ENo.1082 キータ

　わたしは旅人だけど、職業をと聞かれたら武器職人と答える。
　生きる手段として武器職人の技術を得ようとしたのがきっかけだったけど、今では一流の武器職人を志すようになった。

　わたしが武器作りに用いる手段は鍛冶職人のそれである。
　だけど、無数に存在する分割世界にはいろんな文化があって、それだけいろんな技術があるわけで。
　その技術の数だけ、いろんな種類の武器が作られるのは当然なわけで。

　未知との最初の遭遇は、子供の玩具なのだった。
『銀玉鉄砲』。武器作りの依頼をもってきたのは、ちっちゃい男の子。

「えっとね、これぐらいの大きさでね。バネ仕掛けでぎんだまがバキューンって飛ぶの」
「ばきゅーんですか！」
「うん、バキューンってぎんだまが」
「は、はじめてのジャンルですが、誠心誠意、がんばって作らせてもらいます！」

　身振り手振り付きで説明してもらって、完成予想図まで書いてから作り始めたのだけど、大変な苦労だった。

　最初は鉄で作ろうとしたけど、複雑すぎるし重くなるから失敗。ぷらすちっくという材料がないので、木を加工して作ることに。
　射出する弾丸も、銀が貴重で手に入りにくかったので、鉄の玉で我慢してもらうことに。
　弾を飛ばす筒とかバネ周りを鉄の部品で作って、なんとか期日どおりに予定したものを完成させることができたのである。

　だけど、弾を飛ばすのに使うバネだけはうまく作れなくて。さんざん苦心したあげく、以前に取引した機械の人、ウェアーさんから頂いた資材の中にあったものをそのまんま流用することになってしまった。

「これはマズいです……！　作れない武器があるなんて、武器職人としてのコケンに関わります！！」

　沽券と書く。難しい言葉って憶えるとすぐ使いたくなる。なんだかえらくなった気がするからにちがいない。
　ともかく、わたしは鉄砲みたいな構造がよく分からない武器でもちゃんと自力で作れるように、色んな技術を勉強することにしたのだ。

　◆◆◆

　最初に教えを請いに行ったのは、科学者のフリアミスタさん。
　セルフォリーフの旅人向けの新聞によると、最近売り出し中の科学者さんなのである。しかも科学を超えたすごい科学なのだとか。

　お話を伺ってみると、こんな言葉を頂いた。

「既にあるものをそのまま真似るこたないんじゃないですかね？　ほら，形と結果が同じならきっと問題ないですし」

　おお、なんて薀蓄のある言葉だろう。
　そうなのだ。銃と同じような形と結果が出るような武器を作れば、銃が作れなくても大丈夫なのである。

　つまり弾丸がまっすぐ飛んで敵に当たれば問題なし！

「…………もしや、銀玉鉄砲でも銃としては問題ないのでは？」

　実はすでに銃作成の技術はわたしの手の中にあったのでした。
　この前に字の勉強で読んだあの絵本と同じです。えっと、たしか“青い鳥を追跡せよ！”みたいなの。

　そんなわけで、わたしの銃作成の技術を探す旅は大団円に終わったのでした。

　◆◆◆

「でもそれだと既成の銃弾が使えないんじゃね？」
「えっ」
「ほらこれ」
「あっ」

　スティルフの街の片隅の食堂。
　昼食をご一緒した知り合いの本職のガンマンさんにその話をしたら、一般に流通してる銃の弾丸を見せられました。
　なんとそれは、わたしが前に作った銀玉鉄砲の弾とは似ても似つかないものだったのです。

　銀玉鉄砲の弾丸は鉄製の丸い玉でしたけど、銃の弾丸は丸くありません。
　なんだか細長いです。というか全然形が違います。

「こ・・・これが、いわゆる普通の銃の弾丸なんですか？」
「イエス。口径とか別にしたら、これがノーマルでオーソドックスな銃の弾丸なのだよ」

　つまりわたしの銀玉鉄砲では一般的な弾丸は使えないわけで、一般的な弾丸を使うガンマンさんの要求には応えられないわけで。

「あのあの、これぜひとも譲ってもらいたいのですが！　お値段とか、おいくらぐらいでしょうか！！」
「この辺じゃあんまり出回ってないけど、その道のお店にいけば普通にダースで買えるよー」

　そう、セルフォリーフは隣接世界との行き来が盛んなのである。
　あちこちの世界で使われている銃の部品や弾丸だって、まったく出回ってない訳がないのだ。

「そのお店！　その道のお店をぜひ教えてください！！」
「んー」

　慌てて頼むと、ガンマンさんは何故か急に真顔になってわたしを見る。
　透けるような空色の瞳に思わず息を飲むと、突然ガンマンさんはへらりと笑った。

「ダメでーす」
「えっ」

　ガンマンさんはちっちっちと舌を鳴らしながらピンと立てた指を振って。

「キータ君にはそのお店にいくにはまだ早い。なにしろ１８歳未満はお断りだからね」
「ええっ！？」
「代わりにその弾丸を譲ってあげよう。お代は出世払いでＯＫ！」
「しゅ、出世！？　あ、いえ、すごく嬉しいですけど！　でもそのお店はいったい……？」

