものを選んだみた。
さて…、無事に軽い買い物も済ませたところで天ちゃんの自宅へ向かった。ちなみに普段アンジニティで乗ってるショッピングカートだが、現在修理中。それに変わって今は改造したパンダカーを移動手段にしてたりする。さすがにこの世界では乗れないが。
商店街から歩くこと数分…、久しぶりにあたしは天ちゃんの家にやってきた。現在はゆーちゃんと仲良く二人暮らし…、きっと夜はすごいことになってるだろう。

「うぉっ、何この車！？」

あたしの目の前に映ったものは一つの紅い外車、ロータス・エリーゼ111R。天ちゃんとは本来縁がないはずであろう外車が、一体何故！？
シャロお姉さんが来てるのか？いや、まだシャロお姉さんは天ちゃんの家には来たことがないはず。いやあたしが知らないだけってのもあるかもだけど。
しかしこの外車は一体誰が…。とにかくまずは新年の挨拶をしよう。ハッピーニューイヤーなんだよっ。
そしてあたしは、天ちゃんの家のチャイムを鳴らした…。

『おっ、タマコかぁ。新年あけましておめでとう』
「やぁやぁ天ちゃんあけおめだーよっ、挨拶に来たぞこんちくしょー♪」
『あはははは…、タマコさんも相変わらずのようで』
「その声はゆーちゃんかな。新年早々リア充なぅだねぃ」

しばらくすればドアを開いて天ちゃんがやってくる。手編みのセーター来てるじゃねぇの、ゆーちゃんお手製の。
そしてその後ろからゆーちゃんも。こちらも手編みのセーターか…、なるほどペアルックか。

「もらったお節が結構余ってるんだ。よかったら食べてく？」
「さんせーさんせー、ついでにお土産もくれてやろう。そしてそこの外車についてｋｗｓｋ！」

そしてあたしは天ちゃんの家にお邪魔するのだった。こたつでぬくぬくしつつ食べるお節ウマシ。
ちなみにあの外車についても聞いてみたが、ゆーちゃんの車らしい。すっごい意外すぎる。