・探索終了後、船内自室 「今日の探索も無事に終わり！」 「海底探索協会の最先端拠点、思ってたよりもだいぶ近かったですね」 　探索も終わり、いつものように所持しているアーティファクト船の自室に戻ったリリーは、机に向かい本日の出来事等を日誌として書き記していた。 　探索の成果のほかにも、水中の動きで違和感を覚えたことや魔術を使おうとした成果など、覚えていることを一つ一つ記していく。 「次の探索から、未探索地点での調べ物になるのかな」 「やっと冒険が始まる感じなのかなー、楽しみ！」 　まだ見ぬ新しい冒険を夢想し、顔がにやけた。 「——そういえば何人かに、私のことを『魔女』って言われたのがちょっと気になったかな」 「んー、この地域だと術士は『魔女』って呼ばれてたりするのかな？」 「言った相手に悪気はないとは思ってはいても、ちょっとびっくりしちゃいますね……」 　リリーのいた地域では『魔女』は悪魔と契約し、その強大な力を用いて社会に害をなす悪の存在とされている。 　また『魔女』は悪魔と契りを結ぶことで契約を行うともされている。 　ちなみに『魔女』と言っても男性の『魔女』も存在するらしい。 　『魔術師』は魔術という体系化された知識と方法を研鑽している、社会とは距離を置いている人も多い存在とされている。 　一部の地方では魔術の他にも豊富な知識を持ち国の運営等に助言を行う宮廷魔術師と呼ばれる人もおり、『魔術師』といえば知識が豊富な人というイメージが一般的になってきているようだ。 　魔術を行使するにはなにかしら必要な『なにか』があるらしく、知識としての魔術を知っていても実際に使える人はごく一部に限られる。 　魔術を行使する条件に関する研究も進められてはいるが、まだ詳しくはわかっていない。 魔術を行使できる魔術師の子供は高い確率で魔術を行使できるようになることがわかっているが、例外も存在することがよくわからないところだ。 両親ともに魔術とは無縁な存在であっても、ごくまれではあるが魔術を扱えるようになった例もあるらしい。 「どうせなら『魔女』よりも『魔法少女』って呼ばれたほうが好みかなぁ」 「『魔法少女』って伝聞でしか聞いたことないから、実際に存在するかどうかは知らないけれど」 　リリーが聞いた『魔法少女』は、かわいい少女がかわいい杖を振りかざしてかわいい姿に変身し、強化した拳や関節技を用いて相手を粉砕するという、少女たちの憧れとされる存在だ。 　よく考えてみると、変身以外に魔法の要素ってどこにあるのだろうと首を傾げる不思議な存在ではあるが。 「——さて、今日の日誌も終わり！」 「後はのんびりしましょうね」 　日誌を閉じ、椅子に座ったまま『んーっ』と伸びをする。 　明日はなにをしようかなと考えつつ、夜は更けていくのであった—— ・同時刻、長い耳の長命種たちが住まう森にて 「長老も今になって、出て行ったあの子を連れ戻してこいなんて指令を出すとは……」 「初動が遅すぎだろ！　あいつは今頃のんびり冒険を満喫してるんじゃねーの？」 「やつが狙われている、襲われる前に連れ戻せって言ってもなー」 　闇に包まれた森の中、暗い色の外套を羽織った三人の青年たちがわいわいと悪態をつきながら走っていた。 　外見年齢は皆20代前半ほどであろうか？　三人とも同じような顔立ちで髪をオールバックに纏め、尖った耳を誇らしげに誇示している。 　以前、置き手紙を置いて森を出て行ったリリーを連れ戻すために、森の長老（とはいえ見た目は若いのだが）が派遣した青年たちのようだ。 　なぜ長老がリリーを連れ戻そうとしたのか、それについては長くなるので次の機会に話すこともあるだろうか。 「そんなことよりも……」 「「「『テリメイン』っていったいどこにあるんだよ!?」」」 　リリーを連れ戻せと指令を受け明後日の方向へと走っていく三人の青年たち、彼らは無事にテリメインに辿りつくことができるのであろうか……？

リリーはアイテムNo.3 TGシェルボックス（低） を使用した。

	穏やかな海《セルリアン》

穏やかな波、暖かい水温。太陽の光を透かし、キラキラと輝く水中に、
光とともに舞うように鮮やかな熱帯魚達が珊瑚礁に集まる海域。

この世界の窓口である探索者協会からも程近いこの場所は、
色々なところから集まってきたバカンス目的の観光客や、
これから冒険に挑もうとするものたちで賑わっている。

比較的凶暴な生物もいない、穏やかな、冬でも温暖の海である。

ここ、最先端探索拠点を越えてしまえば、そこはもう未開の海だ。
リリー達のような探索者たちがどんどん先へ進めば、
後々海底探索協会が、このような拠点を設けていくのだろう。

この先はどんな危険が待ち受けていても不思議ではない。
誰も踏み入れたことのない場所なのだ。
準備を怠らず、慎重に進むといい。

どのような生き物が居るのか、どのような未知が、はたまた宝が眠っているのか。
それはこの先へ自ら進んでいく者にしかわからないのだろう。

海は、まだまだ先へと広がっている。