　１８歳未満の人はガンマンになれないのでしょうか。
　そういえば、たしかに銀玉鉄砲を注文したお客様もちっちゃい男の子でした。

「それじゃグッバイ。銃が完成するの楽しみにしてるよん」

　謎を残したまま軽い足取りで去っていくガンマンさん。

　すごく美人でスタイル抜群のアイドルさん。でもなぜか銃のホルダーがたくさんついたメイド服を着てる。
　わたしにとって、この人はいまだに謎だらけな人なのである。

　◆◆◆

　そんなわけで、わたしは一般的に使用される銃の弾丸を手に入れたのだった。

　この弾丸が問題なく発射できれば、すなわちガンマンの人も認める銃だと言えるだろう。
　幸いにも、わたしは銃弾が発射される原理を知っていた。
　火薬は爆発したらなくなってしまう。だからといって、銃の弾丸と火薬を別々に銃の中に詰めるのはとても面倒くさい。
　つまり火薬は弾丸の中！　弾丸の後ろに火薬がつまっていて、爆発で先っぽの部分をばきゅーんって飛ばすのだ！！

「あとはこれを発射できるような構造に作ればいいだけですね・・・」

　もう時刻は深夜も深夜。スティルフから遠く離れた草原に張ったキャンプである。

　わたしはカンテラの灯りを頼りに、鍛冶道具の金床の上でさっそく慎重に弾丸を分解していた。
　弾丸の底の部分には、火薬とは別に起爆装置になる部品が入っている。ハンマーで叩いたらパン！ってなったから間違いない。

「ここを叩けば火薬に火が点くから・・・あとは、ここだけを勢いよく叩く叩く部品を作って・・・！」

　火薬を爆発させて弾丸を飛ばすという基本的なことが分かってしまえば、あとの構造は銀玉鉄砲とほとんど同じで良かった。
　ただし、爆発を漏らさないように、銃弾を込める部分と、弾丸が通る筒は特に注意して作らないといけない。
　銃を作るには精密さが大事。慎重に慎重に、わたしは銃の部品を作っていく。

　気が付くと、朝だった。

「完成しました……！　きっかり銃弾を固定してスプリングで勢いをつけたハンマーで銃弾底部の火薬に衝撃を与えることによって、銃弾を発射可能！　さらに発射された銃弾がぶれないように鋼鉄鉄製の精度の高いまっすぐの筒を通して補正！！　さらにさらに、なんと銀玉鉄砲みたいに連射できるように、銃弾を固定するパーツを回転式にしました！！！」

　すごい！　素晴らしすぎる！！　この銃をキータ式回転銃固定台座型連射可能銃と名づけましょう！！！

「このキータ式回転銃固定台座型連射可能銃があれば巨大竈馬は愚か、マンモスさんだってイチコロ！　一撃でコロリです！！」

　完成した銃のあまりの素晴らしさに、思わず立ち上がってお空に向かって引き金を引く。
　もちろん動作はテスト済み。カチリと音を立てて引き上げられるハンマー。

　バキューンと火薬の鳴る音がした。
　なんか耳がキーンとなって目の前が真っ暗になった。

　◆◆◆

「・・・で、立ちくらみで倒れちゃったと」
「ん」

　メイドでアイドルでガンマンさんの、呆れ半分楽しそう半分な声に、腐乱さんが頷く。

「こう、自分のテンションに体がついていけなかった模様です・・・」

　起きたときは腐乱さんの背中に揺られて旅の途中。
　慌てて下ろしてもらってから、平謝りに謝ったのは言うまでもない。

　時はすでにお昼。新たな野営地。
　なぜにこんな場所に、つい先日スティルフの街にいたはずのガンマンさんがいるのかは謎だったが、この人の謎を追ってもキリがないのであえて何も聞かない。それに今はもっと大事なことがあるのだ。

「これを見てください！！」

　わたしは、今朝完成したばかりのキータ式回転銃固定台座型連射可能銃をガンマンさんにお見せした。

「ちゃんと銃弾を撃てて、なんと台座を回転させて連射するのも可能です！　どうでしょうか！！」
「おー、一晩でここまで」

　わたしから銃を受け取ると、ガンマンさんは台座を回したり、銃身を覗いたり、一つ一つの部品を面白そうに見ていく。
　なんだがいつものお客様に作る武器よりドキドキするのは、はじめて作るジャンルの武器だからだろうか。

「ど、どうでしょうか？　キータ式回転銃固定台座型連射可能銃と名づけてみたんですがっ！」
「でもこれ、一般的にはリボルバーと呼ばれてるのだよ」
「えっ」

　ガンマンさんがホルダーから自分の銃の一つを抜いて、弾丸を抜いてからわたしに渡してくれた。

「ほらこれ」
「あっ」

　わたしの作った銃にそっくりさんだった。というか、部品の数とか精度がわたしの作った銃より良い感じ。
　つまりわたしの一晩は無駄だった感じで。

　そう思って顔を上げると、ガンマンさんに頭を撫でられた。

「よくできたわね。えらいえらい」
「え・・・でも」

　口ごもると、ガンマンさんがウインクして笑った。

「だって、銃を作れるようになるのが目的だったんでしょ？　これだけできれば本番はもっと良いのができるじゃないか」
「あ・・・は、はい！　次はちゃんと良いのを作ります！！」

　つまりは、巡り巡ってわたしが手に入れたものは銃作成の技術の基礎の基礎なわけで。
　ああ、でもやっぱりこれってあの絵本と同じです。あの“幸運の鳥捕獲指令！”みたいなタイトルのあの絵本。

If any of you find him， would you so very good as to give him back to us?
We need him for our happiness， later on.