ジギスは再び、海を見つめていた。 日が照りつけるばかりの岩場で乾かしていた靴をひっくり返して、中に入り込んだ砂を落とす。 森の中、あのボロ家で延々と待ち続ける妹の顔を思い出して、 次はいつ帰ろう、今度帰った時は何を作ろう、などと考えていた。 ジギスの妹、シグヌータは病人らしく病的に、あらゆる記憶を忘れていく。 何が食べたいか、などとたまに聞いてみれば、必ずパスタと言う。 その定められた回答が、忘却のもたらすものなのか、彼女自身の意思かも定かではない。 病気ではなくとも、三日前の晩に何を食べたかを思い出すことは難しいのだから。 あるいは、彼女は忘れていくのではなく、初めから記憶などしていないのかもしれないが、 本当にどうでもいいことから、大事なことまで、シグヌータは忘れていった。 彼女が本当にどこまで覚えていて、どこまで忘れているのか、確かめることはできない。 それでも、少なくとも、兄であるジギスには“忘れている”と、確かにそう見えた。

	エコ
	「人魚の生き血伝説だなんて昔の話。 勝手な人間の都合のいい話だって、どっかの貴族どもが何度も証明してるだろ。」

傍をはためいていた蝶が、ジギスの肩に止まる。 おぼろげな光を纏ったそれは、 蝶はどこから声を出しているのか、少年のような声でそう言って、また飛び立った。

	ジギス
	「ハーン。じゃあ、妖精だって子供に言い聞かせるようなホラ話の住人だろ？ それなら森に帰って、街から攫ってきた子供と一生踊ってろよ。」

	エコ
	「おっと、街の子供はダメだ。なかなか妖精を信じちゃあくれない。 人魚だってきっとそうさ。お前が全く信じてないのに、実現するはずがない。」

	ジギス
	「……あのなあ。 信じれば叶うとか、そういう話じゃねェんだよ。」

まさに子供に言い聞かせるようなそれに、ジギスは苛立ちと呆れの混在した声で否定する。 それに対して、蝶は何でもない様子ではばたいていた。

	エコ
	「それじゃあ聞くけど、人魚の生き血が本物で、それが手に入ったとする。 それが万病を癒すものじゃあなくて、不死を得るようなものだとしたらどうする？」

	ジギス
	「…………。」

	エコ
	「お前は、一度でも。《もしも》のことを考えたことはある？」

	エコ
	「答えられないなら、やめなよ。 お前はお人好しのフリをして、“病気を治すため”っていう口実を求めていただけ。」

	エコ
	「お前が忘れられるのも当然さ。 あの妹様の傍に居づらいからって、ずうっと逃げ続けてるんだから。」

全くもって、その通りだった。 妖精が穏やかな口調で吐きだす言葉は、ジギスにとってはあまりにも鋭い。 何も答えられずに、何を言っても見苦しい気がして、 ジギスは何も言わなかった。何も言えなかった。 事実、日々を忘れていくシグヌータとどう向き合っていいのか分からないまま、 向き合おうとすらしないまま、今日まで辿り着いていたのだから。 何をしたところで、彼女はどうせ忘れてしまうだろう。 そんな考えはあるまじきことだ。 それは確かに、存在するべきではない考え事であった。 ただ、それとよく似たいい加減な気持ちが、全く無いわけではなかった。

