研究記録１２ カールフェイス：魂の転写、波動共鳴に関しての記録。 波動共鳴、鏡写しの錬金術。 それは数多ある世界の何処へも、自らを転じ、重なり、上書きする。 ただし、それを成立させるにはいくつかの条件がある。 ひとつ、大本となる本体の存在から、その転写対象の『あらゆる形状』が掛け離れすぎていないこと。 ひとつ、大本となる『魂』が、あらゆる世界を束ねて時間軸においてただ一つのみであること。 ひとつ、転写される対象に存在する『魂』の存在力が、大本となる『魂』の存在力よりも強力ではないこと。 全ての条件を満たす対象にのみ、鏡写しの錬金術は発動する。 一部例外において、一時的転写、あるいは一時的な魂存の二重現象を確認する事は出来る。 この事から、基本的な成立条件としては生存を維持する程度の魂を持った錬金術人形。 本体のコピー程度のものが望ましく、成立確率が高い。 ──それならば、それで良さそうなものだ。 ここで問題となるのは、カールフェイスがそこまで理論を立てておきながら尚、強い自我を持った錬金術人形への転写実験を試みていた点。 少なくとも３例……No.XⅣ、マリアネッタ、そしてわたし。──それぞれが、カールフェイスそのもの、あるいはそこから派生した錬金術人形ではあるものの、波動共鳴の成立条件とは程遠い。 理論は理論として、実証をする為のサンプリング。その為の失敗実験という事になるのだろうか？ いや……だとすれば不可解な点がある。 そもそも、波動共鳴それ自体は、肉体限界のある人類の身を持った錬金術師「カールフェイス」が、久遠の時を錬金術研究に充てる為に産み出したものだ。 『黄金練成』を追い求めるに、人間の一生ではあまりにも短すぎた。それ故に、擬似的に無限の命を再現する為の手段として作られたのが鏡写しの錬金術・波動共鳴なのだから。 既に完成している理論を補強する為なら、実験としては「成立条件にほぼ近いが、わずかにずれている」個体で行う──といった内容になる筈だ。 不成立の許容範囲がそれで見て取れる。これは波動共鳴を確固たるものにする為の理論強化へと繋がる。 少なくともわたしとマリアネッタは、そのどちらともが、絶対に失敗する事はわかりきっている個体だ。そもそもが、そうした目的として造られていないのだから。 だとすれば、まだ何か別の意味がある……と考えるのが自然だが。 *  *  *  *  * 「メェメ、メェ～♪」 「あらあら…そうですの？」 「メッ、メン！メ～ウ、メェメ？」 「そうですわねえ……」 道すがら。 グラスゴーレムの腕にぶら下がりながら、黒肌羊が何事かを口に出す。 それに対して、適当な相槌を打ちながら、遺跡探索を進めていく。 信頼関係を得るには、相手を知る事。外堀を埋める事だ。 その為には他愛の無い会話も必要だし、相手に要望や困りごとがあれば、そうした事に対応してあげる事も必要だろう。 もちろん、相手との共通の友人を持ち、互いに友好関係を築く しかし、それにはひとつ問題があった。 かわいいお友達2号。この青色毛玉は、どうやらそれなりの知能を持っている様子に見える。 故に、ちょっとしたコミュニケーションのようなものを取ろうとしてくる場合があるのだが── どうやらこちらの言葉が、一切伝わらない、理解できていない様子なのだ。 発音・発声についてはヒトではないので、人語を発音できないのはわかる。 しかし、文字や絵に書いてみても全く理解が出来ていないというか──伝わっていない様子なのだ。 これは、知能のある生物に対する反応としては少しおかしい。違和感を感じるというか。 しかしまあ 支離滅裂ながらこちらの言を解していると思しきゴーレムと比べると、対応は簡単ではある。 要は頭のいいペットを可愛がるのと同様に扱えば、それで構わないという事なのだから と、そこまで考えて気づく。 （……あら、でもわたし、ペットを飼った事無いですわ…？）

	穏やかな海《セルリアン》

穏やかな波、暖かい水温。太陽の光を透かし、キラキラと輝く水中に、
光とともに舞うように鮮やかな熱帯魚達が珊瑚礁に集まる海域。

この世界の窓口である探索者協会からも程近いこの場所は、
色々なところから集まってきたバカンス目的の観光客や、
これから冒険に挑もうとするものたちで賑わっている。

比較的凶暴な生物もいない、穏やかな、冬でも温暖の海である。

ここ、最先端探索拠点を越えてしまえば、そこはもう未開の海だ。
セッテ達のような探索者たちがどんどん先へ進めば、
後々海底探索協会が、このような拠点を設けていくのだろう。

この先はどんな危険が待ち受けていても不思議ではない。
誰も踏み入れたことのない場所なのだ。
準備を怠らず、慎重に進むといい。

どのような生き物が居るのか、どのような未知が、はたまた宝が眠っているのか。
それはこの先へ自ら進んでいく者にしかわからないのだろう。

海は、まだまだ先へと広がっている。