	エコ
	「お前がそんな調子なら、お互いに忘れさせてやろうか？」

	ジギス
	「……うっせ。 お前がいなかったら、俺達はここまでこじれてなかったよ。」

内にしまい込んだはずの願い事を写し取ったような言葉を、妖精が耳元で囁く。 まるで悪魔のように問い掛けるそれを、手で払った。 ジギスはその場に転がしていた靴を履き直すと、慣れた手つきで靴紐を締める。 お情け程度に岩場を囲む小さな砂浜に飛び降り、貝殻の破片混じりのざらついた砂を蹴飛ばした。 舞い上がった白砂が日の光に照らされて、チカチカとちらつく。 青い空、青い海、白い雲、白い浜。 未知と冒険を匂わせ、どこか希望を感じさせる景色はあまりにも皮肉的で、 そこから逃れるようにジギスは一度、目を瞑った。そして、すぐに開く。 瞼を閉じている時間が長引くほどに、その瞼を開いた時、光が眼球の奥深くを刺し貫くだろう。 そうなってしまうことを、ジギスは知っている。 それだというのに、妹の存在からは目を閉じたまま、直視しないままでいた。 結局のところ、シグヌータがジギスのことを忘れ始めた瞬間、居場所がなくなって逃げ出したのだ。 妹の病気を治すための旅は、あの家に居たくなかったからだった。 それ自体は、今も変わらない。 妹の病気が治ってほしいと願う気持ちは決して嘘ではなかったが、 それでも、どうしても一つの不安が拭い去れないままでいた。 ———病が去った時、シグヌータは今までの全てを“思い出す”のだろうか？ 覆水盆に返らず。 病を克服したとしても、シグヌータは新しく“覚える”ようになるだけだろう。 傷が癒えるのは新しく作り直されるからであって、決して元に戻ったりしたわけではない。 今までに失った記憶を取り戻すことができるなどとは、ジギスには欠片も思えなかった。 何も知らない子供のように、いつまでも確証のない可能性を信じ続けることは難しかった。 今、他人となってしまった二人をかろうじて繋いでいるのは、不治の病だ。 病が治った時、シグヌータが何の過去も取り戻さないのであれば。 双子は今度こそ、道を別ち、本当の他人となるだろう。傍にいる理由が無くなるのだから。 それを見透かしたように、妖精は再び、笑い声をこぼしていく。

	エコ
	「僕がせっかく持ち掛けてやった取引を蹴ったのは、お前達自身だろ。 あの時、お前が一度『ハイ』と頷けば、こんなことにはならなかったのさ。」

	エコ
	「今からやり直してくれたって構わないぜ。 お前が僕に助けを乞うなら、妹様の病気はなかったことにしてやる。」

妖精の囁きに、ジギスは顔を上げた。 空の青よりももう少し青い、どこか不自然な蝶がはためいている。 その言外に“約束”を迫る妖精の意図に気付いて、ジギスは静かに首を横に振ってみせる。

	ジギス
	「…………いいや、やめておく。 俺達がお前との“賭け”に負けたことになるんだろ？それなら、しない。」

	エコ
	「ちぇっ。そうかい。 別に、それで構わないさ。無理やり連れていくのは面白くないからな。」

妖精は興味が失せたように、ひらりと飛んで行った。

	穏やかな海《セルリアン》

穏やかな波、暖かい水温。太陽の光を透かし、キラキラと輝く水中に、
光とともに舞うように鮮やかな熱帯魚達が珊瑚礁に集まる海域。

この世界の窓口である探索者協会からも程近いこの場所は、
色々なところから集まってきたバカンス目的の観光客や、
これから冒険に挑もうとするものたちで賑わっている。

比較的凶暴な生物もいない、穏やかな、冬でも温暖の海である。

ここ、最先端探索拠点を越えてしまえば、そこはもう未開の海だ。
ジギス達のような探索者たちがどんどん先へ進めば、
後々海底探索協会が、このような拠点を設けていくのだろう。

この先はどんな危険が待ち受けていても不思議ではない。
誰も踏み入れたことのない場所なのだ。
準備を怠らず、慎重に進むといい。

どのような生き物が居るのか、どのような未知が、はたまた宝が眠っているのか。
それはこの先へ自ら進んでいく者にしかわからないのだろう。

海は、まだまだ先へと広がっている。

——辺りは穏やかな潮の流れと、ちらほら入る光で暖かい。
まだまだ遺跡は先へ続いている……。

ジギスは周辺を探索…………。

焼ナマコを手に入れた！

ジギスは生命回復を購入した。

ジギスは敏捷を訓練した。
ジギスは敏捷を訓練した。
ジギスは敏捷を訓練しようとしたが、EXPが足りなかった。
ジギスは敏捷を訓練しようとしたが、EXPが足りなかった。
ジギスは敏捷を訓練しようとしたが、EXPが足りなかった。

ジギスはアイテムNo.5 ドレインを私有化！

スキルNo.3 シーリーコート をアイテムNo.4 機敏 で改造！
スキルNo.3 シーリーコート に 機敏 を付加！

スキルNo.3 シーリーコート をアイテムNo.8 生命回復 で改造！
スキルNo.3 シーリーコート に 生命回復 を付加！

目的の決定